序文

文字数 755文字

切り取られた時間に意味は無い。嘗て人生で経験したすべてのことを上回る夢を、一夜にして見、覚醒めるかもしれない。長い人生のたった一夜半の夢における理解が、ひとの一生分の体験を凌駕することもある。部分が全体を包摂する。まるで無数に細かい砂からできた砂丘から、一掬を手にすくい上げるよう。掌にすくい上げられた砂粒の数は、砂をどこまでもきめ細かく分割してゆけるという仮定から、数え切れないほどの無数であるが、それはこの砂をすくいとった砂丘全体に眠る砂粒の数と寸分同じであるという夢想。
胡蝶の夢を経験するのは、もしや明日かもしれぬ。ひとの生涯の重大さは、彼がその中で生きた一日と何ら変わらない。あるつまらない男の天涯を生きることが、全人類の歴史を生きるのと同じになることもある。部分が全体を包摂するこの耳慣れない説法を基にすれば、万物を内包する書物を物することも可能とならう。
”絶対書物”となるためには、テキストは無限の情報を有していなければならない。クローズドな石碑は情報量的に有限であり、全体なる無限と質的に同じくなることはないからだ。為に、私は文筆家が有限を回避する術として以下の流儀を支持する。すなわちジョイスのように、テキストに指称された一は一でなく、1をあらわす惣ての概念であり(パリのセーヌ川に浮かぶ一本の小枝かもしれず、ライプニッツの書き記す思弁的なモナドかもしれず、人称代名詞のI、つまりこの世に在り在りき在らざる(スム/スムフィ/ノンスム)すべての現存在を指称するかもしれない)、ある章に登場するある男は、ただ一遍の物語に在る登場人物の男ではなく、むしろありとあるこの世の物語に登場して、描写される未来のある全ての人物の変換概念であると象徴学的に定義する手法を、好むと表明するものである。許されたし。
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登場人物紹介

星野ほしの 羽海うみ


14歳。


母子家庭。父親が起こしたある事件をきっかけに離婚している。

白鳥しらとり 冷夏れいか


羽海の親友。小学生からの付き合いである。


ルナラー。

黒鳥くろとり 氷見子ひみこ


変人として周りから疎まれている少女。羽海と仲良くなりたがる。


ホーリズム信者。「全体は部分を通じては理解できないよっ!」

ストロベリー・マーセ


アメリカ人の福音少女。実力と人気はナンバーワンだが、少し独善的で仕切り屋なところがある。


本名アンジェリニア・アーロンバーグ。家族はクエーカーだが彼女だけカトリックに改宗した。

ニャナル


サーミの福音少女。オタクどもの頂点。登録チャンネルは最近ファッションブランドと提携した。


世俗主義者。

ルナ・ミルレフワーネス


ドイツの福音少女。全財産を慈善事業に投資している。ネット歌手としても活動中


本名ルナ・ジョイス。ユダヤ教徒。

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