『湯けむりに消えた!?』
文字数 1,801文字
ぷはー。やっぱこれだよね。
この近く、温泉街になってるところあるじゃないですか。
仕事の関係で何軒かハシゴして泊まったんだけど、そのたびビールをしこたま飲んで。
それでもまたビールってね? カレーは飲み物に思えないけど、ビールは水だね。
そうそう。
それを持った観光客が昼でも夜でも浴衣着姿で闊歩していて。
なんかそういうのも風情があっていいなとは思うんだけど、なにせ、こっちは仕事で。
わざわざ別の温泉に入りに行かなくてもと、思ってたんですよ。
でしょ。
それで、ビールを一杯飲んで、飯食って。
そこの仲居にこの旅館の裏の方に秘境の温泉があると聞いてさ。
しとしとと降っていた雨もやんだし、話のネタに行ってもいいかなって、まぁ、実のところ、混浴ってのもそそられて。
俺だってテンション上がったのよ。
旅館の裏の出口からすぐ道筋になっていて、その秘境の温泉ってところに行けるのね。
自分の靴を持ってきて履いていってもいいけど、下駄も置いてあって。
それで、その道筋に下駄の跡がついてたんですよ。
上がり口に履き物もないし、脱いだ浴衣とかタオルも、なにもかも、ひとの気配がない。
その温泉場はとどのつまり。
その向こう側は川が流れてるし、道をそれたのなら、そのような足跡が残っているだろうけど、まっすぐ、一直線に温泉場に向かっていたんだ。