ミホ(お兄ちゃん。バカな妹でごめんなさい)

文字数 3,393文字

「フォロミー♪フォロミー♪フォロミーwww
 ベェェェイベーwwww♪」

これはユキオの歌声だ。
彼が精神に異常をきたしたのは前話で述べた。

ユキオは女性歌手グループに熱中している。
他のアイドル歌手とは一線を画しており、
本格的なダンサー集団だ。

いーがーるず、である。(あえてひらがな)

「両手をwwwww広げてwwwwwSky Highwwww」

「このまま飛べそうwwww君と出会ってwwwwはじめてwww
 自由になれた気がするよwwwwww♪」

「ひとりじゃないwwwそう思っているからwww踏み出せるwwww♪」

本人はこの上なく楽しそうだが、
家族にとって深刻なレベルで迷惑だった。

重低音は窓ガラスを振動させていた。

リビングには以前買い揃えたホームシアターシステムがあったが、
ユキオが勝手にハードオフで売ってしまった。

「音楽を聴くには音楽用のシステムのほうが良い」

マニアックな説明をされてもマリエには伝わらなかったが、
映画用と音楽用では根本的に作りが違うらしい。

ユキオはストレス解消の手段として音楽を選んだ。

たまたまテレビの音楽番組に、
いーがーるずが出演していたのがきっかけだ。
軍隊レベルで統制されたダンスの完成度に深い感銘を受けた。

(今読の若い娘もなかなかやるではないか。
 それに歌詞も良く聞くと、よくできている。
 この子たちの歌を聴いてると元気が出るぞ)

ライブに行こうかと思ったが、出かけるのが億劫である。
それにこの年のおっさんが会場に行くのは抵抗がある。
会場は10代から20代の若い人が中心だろう。

彼女らの曲を臨場感のある音で聴くためには
どうしたらしいか。もちろん自宅で聴きたい。

考えた末にたどり着いた趣味が

『オーディオ』だった。

オーディオ趣味とは何か。

主に自宅でスピーカー、アンプ、プレイヤーなどの
機器を揃え、『音楽鑑賞のレベル』を高める行為である。

ユキオは銀行に通ってないので平日は暇である。
すでに支店のことなど他人事だと思っていた。

ユキオは毎日本屋に通い、
オーディオの基礎知識を勉強することにした。
金を使うのがもったいないので立ち読みだ。
あいにくどの本屋にもこの手の本が必ず置いてある。

「重低音か」

両手で持った雑誌から顔を上げたユキオがつぶやく。

ダンスミュージックでは、床を震わせるほどの低音が要求される。
さらに現代音楽はコンプレッサーと言って、意図的に音圧を
あげる処理がスタジオで成されている。

これは、IPODやウォークマンなどの小型機器で再生しても
十分に音量が取れるようにしてあるのである。
(専門用語になるが、エフェクターの一種である)

端的に表現すると、Jポップの楽曲は、本格的な
オーディオシステムでの再生には向かないとされている。

「例えばクラシックを聴くためには。
 クラシック専用のシステムを組む必要がある……」

オーディオとは哲学である。
著名なオーディオマニアはそう語ったという。

スピーカーの種類は国外問わず無数にあるが、どれ一つとして
同じ音を奏でるものはない。人間のように個性(個体差)があるのだ。

スピーカーケーブル、プリメインアンプ、インシュレーター。

どれも聞きなれない専門的な言葉ばかりだが、
ユキオは職場では優秀な人なので、
趣味に全力を出すと覚えるのは光の速さだった。

「たまには小遣いで好きなものを買ってみるか。
 今まで子供のために尽くしてきたような人生だ。
 たまには贅沢をしてもバチは当たらないだろう」

彼の言う小遣いは、常軌を逸した支出につながった。

まず音楽を聴くためにCDやDVDは必須である。

彼は今まで発売した、いーがーるず、の全ての音楽メディアを
アマゾンで一括注文した。すでに発売済みで売り切れの
シングルは中古で頼んだ。

総額、実に13万。ライブDVDが特に割高だった。
贅沢な金の使い方であるが、
これでも下記に述べる買い物に比べるとまだ安い方だ。

ユキオはさらにアマゾンを利用した。

今度は、肝心のオーディオシステムだ。

現代録音の音楽にはそんなに高いシステムは必要ない。
マニアたちの助言を素直に聞き入れ、
まず買うアンプ(音量を調整する、音の司令塔的な装置)を決めた。

「初心者なので安物で良いだろう」

高級オーディオメーカーのデノンのアンプ。80万円。

(安物…?)

