Prologue

文字数 668文字

 分厚いカーテンを開けると、外はすでに明るい。
 窓ガラスの向こうに広がる、レンガ基調の見慣れた街並みと、向こうの方に幽かに見える、石なのか黒レンガなのかいまいち材質がはっきりしない、不思議な色合いの城壁をしばらく眺めた後、少女はレースカーテンを引いた。
 白のインナーの上から濃紺の上着を羽織り、詰襟を留める。更に白い前身頃を重ねて、左右に六つずつある胸元の銀ボタンで留める。上着と同色の長ズボンを穿いた後、上着の後ろに腕を回し、コルセットのそれみたく編み上げられた紐を締め上げる。そして紐を隠すように茶色のベルトをウエストに通し、ズボンも同色のベルトで固定すると、ヒールの低いショートブーツを履く。
 つい先ほどまで生成りのネグリジェ姿だった少女が、ものの十分かそこらで、かっちりとした軍服姿に変貌を遂げた。
「……やっぱりかっこいいなぁ」
 姿見の前でくるりと一回転をした少女の口から、思わず言葉が漏れる。濃紺色をベースに、詰襟や上着の裾には赤い縁取りが施されたその服は、おしゃれ好きの彼女からしたら嬉しい誤算だった。
 この服を渡された日に感じたものと同じ、暖かな胸の高鳴りを感じながら、少女は肩甲骨あたりまである自身の薄ピンク色の髪を、右横に高く結いあげる。
 少女が部屋の外から名前を呼ばれたのは、全ての支度が終わった直後だった。明るい声で返事をした少女は、一瞬だけ、右目を覆う革製の眼帯の位置を確認してから、部屋のドアを開ける。

 ――彼女の名前は、チリエ・マクウォール。この春からカリト共和国陸軍の下等一等兵として採用された、少女兵だ。
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登場人物紹介

Cherie McWall《チリエ・マクウォール》

カリト共和国陸軍所属の下等一等兵。本作主人公。16歳。

右目に異能力を宿すライター。所持能力は【遠隔操作《サイコキネシス》】。

実は軍に恩があり、その時にリーアに憧れたのがきっかけで軍に志願した。

ちょっと向こう見ずなところがある、明るい少女。

Stock Diller《ストック・ディラー》

カリト共和国陸軍所属の大尉。チリエの指導役も兼任している。36歳。

右目に異能力を宿すライター。所持能力は【遠隔破壊】。

無気力不真面目の典型、かつヘビースモーカー。だが指導役就任以降は改善傾向にある模様。

同期であるジャックスとの仲は、本人曰く「普通」。

Reia Vost《リーア・ヴォスト》

カリト共和国陸軍所属の中等一等兵。24歳。前作主人公。

右目に異能力――ではなく第二精神(自称Avost《アヴォスト》)を宿す、特殊なライター。便宜上の能力名は【戦闘精神】。

普段は温厚で優しく人当たりもいいが、右目のみを晒して精神が入れ替わると性格が豹変し、冷徹かつ好戦的になる。

Jax Tear《ジャックス・ティアー》

カリト共和国陸軍所属の中佐。元リーアの指導役。36歳。

淡々とした語り口かつ、やや頑固。頭の柔軟性が皆無なことから「堅物」などと呼ばれ、一部からは敬遠されているが、本人は特になんとも思っていないらしい。

同期であるストックとの仲は「いたって普通なのかもしれない」とのこと。

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突如トルプの街に現れた謎の少年。チリエとリーアに対して何やらあるようで……?

Milkiss Circulet《ミルキス・サーキュレット》

カリト共和国北部にある国立の研究機関【カリト産業研究開発機構】専属の機械技師《エンジニア》。

過去にはリーアにプロトタイプの武器を提供したことがある。

左目に異能力を宿すレフター。所持能力は【極限集中】。

人と面と向かって話すのが苦手だが、機械研究への熱意は人一倍ある。

Glen Orwell《グレン・オーウェル》

カリト共和国陸軍所属の下等一等兵。チリエとは同期。

何かにつけて平均値及び中央値で、どこまでも平凡を極めているが、それでも「自分にしかできない何かがきっとある、いやあるに違いない」と信じており、それを探し続けている。

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