(19)「あなたは今も、」②

文字数 3,144文字

 新型ウイルスの感染が広がってますね。学校が休校になって、夜更かしする人が増えているようで。最近になってこの番組を聴くようになったという学生さんが、まあそんな多くはないけれど、ちらほらといらっしゃるようです。

 だよね。
 ゴールデンウイークとか夏休みとか、明日も学校行かなくていい日が続くと、どんどん夜行性になっちゃう。わたしも、そうだった。

 若いリスナーが増えることは、いや。若くなくてもいいんですけどね。リスナーが増えるということは嬉しいことです。

 でも、この状況がいつまでも続くわけじゃないからね。ほどほどのところで、生活のリズムをキープしておくことも必要かもしれません。深夜ラジオなんてヤクザな世界にどっぷりと()からないで、いつでも堅気(かたぎ)の生活に戻れるよう、心構えはしておいた方がいいですよ。

 今はリモート授業なんていうのも行われているみたいですから、家にいるといっても昼間ずっと寝ているわけにもいかないんでしょうし。

 あれかしら。いかにも真剣に話を聴いていますみたいな画像をアップして、リモート授業をさぼるってことはできるのかしら? ほら、ミッションインポッシブルとかの映画で、敵の監視カメラに偽物の映像を見せて騙すシーンあるじゃないですか。あんな感じ?

 わたしはリモート授業なんて受けたこともないから分からないけど、もしよかったらそんな事情についてもメールで教えていただけるとありがたいです。

 あ。そういうことをやって報告しろって言ってるんじゃないですからね。誤解のないように。
 では、さっそく若いリスナーさんからのメールを紹介しましょう。

 ラジオネーム、太すぎる包帯さん。
 太すぎる包帯って何だろ?
 幅が広いのかな?
 分厚い包帯ってあるのかな?
 えーと。ごめんなさい。メール読みますね。

——ハナエさん、こんばんは。
  この春、大学に進学したばかりの大学一年生です。

 あら。おめでとうございます。
 いいなあ。前途洋々だね。ん? でもないのかな?

——高校の卒業式も、大学の入学式もなくなってしまって、悶々(もんもん)とした日々を送っています。

 ああ。そうか。
 新型ウイルスのせいで自粛生活が続いてますからね。
 今年が、ちょうど卒業とか入学のタイミングだった人。卒業式や入学式が出来なかった人は残念でしたね。謝恩会とか卒業旅行とかもね、中止になっちゃった人、たくさんいるんじゃないかしら。

 寂しいね。
 でも、月並みなこと言っちゃうけど、今は我慢の時だから。
 きっとその分、良いことが返って来るよ。
 いつか、わたしたちのときはウイルスのせいで卒業式も入学式もできなかったんだよなぁなんて、笑って言えるようになってればいいね。
 きっとそうなるよ。

——本来なら、とっくに東京で一人暮らしが始まっているはずだったんですが、荷物の減った実家の自分の部屋で、時々リモートで大学の講義を受けたりしつつも、悶々とした日々を過ごしています。

 悶々とした日々ってフレーズ、もう二回目ですね。
 よっぽど悶々としているのね。

——僕には、中学一年のときからずっと好きな女の子がいるんです。その子とは同じ高校に進学して、六年間同じ学校に通ったにもかかわらず、結局、告白できずに終わってしまいました。
 
 おお。
 今までこの番組になかったパターンです。
 これまで、大人の魅力

をたっぷりにお送りしてきましたからね。
 わたくし、ハナエが、草木も眠るど深夜に、大人の魅力たっぷりに生放送でお送りしています、「あなたは今も、」。

 従来からの大人リスナーの皆さん、今とっても懐かしい気持ちで聴いてくださってるんじゃないでしょうか。初恋のこと思い出したりしながら、聴いてくださいね。 

——東京へ行けば離れ離れだし、ふられてもいいから卒業までに告白しようって思っていたんですけど、今年のバレンタインにも何ももらえなかったので、やっぱり告白なんかしてもどうせふられるだけだとか思ってしまったり、仮にOKされたとしても遠距離になっちゃうしとか、言い訳ばかりが浮かんできてしまって、ああ、どうしようどうしようって思っているうちに、高校は休校になって、卒業式も中止になって、彼女と会う機会もなくなってしまいました。

