第2話『第一のお願い』

文字数 2,311文字

 海の上を走る、黒い蒸気機関車。通称“無番汽車(むばんきしゃ)”は、世界中、あらゆる時代を巡る。
 そんな、不思議な汽車の、とある天井の隙間に、ピクシーたちの巣があった。ボロ(きれ)でできたそこに、針葉樹の葉の様な姿をした、5匹のキョウダイが、身を寄せ合って眠っていた。ドタバタ と、騒がしくなる前までは──……
「銀紙ってどこにあるの? 」
 最初の ドタバタ が言った。
「私の部屋にあるわよ! リク、ついてきて頂戴」
 2番目の ドタバタ が言った。
「ニック! 板はこっちだ」
 3番目の ドタバタ が言った。
「幅が広いなあ、扉をめいっぱい開けてくれ」
 4番目の ドタバタ が言った。
 ドタバタ たちは、気の済むまで騒ぐと、ピッタリ と何処かへ消えてしまった。

 その騒音に、すっかり目を覚ましてしまったピクシーたちは、むっつりと巣の中から抜け出した。
「全く、こんな早くから何かしら! 」
 先ず、口を開いたのは、キョウダイたちの中で、いちばん お(しゃべ)りの、リーレルだった。
「折角の快眠が、台無しだわんっ! 」
 キョウダイたちの中で、いちばんの気取り屋のチェーリターは、そう言って、自らの(ほお)()でた。
「でも、でもお、とっても(みんな)楽しそうだったねえ! 何かがあるのかも知れないよ? 」
 キョウダイたちの中で、いちばんの お調子者のパヨーニルは、ワクワク して言った。
「楽しそうだっただと⁉ オレ様たちの睡眠を邪魔(じゃま)しておいて、許せん! 」
 キョウダイたちの中で、いちばんの怒りん坊のオオッコーは、案の定、ご機嫌斜めだ。
 そんな中で、唯一、まだ巣の中に潜んでいるピクシーがいた。
「あら? トッテンビッターは? 」
 キョロキョロ と周囲を見回して、リーレルが(たず)ねた。
「どうせ、また巣の中で(おび)えてんだ! ほら見ろ、腰抜けめ! 」
 オオッコーが、イライラ して言った。
「ボ、ボクは腰抜けなんかじゃないっ! 」
 布の向こうから、か細い声と共に現れたのが、トッテンビッター。カレは、キョウダイたちの中で、いちばんの臆病者(おくびょうもの)だ。
「腰抜けじゃないトッテンビッター! それなら、オイラたちと一緒にサロンへ行こうよ。なんだかおもしろいことをやっていそうだよう! 」
 パヨーニルが言い、(ミンナ)がそれに賛成した。
「行こう、行こう! 」と飛んで行くキョウダイたちの背中を、ソワソワ と見つめていた、“腰抜けじゃないトッテンビッター”だったが、ようやく覚悟を決めると、「待ってよう」と後に続いた。

