プロット

文字数 2,685文字

【起】「ひきこもり娘と俺 ふたりだけの生活が始まった」

 若い頃から、頭脳明晰(ずのうめいせき)でスポーツ万能、と挫折(ざせつ)知らずな人生を歩んできた会社員、小嶋雄太。どんな事でも

なくこなせる彼は、「できて当たり前」を周囲にも求めがち。

 娘のかすみは両親の期待を一身に受け、進学校に合格して通い始めたところまでは順調に見えた。
 妻の小嶋夏子は、仕事人間である夫を支えるべく、家事と育児に専念していたが、娘の高校進学を機に仕事を始めていた。

 高校二年の二学期が始まった頃、かすみが、ほんの風邪ひきで欠席したことをきっかけに学校を休み始める。両親は「息抜きに二、三日も休めば復活するだろう」と楽観していたが、かすみは息切れを起こしたように、プッツリと登校しなくなった。

 しばらくすると夏子は、仕事とかすみのことで心労が重なり、倒れて入院してしまう。
 不登校になってすぐの頃は友人と会ったりしていたかすみだが、夏子が倒れたことに責任を感じつつも、どうにもならない自分を否定して、すっかりと家から出られなくなってしまった。やがて、中学生の時に好きだった、アニメやゲームに没頭するようになる。

 雄太はコロナ禍のために面会制限があるなかでも、定期的に夏子の入院先を訪れていた。
「家のことは、ぜんぶ僕にまかせて、ゆっくりと体をやすめなさい。しかし、きみがたいへんな時だというのに、まったく、かすみはなっておらん。夜中にゲームばっかりやっている」
 マルチな才能を持つ彼は、慣れないはずの家事もこなせており、「なんでも努力する父 VS とことん駄目な娘」の構図を作り出し、かすみを追い込むだけでなく、親子関係を修復したり生活を立て直したりする機会まで奪う結果となる。


【承】「事件発生 かすみがバブミに!?」

 かすみが引きこもり生活を始めて半年、いまでは完全に昼夜逆転の生活を送っていた。一日中パジャマで過ごし、頭はボサボサ。お風呂にすら入らない日もある。夏子がいた頃はリビングでとっていた食事も、最近は、雄太が作ったものを自分の部屋に持っていき食べていた。
 雄太はかすみの顔を見るたびに口うるさく言うだけでなく、彼女の趣味まで否定してしまうため、ふたりの仲は険悪だった。

 ある朝のこと、雄太がネクタイを締めながら、かすみの部屋の前に立つ。彼女にしてみれば、ちょうど就寝の時間だ。
「父さんは仕事に行ってくるからね。いいかげん、つまらないアニメやゲームなんかやめて、学校に行かないといけないよ」
 日々を無気力に過ごす娘が許せない雄太。返事がないので、つい声を荒らげてしまう。
「いい加減にしないか! 普通の子はみんな頑張っているんだぞ!」

「……バブ?」

 あわててドアを開けると、そこには赤子がひとり。いくら妻に育児を任せっきりにしていたとしても、我が子を見間違うはずがない。まぎれもなく、かすみだった。
 育児休暇は……さすがに無理があるため、雄太は三日間の有給休暇を取得する。


【転】「できる夫はベビーシッターだって呼べる」

 かすみを背負い、変装ではマスクにも助けられつつ、ベビー用品を買い込む雄太。離乳食や寝かしつけ、オムツ交換等々も、努力と器用さで切り抜ける。
 たいへんなことを夏子に任せっきりだった、と反省する暇もないほどに慌ただしく三日が過ぎる。

 雄太は会社に申し出て、在宅ワークに切り替えてもらうが、リモート会議中に哺乳瓶やオムツがパソコンの画面に映り込んでしまう。背景画像を変えてごまかすと、今度はかすみの泣き声が……。商品企画の一環や、お隣にお孫さんが来ている、とはぐらかしてその場をしのいだ。

 次の問題は妻、夏子のお見舞いだ。心配させないよう、かすみの件を秘密にするのはいいとして、赤子ひとり残しては行けない。そこで雄太はベビーシッターに依頼をする。
 やってきたのは伊藤さんという女性。雄太とはまったく違う価値観や人生経験をもっていた。この時の出会いがもとで、のちに雄太は多くの気づきを得ることになる。

 久しぶりとなったが、雄太は無事に夏子の病院を訪れることができた。
「ゆうくん、かすみは元気にしてる? あの子、最近メールもくれなくて……」
 かすみと夏子がメールのやりとりをしていたことを雄太は初めて知る。

 かすみのパソコンを開くため、彼女が好きだったアニメやゲームについて片っ端から調べる雄太。パスワードは、かすみが「()し」とするアニメのキャラクターだった。
 娘になりすまして夏子とメールのやりとりを始める雄太だが、気づかされることも多かった。送信履歴を見た雄太は最初こそ腹を立てたものの、かすみの本心を知って涙を流す。

「わたしが何かやろうとすると、いつもお父さん怒るもん。やる気なくすよ」
「なんでもできるお父さん、むかしカッコいいって思ってたけど、だんだんプレッシャーになって。それにね、何もできないわたしが嫌なの」
「お父さん、わたしがどんだけ辛いのか知らないくせに。わたしも学校行きたいけど行けない。どうすればいいか分かんないから一緒に考えてほしいのに」

 雄太は最初こそ、かすみを立派な人間に育て直そう、などと考えていたが、子育てを経験したり、周囲の人と関わったり、かすみの本音が(つづ)られたメールを見たりするなかで、思い通りにいかない育児や、言うことを聞かない子どもに対しての考え方を改める。

 子どもとは一見、無駄なことばかりしているように思えるが、あれこれ模索(もさく)しながら学んでいるのだ、と気がつくと、かすみの失敗する姿さえ(いと)おしく思えてくる。


【結】「Shall we 真夜中のドライブスルー」

 雄太は会社のデスクで目を覚ます。昼休みに寝てしまったようだ。かすみや家のことで疲れているためだろう。
 おかしな夢を見たのは、後輩にゲームの話を聞かされたためだ。なにやら、令嬢を自分好みに育てるといった内容で、(ちまた)では「育成ゲーム」というらしい。
 子育てのやり直しができれば、などと、よくもまあ馬鹿(ばか)げたことを考えていたものだ。

 娘のかすみだが、いまごろはもちろん夢の中。妻の夏子は現在も入院中だ。
 雄太は有給休暇を申請した。リモートワークへの切り替えも視野に入れている。かすみとゆっくり話をしたかったからだ。
 そして、深夜のドライブスルーにでも誘おうか、と考えていた。ボサボサ頭のパジャマ姿でも気にせず行けるかもしれない。ちょうど、ゲームの話題を仕入れたところだ。
 そのつぎはコンビニへ。(うま)いラーメン屋はどうだろう。ゆくゆくは夏子のお見舞いにも一緒に行ければいいなあ、などと想像しつつ、家路(いえじ)を急ぐ雄太であった。
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