 あら。
 これは悶々しますね。してますね。
 
——こんなうじうじした男なんて、どうせ彼女からよく思われないよなあとか考えてしまって、それでも、東京へ行って新しい生活が始まってしまえば、気持ちもリセットできるかと思っていたのですが、新生活もいつになったら始まるのか先が見えない状況で、もうなんか、自己嫌悪の鬼みたいになっちゃいそうです。
 
 そうかあ。
 単に卒業式や入学式のセレモニーが出来なかったってだけじゃなくて、若い人にはいろいろあるわけだ。
 そりゃそうだよね。学生さんなんて、いわば学校生活が人生そのものだったりするものね。
 
 でも——。中学や高校時代に好きな人がいて、その人にちゃんと告白できた人ってどのくらいいるんだろう。

 たぶん、この、誰だっけ、ああ、太すぎる包帯さんか。あなただけじゃないと思いますよ。ていうか、太すぎる包帯さんみたいなのが普通なんじゃないのかなあ。
 好きな人がいたけど、告白できずに卒業でお別れでした。そんな人が主流じゃない?

 もちろん、そんな調査をしたことも見たこともないから、分からないんですけどね。
 多分、そうだと思うのよ。

 でも、そんなに悩んでいるというか、悔いている? という点では、太すぎる包帯さんはちょっと特別なのかもしれませんね。それだけその子のことが、本当に好きだったってことかな。

 大丈夫。
 毎度、すぐに身も蓋もないことを言うやつだって言われちゃいそうだけど、その子だけが女じゃないよ。

 それにもし、その子が、あなたにとって本当に特別な存在なのだとしたら、このままじゃ終わらないんじゃないかなって思う。あなたが終わらせようとしても、ね。

 何を気休め言ってんだって思ったでしょ?
 でも、案外、っていうか、わたし、ちょっと本気で言ってるんですよ。

 それは……、

 まだ誰にも話したことないんだけどね、わたし自身が、少し前に思いがけない再会を果たしたから。
 まだこの番組を始めて一年経たない頃かな。
 詳しいことは内緒だけどね。
 
 何て言えばいいのか。
 縁とか、赤い糸とか、そんな言葉はどれもしっくりこないんだけど、当人同士には分かる、そんな結びつきがね、あなたと彼女の間にもあればいいなって、思います。
 
 わたし、オカルト的な話は信じないけど、でも、人と人の縁っていうのはある気がするんだよね。良い縁ばかりじゃないのも現実だったり、それが人生だったりするんだけれど。

 でも、まあ、もし、彼女とはこのまま終わってしまったとしても、これからどんどん新しい出会いがあるよ。まだまだ若いんだし。

 人を好きになるっていうことは、すごく素敵で大事なことだけど、すごく大変なことでもあると思うの。その大変さはさまざまで、当事者本人にしか分からないことも多いけど。でも、だからこそ、尊いって思えるんだと思う。

 少なくとも自己嫌悪なんて感じなくていいよ。それだけ一人の人を一途に好きになったことは無駄にはならないと思うし、そうやって今は自己嫌悪の鬼になってしまっていたとしても、それすらもね、きっと無駄にはならない。お姉さんはそう思います。

 ああ。なんか、こんな弟が欲しかったかもって、思っちゃった。はは。

 メールありがとう。
 がんばれ。
 いい男になってね。

 では、ここで一曲、お届けしましょう。

「僕が誇れること、君を愛していること」
 そんな一途な想いをうたった歌ですね。

 石崎ひゅーいさんで、「花瓶の花」——
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