第4話 ずっと後悔してる事ってありますか?

エピソード文字数 1,353文字

【帰りたくないです】


少女の言葉が頭をよぎる。

(彼女なりに何か事情があるのだろうし、俺がこれ以上踏み込むべきでは……)


ってそんな訳にいかないか。


迷うくらいなら行動する、困っている人がいたら声をかける。


それが俺のポリシーだ。

「嫌われたら、嫌われただ」

自分の今の気持ちをしっかりと持った上で、俺は玄関から外に出た。

「よ、起きたらいなかったから、家に帰ったと思ったよ」
「……」

そう笑顔で語りかけると、少女は無言のまま小さく頭を下げる。

「何をやってたんだ?」
「空を……見てたんです」

少女はそう言って再度空に目を向けたため、俺もそれに倣い空を見上げる。

「何か変わった物でも見つけたのか?」
「いつもと変わらない空でした」
「まあ天気の良し悪しはあるが、だいたい同じようなものだろうな」

並んで同じ空を見ているのに、別のどこかを見ているようで、少女の存在はとても儚い。

「……あなたは、ずっと後悔している事ってありますか?」

「そうだなー。もちろん俺もあの時こうすれば良かったって思う事はある」

「でも後悔して立ち止まるのではなく、その失敗を取り返すには

 どうしたらいいかを考え、行動するようにしてるな」

「立ち止まらずに失敗を……取り返す」

少女は頭の中で言葉の意味を考えているようで、表情には今までに無い真剣みが感じられた。

「まあ結果的にはうまくいかなかったかもしれないが、

 状況が良くなる事を願って選んだ選択なら、

 その気持ちは忘れてはいけないと俺は思うな」

「そうですね」
少女はそう呟くと、目を瞑って黙り込んだ。

「何かあったのか? 別に無理に聞くつもりもないし、

 余計なお世話だと自分でも分かっている。

 でも君の姿を見ていると放ってもおけないんだよ」

「……お気持ちはありがたいです。

 でも、あと少し私が辛抱すれば大丈夫なので」

辛抱するにしても、この細い体で持つものなのか。

不安に駆られ、胸を締め付けられる。

「でも、無理だけは絶対にするなよ。

 困った時は助け合う、それが世の中うまく行く方法だからな」

「……そうですね、ありがとうございます」

「朝飯だけでも食っていけよ。

 昨日ご飯を炊いてないから、パンと目玉焼きくらいだが」

「いえ、大丈夫です。そこまでお世話になる訳にはいかないので」

遠慮せずにもう少し他人を頼ってくれれば、状況が変わる可能性もあるのだが。

「そっか。まあ、あんまり考え過ぎない事だ。
 考え過ぎるとろくな事がないしな」
「……はい。それでは失礼します、ありがとうございました」

少女はぺこりと頭を下げると、ゆっくりとした足取りで離れていく。

「あ、最後に! 君の名前は、名取 愛花か?」
「……いえ。弓月 葵(ゆみつき・あおい)です」
「弓月 葵か。悪いな、呼び止めちまって」
「いえ、それでは」

弓月は再度ぺこりと頭を下げると、駅前方面へと消えて行った。

『弓月 葵、良い名前にゃ』
『ルキアも聞いていたのか。
 そうだな、彼女の儚げな雰囲気にぴったりの名前だと思う』

【名取 愛花】と言うのは、ただの夢?


それに、彼女は一体何を抱えているのだろう。


【あなたは、ずっと後悔している事ってありますか?】


それは何を込めて発した言葉なのか。

とりあえず俺にできる事はやったので、後は彼女次第。


弓月が去って行った方向を少しの間眺めて、家の中へと戻った。

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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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