Prologue
文字数 668文字
窓ガラスの向こうに広がる、レンガ基調の見慣れた街並みと、向こうの方に幽かに見える、石なのか黒レンガなのかいまいち材質がはっきりしない、不思議な色合いの城壁をしばらく眺めた後、少女はレースカーテンを引いた。
白のインナーの上から濃紺の上着を羽織り、詰襟を留める。更に白い前身頃を重ねて、左右に六つずつある胸元の銀ボタンで留める。上着と同色の長ズボンを穿いた後、上着の後ろに腕を回し、コルセットのそれみたく編み上げられた紐を締め上げる。そして紐を隠すように茶色のベルトをウエストに通し、ズボンも同色のベルトで固定すると、ヒールの低いショートブーツを履く。
つい先ほどまで生成りのネグリジェ姿だった少女が、ものの十分かそこらで、かっちりとした軍服姿に変貌を遂げた。
「……やっぱりかっこいいなぁ」
姿見の前でくるりと一回転をした少女の口から、思わず言葉が漏れる。濃紺色をベースに、詰襟や上着の裾には赤い縁取りが施されたその服は、おしゃれ好きの彼女からしたら嬉しい誤算だった。
この服を渡された日に感じたものと同じ、暖かな胸の高鳴りを感じながら、少女は肩甲骨あたりまである自身の薄ピンク色の髪を、右横に高く結いあげる。
少女が部屋の外から名前を呼ばれたのは、全ての支度が終わった直後だった。明るい声で返事をした少女は、一瞬だけ、右目を覆う革製の眼帯の位置を確認してから、部屋のドアを開ける。
――彼女の名前は、チリエ・マクウォール。この春からカリト共和国陸軍の下等一等兵として採用された、少女兵だ。