第23話 子どもの背中
文字数 1,278文字
優和は勇が気の毒でならなかった。
勇はやはり今回も自分の感情を出さなかった。
また諦めたように親の都合を受け入れるのだった。
優和はそれが勇のためだと思っても、やはり辛かった。
そしてこの前、自分が抱いた母親らしからぬ考えをひどく後悔した。
無防備にも親から与えられた運命を受け入れるしかない勇を前に、それはあまりに自己中心的で勝手極まりない感情だった。
それは自分より子どもを選ぶが、子どものために自分を捨てる覚悟はないということだった。
優和はその自分の甘さを悔いた。
その感情はまさに優和の母親としての感情だった。
優和は優和だったが、やはり母親だったのだ。
そして確かに自分らしさを求める欲望もあったが、目の前の子どもが愛おしくて切なくなる気持ちの方が優先された。
優和は勇の手を握っていたが、堪らなくなり、握っていた手に力が入った。
泣いてしまいそうだった。
でも勇のためにも絶対に自分が泣いてはいけないと思った。
勇は4歳でありながら、ここで泣いてしまう意味を本能的に理解してしまっているのだろう。
泣きたくても泣けない勇の辛さが優和を襲った。
優和は抱きしめられずにいられなかった。
でも抱きしめることはしなかった。
抱きしめることは勇のことを憐れむことだった。
それは、一生懸命生きている勇を否定することになってしまう。
その代わり、優和は勇の手を握りたい気持ちを強く強く引き離した。
でも握る手を離すことはできなかった。
勇は黙って俯いていたが、優和に手を握られるのを拒むことはしなかった。
優和はその後何をしゃべったのか覚えていない。
ただ勇のことが心配で、おかしくなりそうだった。
あれから勇は最後まで正人の顔を見ようとしなかった。
白黒はっきりつけてしまわなくてもよかったんじゃないか。
でも中途半端に父親でいることで、勇の感情が振り回されてしまうとしか考えられなかったのだった。
それはまた優和の都合だったのではないか。
優和はその考えを完全に否定できなかった。
まだ幼い勇の心に大きな傷を負わせてしまったことで、勇は一生人を信じられなくなってしまうのではないか。
優和は分からなかった。
正解があったら、教えてほしかった。
誰か助けて。
その自分の弱さが許せなかった。
勇はあんなに小さくても頑張っているのに、なんで自分はいつもこうなんだろう。
頑張らせてしまっている自分が許せない。
優和は自分を責めることしかできなかった。
目の前の正人が心配そうに優和を見ていた。
優和はその優しい眼差しを受け入れたかった。
でもそれを優和自身がどうしても許さなかった。
帰り道。
優和は、勇と二人で歩いていた。
優和はついに言わずにはいられなくなって勇に言ってしまった。
「ママがママでごめんね」
「ママがママだから好き」
優和は結局勇に励まされていた。
その一言で、優和はもうそれ以上自分を責めることをやめていた。
優和は自分が自分でいられたことを幸せに思えた。
勇はやはり今回も自分の感情を出さなかった。
また諦めたように親の都合を受け入れるのだった。
優和はそれが勇のためだと思っても、やはり辛かった。
そしてこの前、自分が抱いた母親らしからぬ考えをひどく後悔した。
無防備にも親から与えられた運命を受け入れるしかない勇を前に、それはあまりに自己中心的で勝手極まりない感情だった。
それは自分より子どもを選ぶが、子どものために自分を捨てる覚悟はないということだった。
優和はその自分の甘さを悔いた。
その感情はまさに優和の母親としての感情だった。
優和は優和だったが、やはり母親だったのだ。
そして確かに自分らしさを求める欲望もあったが、目の前の子どもが愛おしくて切なくなる気持ちの方が優先された。
優和は勇の手を握っていたが、堪らなくなり、握っていた手に力が入った。
泣いてしまいそうだった。
でも勇のためにも絶対に自分が泣いてはいけないと思った。
勇は4歳でありながら、ここで泣いてしまう意味を本能的に理解してしまっているのだろう。
泣きたくても泣けない勇の辛さが優和を襲った。
優和は抱きしめられずにいられなかった。
でも抱きしめることはしなかった。
抱きしめることは勇のことを憐れむことだった。
それは、一生懸命生きている勇を否定することになってしまう。
その代わり、優和は勇の手を握りたい気持ちを強く強く引き離した。
でも握る手を離すことはできなかった。
勇は黙って俯いていたが、優和に手を握られるのを拒むことはしなかった。
優和はその後何をしゃべったのか覚えていない。
ただ勇のことが心配で、おかしくなりそうだった。
あれから勇は最後まで正人の顔を見ようとしなかった。
白黒はっきりつけてしまわなくてもよかったんじゃないか。
でも中途半端に父親でいることで、勇の感情が振り回されてしまうとしか考えられなかったのだった。
それはまた優和の都合だったのではないか。
優和はその考えを完全に否定できなかった。
まだ幼い勇の心に大きな傷を負わせてしまったことで、勇は一生人を信じられなくなってしまうのではないか。
優和は分からなかった。
正解があったら、教えてほしかった。
誰か助けて。
その自分の弱さが許せなかった。
勇はあんなに小さくても頑張っているのに、なんで自分はいつもこうなんだろう。
頑張らせてしまっている自分が許せない。
優和は自分を責めることしかできなかった。
目の前の正人が心配そうに優和を見ていた。
優和はその優しい眼差しを受け入れたかった。
でもそれを優和自身がどうしても許さなかった。
帰り道。
優和は、勇と二人で歩いていた。
優和はついに言わずにはいられなくなって勇に言ってしまった。
「ママがママでごめんね」
「ママがママだから好き」
優和は結局勇に励まされていた。
その一言で、優和はもうそれ以上自分を責めることをやめていた。
優和は自分が自分でいられたことを幸せに思えた。