第3話 白峰 楓蓮 2
エピソード文字数 4,205文字

お前ほんとソレが好きだな。安上がりな妹すぎる。
せっかくコンビニが近くにあるからな。寄って帰ろうぜ。
コーヒーやらお菓子でも買って、後は親父に請求すればいいだけの事だ。
そうする事で、親父だって早めに連絡が来るように教えてやらないと。あいつは最近俺に頼りっぱなしじゃねーか。
コンビニに近寄っていくと、駐車場でたむろしている女が二人ほどいるな。二人とも金髪だったので、ガラの悪い奴らなのは何となく分かった。
俺と華凛がその前を通り過ぎようとすると、横から急に「マブい」という言葉が飛び交う。その後で激しく息を飲み込んだ声がしたので、俺は女達に振り向いた。
あのー。何で俺の顔見てそんな驚いてるの?
口を開けたまま固まっているのは、ロングの髪のヤンネーっぽい方。ファッションもどこかの水商売系で、黒のガーターベルトだと? どこかのAVに出てそうなねーちゃんだなこりゃ。
そう漏らしたのはヤンキー女の小さいほう。
ショートカットで片目が見えなさそうな、鬱陶しい髪型だな。全身ジャージ姿なのはいいが、何故か木刀を持ってやがる。
何だ? もしかして俺の事を知っているのか?
ちなみに俺は、こんなヤンキー達に知り合いはいない。
ド田舎から引っ越して来たのに、俺達を知る者などいないはずだが、そんなリアクションを取られてしまっては、気になってしまうじゃないか。
あら。ヤンキー姉ちゃんは非常に腰が低く、謝ってくる。
意外なリアクションに、こちらまで態度が柔らかくなってしまう。
華凛を引っ張りながら愛想笑いで誤魔化し、コンビニへと入ろうとした――その時だった。
野太い男の声に思わず振り返る。
華凛だけは先にコンビニに入ったので、その様子を伺っていると、いつの間にかヤンキーやらチーマーやら、ガラの悪い男達に囲まれてしまっていた。
外観どおりのセリフを吐くと、小さいヤンキーは面倒くさそうに立ち上がり、木刀を肩にぽんぽんと当てながら、
ふふっ。やばいこいつ。
手当たり次第にケンカ売るとか、超危険人物だとすぐに理解した。
そのちっちゃい女は立ち上がると「掛かって来いよクソ野郎共が!」と叫び出した。
おいおい。こんな公衆の面前でケンカ始めるって言うのか?
くっ。笑いそうになっちまった。
全国統一っておい。志が広すぎるだろ。
ってかヤンキー姉さんは、虎と呼ばれた女の子の肩をポンと叩くと、溜息を吐いて立ち去ろうとした。その時だった。
え? 俺?
一人のスキンヘッド男がこちらに寄ってくると、俺をみるなりとんでもないスケベ顔になっちまってやがる。
うおっ。気持ち悪い顔を見せるんじゃねぇ。
楓蓮に対して発情しているような顔をされると、無性に気分が悪くなるんだよ。
ヤンキー姉さんがこちらに振り返るが、スキンヘッドは全然聞いていないようで、俺に対して「こいつも拉致ろう。めっちゃ好み」とか抜かしやがった。
しかも俺の許可なくこちらに手を伸ばそうとしてきたのだ。
その瞬間――
スキンヘッドの顔面に俺の拳がめり込んだ。
一撃でよろけた身体に反対側から思いっきりフックをかましてダウンさせないまま、一回転してのハイキック。全部スキンヘッドの顔にヒットした。
吹き飛んだスキンヘッドは再起不能だろう。
あの三連発をモロに食らって、立てる奴なんかいねぇから。
アスファルトにダイブしたままピクリとも動かない様子を見て、俺は内心ご満悦だった。
いやー。綺麗に決まっちまった。
鼻の骨折れててもしらねぇからな。勝手に俺の身体に触れようとした罰だ。汚らわしい。
周囲を見てみると、ヤンキー姉ちゃんを筆頭に、向こうのヤンキー男達まで固まってやがる。唖然というか、沈黙の空気が支配していた。
すまんな。俺はそこら辺の男よりも遥かに強いぞ
この程度の人数でボコれると思うなよ。

