~ACT2 変化~②

文字数 1,947文字

 その数週間後。
 ヴァルリは国王の執務室へと呼び出されていた。ヴァルリだけではない。その場にはリール、サミュー、ピューサの姿もある。

「何のご用でしょうか? 国王様」

 少々緊張した面持ちでそう口を開いたのはヴァルリだった。今回の呼び出しは異例の2ペア同時なのである。無理もない。
 広い執務室の中、ヴァルリの正面にある、自身の執務机の前に座っているラジェルはその美しい顔をほころばせながら言った。

「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ、ヴァルリ」
「そんなん言われても、俺ら4人同時召集なんて初めてやし……」

 そう言ってアメジストの瞳を不安に曇らせているのはサミューだ。サミューの言葉を受けてもなお、ラジェルは楽しそうに笑っている。

「何、たいしたことではないよ。今後の君たちの行動のことを伝えるだけさ」
「今後の行動?」

 ヴァルリの疑問の声に、ラジェルの笑顔はますます深くなる。そしてヴァルリたち4人を一通り見回してはっきりとした声で言った。

「今後は、この4人で行動すること」
「……」

 執務室内に沈黙が降りた。いや、その場の空気が凍ったと言った方がしっくりくるかもしれない。実際に凍っているのは、今ラジェルから何を言われたのか理解出来ていないヴァルリとサミューだった。
 2人はそれぞれに自分のパートナーの顔を見やると、

「いまいち、何を言われたのか分からんのやけど……」
「相変わらずバカだな、サミューは。言葉の通りだろ?」

 サミューとピューサの会話を聞いていたヴァルリも、

「ってことは、つまり、どう言うこと?」

 聞かれたリールは少し困ったような顔になりながら、

「つまり、これからはここにいる僕ら4人で行動するってこと」
「「……、えぇ~っ?」」

 ヴァルリとサミューが口を揃えている。

 そもそも、ピュールヘルツの4人行動など聞いたことがない。ヴァルリとサミューの反応はもっともだろう。

「そんなに驚くことでもないだろう」

 事態を静観していたピューサが2人の反応に呆れ気味に口を開いた。それを聞いたリールは、

「ピューサちゃんは、なんでそう思ったわけ?」
「……、別に」

 興味本位で聞かれた言葉に、ピューサはそっぽを向いて答えた。リールはやれやれと苦笑いを浮かべている。

 そんな4人のやり取りを笑顔で見ていたラジェルが口を開いた。

「とりあえず、4人で行動することに異論はないようだね」
「異論も何も、またヴァルリと行動出来るんやったらありがたいわ」
「オレも! リールだけじゃ、ちょっと、な?」

 ヴァルリのターコイズブルーの瞳にじとっと見上げられたリールは視線を明後日の方向に彷徨わせている。
 ラジェルはその様子に苦笑すると、

「じゃあ、話がまとまったところで、ケイト」

 今まで影のようにラジェルの傍で立っていた秘書のケイトが、ラジェルの指示で4人に資料を渡していく。

「早速だが、4人には新しい任務に出て貰う。今ケイトが配ったものは、西の都モールのものだ。知っての通り、モールは漁業の盛んな都だが、最近になって怪現象が相次いでいる。その資料がこれだ」

 4人はそれぞれ資料に目を通した。

 1枚目の資料は大量の魚の写真だった。ただし、ただの魚の写真ではない。死骸だ。その死骸は目がなくなり、窪みが出来ている。一様に肉が腐り落ち、水を含んだ体はぶよぶよとしていた。

 そして2枚目の資料を目にした時、ヴァルリは思わず口元を片手で押さえていた。

 そこには岩に打ち付けられた人間の死体が写っていたのだ。その顔は1枚目の魚同様、片目が腐り落ちていた。身体中の骨や肉は岩に打ち付けられたせいで潰れ、長い間海中にあったのか、死体は水を含んで膨張している。
 魚に食いちぎられた皮膚の間からは骨や内臓が覗いていた。
 この写真からは男女の区別すら難しい。

「リール以外には生々しい資料だと思う」

 ラジェルの言葉にヴァルリはとうとう資料を閉じてしまった。

「しかしこれが、今のモールの現状だ」

 そう言ってラジェルはこの2枚の資料の共通点を上げた。

 それは死因である。どちらも長い間海中にあって上がってこなかったのだと言う。

 ラジェルの言葉を聞いているうちに、ヴァルリとサミューは徐々に気持ちが悪くなってくる。そんな2人の様子を横目で見たリールは、

「我々がモールに赴いて、原因を調査、解決すれば良いのですね?」
「リールは話が早くて助かるよ。では、頼んだよ」

 早口で言われたリールの言葉に、ラジェルはこれで話は終わりだと言った。

 執務室から出たヴァルリは急いでトイレへと駆け込み、吐いた。サミューはすんでの所で堪えている。ピューサは相変わらず感情の読めない表情をしていた。
 ヴァルリとサミューの気分の回復を待って、4人は車で西の都モールへと向かうのだった。
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