窓の開いた夜

文字数 473文字

カーテンが揺れるとき
それは誰かが窓を開けたときだった
明け方の月の消え入るような美しさを
悲しみで眠れないあなたに届けたくて
風船に繋げた手紙に
そっと私のフルネームを置いていく
口中に溜まっていく
やり場のない怒りと
日に日に膨らんでいく恐怖を
もう一度貧相な生活の中であたためたあなたと共に過ごした部屋の中で
お酒の肴にできたらと

後悔はないはず

部屋から見える病室の
朝食の光景に朝を感じるなんて
私の感受性はいつも冬に凍りつく
ペン型の細い光に照らされた
私の喉の奥の奥に
きっと今でも幸せは眠っている
眠ることでしか幸福を感じられない
そんなときがくるなんて
だから私は科学を信じずに
再現性のない非科学を信じてきたのだ

切り花が胃痛を和らげて
久しぶりの顔にあなたを思い出す
風の音に故郷の海を感じる
あの人の声が聞こえてくる
みそ汁の香りが漂ってくる
耳が遠のいていく
また夜がやってくる
今夜は月が見えるだろうか
逃げられない過去の不安より
空白の未来が私を恐怖に誘う
やりきれない思いは喉を傷つけて
絡まる痰の中に青春が凍っていく
いっそのこと後悔すらも凍るように
今夜もそっと窓を開けようかしら
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