 7号車にあるサロンは、いつもと少し、違っていた。普段なら、乱雑に放置されている椅子たちが、大きなテーブルを囲う様に、行儀正しく中央に並べられ、汽車の従業員たちが、何やら会議を開いているみたいだった。
「何を話しているのかしらねん」
 チェーリターが言った。
「どうせくだらん話さ! 」
 オオッコーが言った。
「いいや、楽しい話に決まっているよ」
 パヨーニルが言った。
 そうして、一斉にリーレルを向いた。カノジョは、ピクシーのキョウダイたちの中で、唯一(ゆいいつ)、人間の言葉を理解できるのだ。
 リーレルは、ほとんど無いに等しい(あご)を指先で押さえて、「うーん」と(うな)ると、「クリスマスパーティを開くらしいわよ」と言った。
「クリスマス! 」お祭りが大好きなパヨーニルが(さけ)んだ。「最高じゃないか! 」
 一方で、ずっと不機嫌なオオッコーは、腕を組み、「ほら、くだらん話だった! 」と言い放った。
「くだらなくないわん。特別な日よ」
 チェーリターがオオッコーを(しか)った。
「それで、それで? パーティを開いてどうするって? 」
 “クリスマス”という響きに頭がいっぱいのパヨーニルが、続けて質問をした。
「ちょっと待って頂戴ね」
 頼られて、得意になっているリーレルが、澄ました顔でパヨーニルを制すと、「ふんふん、なるほどねえ」と首を上下に振った。
「どうやら、“プレゼント交換”ってものを、やるみたいよ」
「“プレゼント交換”? 」
 キョウダイたちは首を傾げた。
「それぞれが、いちばん だっていう物を持ち寄って、交換することよ」
 物知りなリーレルが答えた。
「それなら、オイラたちが適任じゃないか! 」“いちばん”という言葉に目を輝かせて、パヨーニルが大きな声を上げた。「ピクシーであるオイラたちに、集められない物なんてないからね! 」
「それもそうね! 」
 リーレルも、カレの言葉に(うなず)いた。
 数ある妖精の種類の中で、いちばん 数の多いピクシーたちは、ジブンたちの力を過信する(くせ)があるのだ。
「今こそ、オレ様たちの力を見せつける絶好の機会だ」
 いつもなら「くだらん」と終わらせてしまうオオッコーでさえ、張り切ってしまった。
「ところで、何を集めるの? スミレのお花とか? 」
 ミンナの話を、静かに見守っていたトッテンビッターが、(まゆ)を下げながら尋ねた。
「スミレのお花! どうせなら、もっと凄い物がいいわ! 」
 リーレルが悲鳴の様な声で言った。
「それならさ、それならさあ」
パヨーニルが ニッタリ と笑った。その顔を見て、トッテンビッターは身の内が凍える様な感じがした。嫌な予感がする。
「《サンタの灯火》なんてどうだろう? きっと皆ビックリしてくれるよ」
「あの(まぼろし)と言われている⁉ 見つかるかしら」
 パヨーニルの提案に、リーレルは不安そうに言った。
「ボクも、難しいんじゃないかと思う! 」
 トッテンビッターが言おうとした、その時。
「でも、面白そうね! やってみましょう! 」
 リーレルが頷いてしまったのだ!
 他の2匹のキョウダイたちも、パヨーニルの提案に満足している様子だ。
「そんなあ」
 こうして、ピクシーたちのプレゼントは、《サンタの灯火》に決まってしまった。
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登場人物紹介

名前:リク

性別:女

年齢:14歳

身長:159㎝

趣味:読書、オカルト


好奇心旺盛な中学2年生

名前:シンイチ

性別:男

年齢:30歳

身長:174㎝

趣味:動画投稿


無番汽車ロイヤルスイートルームに引きこもる謎の男

名前:アントワーヌ

性別:男

年齢:23歳

身長:175㎝

趣味:ポーカー、賭け事


無番汽車、赤髪の指揮官

名前:アダム

性別:男

年齢:24歳

身長:178㎝

趣味:いたずら、読書


無番汽車の炭鉱夫

名前:ニック

性別:男

年齢:29歳

身長:185㎝

趣味:酒を嗜むこと、人の話を聞く


無番汽車の炭鉱夫

名前:レア

性別:女

年齢:19歳

身長:168㎝

趣味:おしゃれ、恋バナ


無番汽車の美しきウェイトレス

名前:ゾーイ

性別:女

年齢:27歳

身長:166㎝

趣味:世間話


無番汽車の頼れるウェイトレス

名前:コリン

性別:男

年齢:19歳

身長:60㎝

趣味:ゆっくりする


無番汽車のスチュワート

名前:ミハイル

性別:男

年齢:一応15歳ってことにしてる

身長:160㎝

趣味:ごはんを食べる、ボーっとする


無番汽車、妖精のスチュワート

名前:チェンシー

性別:女

身長:140㎝


シンイチの身の回りの世話をする老婆

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