9 金閣寺と彼

文字数 765文字

私の母もよく小説を読んでいたので私はわりと幼い時から日本の純文学者の名前を耳にはしていた。そしてやはりフツウの人とは違う運命(人生)を生きる(生きた)選択をしたのだろうということも幼いながらに感じていた。

彼と出会った時、後姿が気になった時、まだ彼が小説を書いていることを知る前から、きっと彼に危うさのようなモノを私は感じたのかもしれない。そして、そんな彼に私は魅了されていったのだろうと思う。

彼から三島由紀夫の小説を読んだと聞いて「三島由紀夫って凄い人が読むやつだよ」と私は彼に言った。(私の感じているイメージで)
彼は読みやすいよ。と教えてくれた。
私は題名を知っているものから読んでみることにした。
本当だ。読みやすい。『令和』という時代に読んでも違和感なく読めた。
さすがに『金閣寺』は敷居が高いと思ったが、彼は「実は金閣寺しか読んでいない」と言った。そして「金閣寺は凄くキレイだよ」と彼が言った。

私も『金閣寺』を読んだ。確かにキレイという言葉が当てはまる。不思議と読み進めるうちに頭の中に彼が出てきた。彼の存在が。『金閣寺』と『彼』がリンクする。何がだろう?小説の話なのか?主人公なのか?金閣寺なのか?わからないが本当に彼が重なる。
幻想的で危うさがあり、掴めるようで掴めない。存在感があるのに時間が経つと幻のように感じてしまう。
風船みたく。しっかり握っていないとどこかへ消えてしまいそうで。見えなくなってしまいそうで。『ふわふわ』ではなく『するする』と握っている手から離れてしまいそうな。

そうか。だから私はあの日、カラオケの後のエレベーターパンチの日。
私は彼を追いかけたのだと思った。
彼を掴まえておかないと。するすると、どこか手の届かないところへ行ってしまわないように。しっかりと握りしめておかないと。彼が消えてしまわないように。

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