DJ-100yen-coffieの、ウェンズデー・バイト・ミッドナイト!

文字数 3,124文字

「皆サンこんばんハ。DJ-100yen-coffieがお送りしているウェンズデー・バイト・ミッドナイト! 今夜も素敵なゲストをお迎えしましょう。続いてのコンビニ店員は、動画投稿サイトから火が点いて、今幅広い世代から人気爆発中! セブソンマート二番街バス停前店のアルバイト・佐野基次郎サンです!! 会場の皆サン、どうぞ温かい拍手でお迎えください。佐野サン! どうぞこちらに!!」
「いやぁどうも……何だか照れるね。ありがとう」
「今日はよろしくお願いしまス!」
「こちらこそ、よろしく」


「いやァ〜相変わらずサングラス似合ってますね! ブースの向こうにも、佐野サンのファンが大勢詰め掛けています。どうですか、皆サンの熱気!」
「ホント、すごいですね。僕もお客様には、いつも元気もらってます。ありがとうございます」
「それでは改めて、佐野サンのプロフィールを紹介いたしましょウ。地元神奈川で生接客を中心に活動する魂のコンビニ店員、佐野基次郎サン四十一歳。アルバイトデビューを果たしたのは……」
「ちょうど十年前ですかね」
「今年でバイト活動十周年! 枠に囚われない感受性豊かな接客力で、今までに数多くのお客様を魅了してきました。そんな彼を今日この場にお迎えいたしまして、あんなことやこんなことを聞いていきたいと思います!」
「どうも。わざわざありがとうございます……ハハ、本当にすごい熱気ですね」


「では佐野サン。早速ファンからたくさん質問が届いているのですが、読み上げてもよろしいですか!?」
「どうぞ。僕に答えられる範囲であれば」
「笑顔がニクイなぁ。それではまず、ラジオネーム『先割れスプーン最高!』サンから。【佐野さん、coffieさん、こんばんは】はいこんばんハ。【僕は現在中学二年生です。YouTubeで佐野さんの動画を見て以来、すっかりファンになりました】」
「これは嬉しいね」
「【僕も高校生になったら、コンビニでバイトを始めようかどうか、迷っています。佐野さんが接客に出会ったのはいつごろですか? いつから接客業を志すようになりましたか?】……というお便りが来ていまス。佐野サン?」


「そうだなぁ……僕が初めて『接客』というものを意識したのは、小学校二年生くらいですかね。その時はまだ『レジ打ち』があんなに感動的だなんて思ってなくて。そもそも『レジ打ち』で感動するなんて思ってなかったもん」
「レジ打ちで感動ですか」
「ええ。レジは自分で打つもんじゃなくて、才能がある上手い人じゃないとできないんだ、って幼心に決めつけてて。でも初めてレジに触れた時にね、カチャカチャ叩きつけられるリズム、テンポ……。もう心から持って行かれましたね」
「佐野サンは、大体いくつくらいからレジ打ちを始められたんですか?」
「中学二年の時にね、オヤジに中古のレジスター買ってもらって。もう夜通しボタンを叩き続けましたよ。初めはもちろん下手くそだったけどね……お釣りの金額間違えたり笑」


「そんな佐野サンも、今や日本を代表するレジ打ちの名手ですからね。佐野サンに憧れてレジを打ち始めた若者は、多いと思いますよ。それでは次の質問です。ラジオネーム『ウサギタピオカチキン』サン。【実際の店でメジャーデビューした時は、緊張しましたか? アルバイトをする際、これだけは気をつけてる事とかありますか?】」
「うーん。緊張ってのはなかったかな。あのころは仲間もちゃんとフォローしてくれたしね。ただ、メジャーに行っても、自分のテンポだけは見失わないように心がけていましたね。それはソロになってからも、ずっと」
「確かに大きな店舗に移って、ガラリと『接客性』が変わるバイトサンたちも多いですもんね」
「現場では『接客性』の違いから、残念ながら解散するバイトも今までたくさん見て来ました。僕なんかは、メジャーでもマイナーでも、やることは特に何にも変わってないんですよね」


「佐野サンを見ていると、メジャーになって、むしろよりお辞儀の仕方も洗練されて行っているような気がします」
「ありがとう。あと大事なのは『品だし』ね。どれだけ良い『接客性』があっても、実際の品物が無ければオーディエンスには響かないよね」
「なるほど」
「そして『清掃』。店員さんの中には、『清掃』をおろそかにする人も正直いますけど。毎日『清掃』することで、如何にコンディションを一番上まで持っていけるか。僕は重要だと思ってます」
「本当にその通りですね。佐野サンの『接客』をよくよく聞いていると、確かにすごく清掃の行き届いたストリングスが効いてるような気がします」
「ありがとう……効いてるかな?笑」


「続いてはラジオネーム『サラダ十円引き』サン。【佐野さんはアルバイトをやっていて、辛かったこと、もう辞めたくなったことってありますか?】」
「あぁ、ありますよ」
「えぇ!? 本当ですか!? 佐野サンクラスでも?」
「もちろん。何度だってありますよ。酷い失敗しちゃって、クレームもらった時とか。もうバイト行きたくないな、このままバックれちゃおうかなって今まで何度も」
「佐野サンはそんな時に、どうやって立ち直ったんですか?」


「立ち直ったというか……『接客』の悩みを解決してくれるのは、やっぱり『接客』なんですよね。お客様から辛辣な言葉をいただいて、悲しくなるのも『接客』。反対に笑顔をいただいて、嬉しくなるのも『接客』。どっちか一つじゃなくて、どっちも接客なんだよね」
「つまり接客しながらお客様の優しさに触れることで、徐々に立ち直って行ったと?」
「そうですね。もちろん、自分の技術をさらに向上していかなきゃいけないってのはありますよ。たとえば『レジ』が打てないって悩みは、僕はもう『レジ』に立ち向かっていくしかないと思うんですよ。そこで気分転換とか、切り替える事も、もちろん時には必要なんだろうけれども」
「ええ」
「でもそれに頼ってばかりだと、上手くいかなくなった時に、いつまでもいつまでも気分転換しなきゃいけなくなる。その間に、ライバルのアルバイトたちはずっと夜な夜な『レジ打ち』を練習してるわけです。この差が積み重なると……大きいですよ、本当。だから接客の悩みは、接客で。ギターの悩みは、ギターで。恋愛の悩みは、恋愛でね」
「聞いてるかな? 『サラダ十円引き』サン。そういうことらしいですよ!」
「難しく考えず、単純にね笑」


「さあ皆サン、ここでそんな佐野サンの新情報です! 佐野サンが十年前に結成していた伝説の青春ロックアルバイト、『最高賃金』が……なんと一夜限りで、復活することが決定しましたー!!」
「いやぁ……ハハハ。どうもありがとう」
「いやあ、あのレジ打ちがまた見られるかと思うと、私も今から興奮しております。伝説のシフトメンバー、G(勤)山崎健、B(勤)イシバシケンタロウ、Dr(連勤)佐藤恭平も、再結成ということデ」
「ええまぁ……全員コンビニに集合します」
「チケットのご予約は、この後すぐ! 電話とFAX、Eメールで募集しますのでどしどし応募ヨロシク!!」
「お願いします」
「それでは佐野サン! 最後に会場、そしてラジオの前のリスナーの皆サンに熱いメッセージをどうぞ!!」
「はい。…皆さん、セブソンマート二番街バス停前店で会えるのを楽しみにしています。皆で『いらっしゃいませ』と盛り上がりましょう! 佐野基次郎でしたーバイバーイ」
「佐野サン今日はありがとうございました! またお越し下さいませ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
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