プロローグ

文字数 302文字

 電車の窓から緑の匂いがした。5月の風は、疲れ切った人たちを乗せる車内にも少しの安らぎをながしこんでいる。
窓越しにみえる闇夜に染まる緑はその美しい姿を眠らせているが、若々しい香りばかりは隠せない。
 もうすぐ駅に着く。駅前に大きな公園が広がるこの町に越してきたばかりの頃は、よく駅のベンチに座って緑が押し寄せてくる景色を眺めたものだ。月夜に輝く黒曜石のような緑は私の目だけでなく、心も癒してくれるものであったのに、今日は全てが滲んで見えた。

「ああ、それは君のせいじゃない。
君が悪いんじゃない。
君を育てた親のせいだから。
だから気にすんな」

こんな言葉を吐き出す口なら要らない。
そう思いながら、窓に寄りかかった。
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