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文字数 638文字

今にも降り出しそうな雨だった。
白く、どこまでも霧っぽく、澄み渡るほどに雲がかっていて。
私は、空を見上げる。彼と同じように。
何度目の空かしら。

……また、ここに来てしまったのね。

同じ空を見ることはない、そんな風に考えていた時期もあったかしら。
たとえば少女が大人になるまでに、見上げた空が同じ景色にはならないように。
同じに見えて、違う空。
同じに見えて、違う心。
同じに見えて、違える想い。
同じに見えて、違えた幻想。
私だけがそれを繰り返し、なぞる。
世界で一番ズルい存在。
もう一度、世界はあるべき方向へと収束する。そこに彼の望むものはない。
ここにある結末は数あれど、共通しているのは不幸だけ。
その身を破壊神のために捧げた、彼の悲しい末路。
少年少女は永遠の幸せを得る。その影に隠された墓標など知らずに。
私だけが墓場の在処を知っている。

何度も埋葬されては掘り起こされた、錆びた幻想の行方を――。

私はもう一つの物語を映し出す鏡だ。
逆さ写しの虚像は破り捨てて、鏡の向こうにある忘れられた世界を焼き付けろ。
降りだす雨に合わせて何度でも、声枯らして歌い、その身粉になるまで舞い踊れ。
――アン・ドゥ・トロワ。
――シャル・ウィ・ダンス?












アナタ、とても苦しそうね。
ずっと淋しそうに空を眺めて、記憶喪失にでもなったつもり?
――ねえ、私に付き合ってよ。
再び、物語は動き始める――。
天龍舞に導かれし少年少女たちの運命が廻りはじめた。

その先に待つのは絶対的な不幸だとも知らずに。

東方天龍舞、それは喜劇か悲劇か――。
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登場人物紹介

名前:伊夜龍騎(いや りゅうき)


本作の主人公。幻想入りする際に記憶の一部を失ってしまい、

この名前すら自分のものだという確信には至っていない。

性格は基本的に温厚で受け体質。表情差分が無いのはご愛嬌。

名前:博麗霊夢(はくれい れいむ)


博麗神社をほぼ一人で管理している健気な巫女さん。

境内に迷い込んだ龍騎のことを警戒しつつも、

何やかんやで一晩だけ泊めることに。

今回の異変で力が発揮できなくなってしまう病弱系ラスボスヒロイン。

名前:姫海棠はたて(ひめかいどう はたて)


妖怪の山を拠点とする天狗の新聞記者の見習い。

携帯電話型のカメラを使った念写でブログレベルの記事を書いている。

別件で飛んでいる文(あや)に代わり、

天龍舞という名の特大スクープを見つけてしまった。

名前:八雲紫(やくも ゆかり)


幻想郷の管理を行っている大賢者の一人。

ミーハーな性格なので新しいものが入ってきたとあって好奇心も旺盛。

自分以上に、幻想郷を愛してくれそうな人が現れるのを待っていた。

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