CDプレイヤーもデノンにした。
同じメーカーの方が、相性がいいのだ。
こちらは86万の品を選んだ。

さらにスピーカーは、外国製にするのが定番となっているが、
あえて日本製。パイオニアの高級機種を選んだ。

税込みで『317万』。これは1台の価格だから、
音楽を聴くためには当然2台買わねばならない。

それに加えてオーディオ・アクセサリーと呼ばれる
周辺部品を購入すると、総額は計算したくもない額になった。

ユキオはクレジットカードを使い、この買い物を
たった2週間で完了させたのである。

『芸術的な衝動買い』である。

子供一人を私立大学の院まで余裕で出せるほどの額だ。

「ちわーwwwwヤマト運輸っすwwww受け取りのハンコもらえますかwwww」

ミホの身長ほどの高さのスピーカー2台は、何の前触れもなく
本村家へやってきた。玄関先でそれを受け取ったマリエが
最初に思った事は「棺桶(かんおけ)?」だった。

丁寧に包装されたスピーカーのサイズは、まさに化け物級だった。

リビングのテレビの両サイドにスピーカーが占拠し、
床の上に直置きした、巨大なCDプレイヤーとアンプが鎮座する。

「実際に届いてみるとこんなに場所を取るのかね。
 あとでオーディオラックも買わないとだめだな」

誇らしく言う夫に対し、マリエは電気ポットを投げつけた。

「痛いじゃないか!!」 「私に何の相談もなくこんなものを!!

夫婦の良い争いは一時間以上続いた。

マリエが一番許せなかったのは、本当に金額が分からないことだ。
ユキオが個人名義のカードで払ってしまったからだ。

マリエが管理していない口座から引き落とされた。
本村家の財務大臣である妻ですら把握していない財産であった。

聞けば、家族に不幸があった時のために、保険として
とっておいたお金だという。

本村家は、日本株と米国株で分散投資をしている。
デフレで低金利だが株価だけはバブル並みという
日本の不思議な経済状況から、『積極的な株式投資』を続けていた。

ママ曰く、もうけは絶好調だった。

特に2017年。日経平均だけでなく、NYダウ平均株価も
素晴らしく好調。株の素人でも楽にもうけられる状態
とまで雑誌やネットで言われていた。

(↑初心者は信じてはいけない。
 資産運用の世界はそんなに甘くないのだ)

少し予断をすると、日銀はインデックス(ETF)で日経平均銘柄を
毎年6兆円ほど購入している。不動産投資信託(J-REIT)は900億。
今までにETFの買い入れ残高は20兆を超えており、
日本の株価を支えている。

日本銀行は安倍政権、財務省の言いなりである。
なぜなら日銀総裁の黒田君が政府の手下だからだ。
(日銀の独立性とはいったい……?)

株価の上昇は意図的に操作されている。

ここ数年の動きを見ると、現在までに記録的な低金利である。
そして安倍君たちが円安方向に誘導して輸出関連企業が
稼ぎ、また来日客には為替レートで損をさせる。

両替で損をしてまでよく日本に来るものだと感心する。
(来日客の落としたお金は、国家予算の4パーセントに匹敵)

とにかく株式のことは高度なので
筆者のような素人にはよく分からない。(←なら書くなよ)

日本株の保有者は7割が外国人であり、為替相場や
アメリカの政治状況などの影響を極めて受けやすいから困る。
(日本人の投資意欲は極めて低い…)

今年度一月の金融政策決定会合でも黒田君は、

「規制緩和、維持するよ♪ 
  識者らが気にする出口戦略? 知らないよ(^^♪」

その後の記者会見で

「物価上昇率(2ぱー)を達成するまで
  規制緩和を続けるからね♪!(^^)!」

などと、楽しそうにぬかしていた。(ように見えた)←偏見

米国は長期金利が上昇したのに(FRBの利上げ)、
日本は影響を受けないのだろうか。

平成30年の衆議院予算委員会にて。

野党のベテラン議員の男性に次のことを質問された黒田君。

『アベノミクスが好調なのに一般の国民のエンゲル係数は
 年々高まってんだけどー。なにこれ? いつになったら全ての国民は
 豊かになんのよ? お前の金融政策のせいだろ(>_
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