て、てめぇ、この女……やっちまえ!
俺に向かって来る長髪ヤンキーを止めようと、ヤンキーお姉さんがダッシュでつめ寄る。
するととんでもない跳躍を見せたと思えば、スラっと伸びた長い足が長髪ヤンキーの顔にめり込み、吹き飛んでしまった。
俺に対しては非常に礼儀正しいヤンキーお姉さん。
だが、後ろから男共が一斉にこちらに向かってくると、今度はちっちゃヤンキーが飛び掛ってゆく。
ってか二人とも面白れーな。
文句言いながら暴れるヤンキー姉さんは、とんでもない強さだった。
好き放題木刀でシバき回る全国統一ちゃんに、お姉さんの方は大技が多く、ダブルラリアットやら、柔道の内股とか、大外刈りなど魅せてくれる。
あっという間にヤンキー達をねじ伏せた二人を見て、この二人も……とんでもなく強いと認識していた。と言うのはどちらも無傷なのだ。
多人数の戦いだったにも関わらず一発も貰わないなんて、格闘の基本は勿論、相当ケンカ慣れしているのだろう。
やたら俺には優しいヤンキー姉さん。
手を合わせながら必死に訴える姿は、先ほどの激しくファイトしていた彼女とは全然違う。
そう言ってこちらを指差しているのは、またまたガラの悪い男達だった。
つまり増援部隊である。今度も六人いるぞ。
しかし、コンビニの駐車場で横たわっている味方を見て、増援部隊は明らかに戦意喪失していた。
そんな中、木刀を持って飛び込んで行くのは全国統一ちゃんだ。やる気満々すぎて笑えてくる。
しかも俺がお金持ってるから、華凛だけじゃ払えないじゃないか。
何食わぬ顔でコンビニでコーヒーを買って、華凛のおやつを購入する。
ちなみに中学時代では訳あって女として過ごして来た。
その場合、学校に行かないのは蓮だったので、夜な夜な俳諧しては好き放題やってたからな。こういうバイオレンスな状況にも耐性がある。
そして今回影の存在となるのは、楓蓮である。
影となる存在は、ヤバイと思えば、ほとぼりが冷めるまで外に出なければいいだけの話。いつでもその姿を消す事が出来る分、思い切った行動にも出れるって訳だ。
ふと読書コーナーから外を見てみると、既に勝敗は決したようだな。その時丁度赤い光が見えたと思ったら、ヤンキーお姉さん達は、ものの一瞬で姿を消していた。
ポリに見つかる前に逃走。お見事である。
迅速な行動にあの二人にも花丸採点を付けさせてもらおう。
俺達は普通に会計を済ませると、外では物々しい雰囲気となっていた。
警察官がヤンキー男達に尋問しているが、みんな白目になっており、普通に話せるレベルじゃねぇだろと思った。
俺と華凛はその横を無関係と言わんばかりに通り過ぎていく。
いやー流石都会だな。
人がアホみたいに多い分、こんな変な奴等も多いのだろう。
まぁ、たまにはデンジャラスな場面もアリかもしれないと思う俺であった。
そして大きな道路を渡り華凛と手を繋いだまま歩いていると、急に後ろから声を掛けられる。
振り向くとさっきのヤンキーお姉さんが走ってくると息を切らしながら俺に謝り倒すのであった。
きっと心配して来てくれたのだろう。でも本当に大丈夫っすから。
金縁の名詞はとても高価そうな雰囲気を漂わせていたが、その名前を見て俺は内心「マジかよ」と驚いてしまっていた。
山田組。
これは全国規模のヤバイ人たちの集まりじゃないか。
その下には「山田龍子(やまだりゅうこ)」と書かれていた。それが彼女の名前なのだろう。
とは言うものの、中々喋ろうとしない龍子さん。
さっきケンカ無双してた彼女とは明らかに違っていた。
とんでもなく恥じらいの顔を浮かべながら、意を決したのか小さな声で呟く。
まぁ名前くらい別に教えますけども、何かとっても喜んでらっしゃる。
そういい残し、とんでもないスピードで消えてしまう龍子さん。まるで台風のようなすげー速さで大きい道路を渡ってゆくと、あっという間に視界から消え去った。
何だか妙な人と出会っちまったな。
でも何となく良い人っぽいし、楓蓮で友達になれるかもしれない。
しかし、楓蓮は神出鬼没なのでいつ会えるか分かりませんけどね。
また会ったら会った時に考えりゃいいか。

左 山田 龍子(やまだ りゅうこ)
右 山田 虎子(やまだ とらこ)
複数人のヤンキー相手を無傷で撲殺。
ケンカのレベルは楓蓮が認めるほど。