第3話(7)

エピソード文字数 2,492文字

「初めましてで、名乗るとするか。ジブンは『角族(かくぞく)』の者だ』

 彼の体形服装は平凡だが、その他はやはり非凡。額には鋭い角が一本生えており、双眸は黒一色となっている。

「名は、リョウ。地元じゃ、ホープって呼ばれてるぜ」
「ほぉ、そいつはかなり強そうだな……。だが、お前は俺を殺せないぞ」

 ニッと口角を吊り上げ、傲岸不遜に息を吸い込む。
 これから発するのは言わずもがな、先程覚えた呪文。発動のキーワードだ!

「よーく見とけよ、三下。…………いくぜっ、壁起動ぜよ!」

 ふっふっふっふ。そうすると、俺に周りには――

「へっ?」

 なんにも、現れない。この身体に変化はなかった。

「? ?? フュルが昨日、膜のようなバリアーが出るって言ってたよな……?」
『間違いないぞ。俺も聞いた』

 同意どうもです、謎の声。

「すると、コレは……。不可視なのか?」
『持ち主が明言したんだから、必ず出てる。そうなんだろうな』

 だよね。持ってた人が教えてくれたんだから、出ていないワケがない。

「しかし……。そういう雰囲気はないんだよなぁ……」
『もしかしたら今は待機モードで、衝撃を受けた瞬間自動的に展開されるんじゃないか? フュルの説明不足は大いにあり得るぞ』
「そうだね。じゃあ適当に衝撃を受けてみよう」

 傍にある自動販売機ちゃんに、タックルしてみる。
 ドガッ ズキンッ
 ダメージをモロに喰らった! すっごく痛かった!!

「……そういう雰囲気は、どこにもなかったからな……。やはり、バリアーもなかったようだ……」
『お、おい……。どうなってんだコレ……?』
「魔王使いの時みたいに、言い方が悪いのか? かっ、壁起動ぜよ!!

 大声で唱えてみる。が、やっぱり変化はなし。
 う、うそだろ……。『金硬防壁』を作り出せないぞ……。

「お、どうしたんだ? 顔が真っ青だぞ?」
「………………よ、よーし。状況を整理しよう」

 ぼくは、防御壁を出せない。ぼくは魔王でも勇者でもないので、自分の力では『戦場空間』に出入りできない。


 ――結論。ぼくは籠に囚われた、逃げるしかできない一発当たったら死亡の超弱者。


「れ、レミア早く来て! 早く来てくれないと死ぬ!!

 状況を把握した俺は、血相を変えて声帯を震わせる。
 自分がこっちに移動したなら、魔王使い契約によりアンタも移動してるでしょっ。至急助けて!

「カカカッ、いくら叫んでも魔王様は来てくれねーぞ? この空間内に、ヤツの気配はねーからな」

 公園の方角に手を擦り合わせていたら、角族のリョウはほくそ笑んだ。
 え……? この空間内に、気配がない?

「はっ、そんな出任せ効かないっての。それは、俺が抵抗しないようにするための法螺だろ?」
「そんなんじゃねーよ。もし同じ空間に化け物がいたら、焦るっての」

 ぁ。それは、そうだ。

「つまり…………ここにいる味方は、0。どっ、どうしてなんだ……っ!?

 魔王使いと契約した魔王は、違う世界にはいられないんだぞ。どうなってるんだ!

『こりゃ、あれだな。「戦場空間」は空間なんで、違う世界にカウントされないらしい』

 謎の声、そだね。そういう、こっちには滅茶滅茶都合の悪い仕組みのようだ。

「な、ならっ、レミアフュル早く空間に入り込んで来て!! 早く来てくれないと死ぬ!!
「カッカッカッ。魔王様も勇者様も、すぐには入り込めないぞ?」

 リョウは、もう一度ほくそ笑む。

「自分の一族は、入り込み難い『戦場空間』を作れる特殊能力があるんだ。さしもの魔王勇者でも、相当な時間を費やすはずだぜ?」
「なっ、なんだよその能力は……。逆ご都合主事じゃねーか……っ」

 一番現れて欲しくないのが、最悪のタイミングで現れやがった。
 こんな障害があるなら、たとえ魔王使いの力で命令をしても無駄……。ケガをしない点が3つあるくらいで、単独行動をするんじゃなかった……っ。

「これぞまさに、絶体絶命ってやつだなぁ。どうする人間?」
「…………んなの、決まってるだろ。2人が来るまで逃げるんだよ!」

 いくら入り難いといっても彼女達は化け物で、5分もあれば突破できるだろう。そう考えた俺は踵を返し、ヤツとは反対方向に駆け出した。

「逃げて、逃げて、逃げ切ってやる! 絶対に生き残ってやるっ!」
「ムダな抵抗をするか。まぁいい、鬼ごっこと洒落込もう」

 ヤツは含み笑い、軽やかに地面を蹴る。けれど相手がスタートを切っても、それほど彼我の距離は変わらない。
 どうやら不幸中の幸い、走力は互角のようだ。

「助かった。これなら、どうにか凌げる――」
「人間! 鬼は一匹じゃないぞっ?」

 正面に別の角人間が現れ、俺は慌てて左に曲がる。
 そりゃ、そうだよなっ。万全を期すために、複数で攻めるわなっ。

「くそっ。何匹いやがるんだよ……!」
「それは秘密だ。てめぇで数えてみろよ!」

 横手から、小太りの角族が飛び出してきた。
 くっ。これで1対3か。

「口振りからするに、3匹で終わりじゃなさそうだな……。このままだと、5分以内に捕まってしまう……っ」

 逃走は、賢明ではない。ゆっくりと墓穴を掘っているようなモノだ。

「どうしたどうしたぁ! 降参するかぁっ?」
「そうしたら、死亡するからな! 作戦変更だっ!」

 俺は斜め前の道に入り、家路を進む。
 逃げられないなら、戦うまで。リビングにあるメモ帳を手に入れ、『チェンジ・マナ』で魔力に変換してやる。

「……あの力は超強力で、戦闘技術を必要としない。平凡人間でも充分やれる!」

 俺は歯を食い縛り、疾駆。鬼を警戒しながら、必死に家への道を突き進み、


「ここにもいるぞ! 観念しろ!」
「しつこいぞ人間! オマエは詰んでいるっ」


 途中で2体増え、計5体に追いかけられる羽目になったが――。どうにかこうにか、我が家に辿り着いた。
 よ、よし。反撃の始まりだっ!
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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