第5話 何の卵を温めるか
文字数 1,691文字
「ごめんください」
令和の日本から来ました。インキュベーターのコアラの叡智と申します。魔法についてのご案内でまわらせてもらっています。
どうぞ。と声が聞こえたのでガラガラと引き戸を開ける。そこには、化学室が広がっていて三角帽子をかぶる2人の女子生徒が本を広げていた。
「オカルト研究部はコチラであっていますか」
「はい、間違いありません。インキュベーターと名乗られていましたが、入部希望者…さんではありませんね」
「残念ながら、入部希望者ではありません。学生はずいぶん昔に引退してしまいました」
部長の「おかりん」と名乗った岡部さんが訪問対象であった。部活中との事だったので、ご友人の「さとみん」と紹介された里美さんも同席している。
「単刀直入に言いますと、この世界は部活を描いた創作作品です。お二人とも作者、つまり、この世界を創造した魔法使いによって、岡部さんは魔法使いになる様に設計されています」
「なんとも信じがたい話です…確かに、わたし達って授業の記憶がないのです。寝ていたわけでもないのでしょうが、気がつくといつも部活中でして、不思議だとは思っていました」
「随分と落ち着いていますね。ちなみに、里美さんは魔術師になる様です」
教室の前面にある黒板に、魔法使いと魔術師をチョークで書く。ほほぉと頷きながら二人は時々見つめ合ってはにかんだ。
「少し先の話ですので、今日は契約書とインキュベーターの説明に参りました」
「よろしく、お願いします…」
「えっと、その前に質問良いですか」
里美さんの方が手をあげた。
「はい、なんでしょう」
「魔術師ってのは何をする人なのですか」
「きっと、創造主さんがイメージしたのは里美さんには道具を使った活躍を期待なさったのでしょう。また、魔法使いになる事を望まれた岡部さんは、おばあちゃんが魔法使いですものね」
「そうですね。インキュベーターさんの話だとわたしの祖母は、魔術師なんですね」
「そうかも知れません。しかし、後継者を育てて魔法を継承したので、魔術師だったとしても根源を目指した術者は魔法使いかもしれませんね」
2人に質問されるままに、自分の考える根源の説明と魔法使いを説明した。魔術師は道具を用いて魔法が起こす結果を求める人を呼び、魔法使いは根源を目指していると説明した。
「インキュベーターに成れるのは、魔法使いだけですか」
「実は試したことがないので、分からないのです」
ギアススクロールを取り出して、首をかしげる。果たして根源を探求しない相手と契約して良い物だろうか。
「ただ、インキュベーターと手を繋いで転移すれば、一緒に活動は出来ますよ」
「…そうですか。どうする」
岡部さんは、里美さんを見つめる。うん。と頷いた事を確認してから了承してくれた。「岡部春香」というサインが書かれると契約が完了した通知が届く。
「この度は、ご契約ありがとうございました。魔法が使える様になるのは、もう少し先です。使える様になったらコールを試して下さい。ボクに繋がります。少し魔法の材料を消費する事を忘れないで下さい。使いすぎには注意が必要です」
「分かりました。わたし達のオカケンにとっては新しいテーマが出来て大満足です」
あごの下で「Vサイン」が作られて、コアラの叡智は驚く。オカルトを愛する女子学生も変わっていくのだなぁと顔が緩む。
「インキュベーターのおじさん」
「はい、なんでしょう」
「おじさんは、冒険ってしなさそうですね」
「…そうですね。おじさんになると冒険が怖くなってしまうのですよ。必要に迫られないと極力しません。おじさんに言われたくないかもしれませんが、冒険の前の準備については遠慮なく質問してください」
「はい、今から魔法が使える日が楽しみです」
「おばあちゃんの教えの中の忠告を大切に」
彼女たちの様な卵ならば、多少の犠牲を払っても温めたいと思いながら帰還する。
この世界は丁寧に作られていると感心する。マナの漏れもなく、虫や獣の気配すらない。創造者はご健在だろうか。これが作品なら彼女たちの過去と未来が気になった。元の世界に戻ったボクは書店によってから帰宅した。
令和の日本から来ました。インキュベーターのコアラの叡智と申します。魔法についてのご案内でまわらせてもらっています。
どうぞ。と声が聞こえたのでガラガラと引き戸を開ける。そこには、化学室が広がっていて三角帽子をかぶる2人の女子生徒が本を広げていた。
「オカルト研究部はコチラであっていますか」
「はい、間違いありません。インキュベーターと名乗られていましたが、入部希望者…さんではありませんね」
「残念ながら、入部希望者ではありません。学生はずいぶん昔に引退してしまいました」
部長の「おかりん」と名乗った岡部さんが訪問対象であった。部活中との事だったので、ご友人の「さとみん」と紹介された里美さんも同席している。
「単刀直入に言いますと、この世界は部活を描いた創作作品です。お二人とも作者、つまり、この世界を創造した魔法使いによって、岡部さんは魔法使いになる様に設計されています」
「なんとも信じがたい話です…確かに、わたし達って授業の記憶がないのです。寝ていたわけでもないのでしょうが、気がつくといつも部活中でして、不思議だとは思っていました」
「随分と落ち着いていますね。ちなみに、里美さんは魔術師になる様です」
教室の前面にある黒板に、魔法使いと魔術師をチョークで書く。ほほぉと頷きながら二人は時々見つめ合ってはにかんだ。
「少し先の話ですので、今日は契約書とインキュベーターの説明に参りました」
「よろしく、お願いします…」
「えっと、その前に質問良いですか」
里美さんの方が手をあげた。
「はい、なんでしょう」
「魔術師ってのは何をする人なのですか」
「きっと、創造主さんがイメージしたのは里美さんには道具を使った活躍を期待なさったのでしょう。また、魔法使いになる事を望まれた岡部さんは、おばあちゃんが魔法使いですものね」
「そうですね。インキュベーターさんの話だとわたしの祖母は、魔術師なんですね」
「そうかも知れません。しかし、後継者を育てて魔法を継承したので、魔術師だったとしても根源を目指した術者は魔法使いかもしれませんね」
2人に質問されるままに、自分の考える根源の説明と魔法使いを説明した。魔術師は道具を用いて魔法が起こす結果を求める人を呼び、魔法使いは根源を目指していると説明した。
「インキュベーターに成れるのは、魔法使いだけですか」
「実は試したことがないので、分からないのです」
ギアススクロールを取り出して、首をかしげる。果たして根源を探求しない相手と契約して良い物だろうか。
「ただ、インキュベーターと手を繋いで転移すれば、一緒に活動は出来ますよ」
「…そうですか。どうする」
岡部さんは、里美さんを見つめる。うん。と頷いた事を確認してから了承してくれた。「岡部春香」というサインが書かれると契約が完了した通知が届く。
「この度は、ご契約ありがとうございました。魔法が使える様になるのは、もう少し先です。使える様になったらコールを試して下さい。ボクに繋がります。少し魔法の材料を消費する事を忘れないで下さい。使いすぎには注意が必要です」
「分かりました。わたし達のオカケンにとっては新しいテーマが出来て大満足です」
あごの下で「Vサイン」が作られて、コアラの叡智は驚く。オカルトを愛する女子学生も変わっていくのだなぁと顔が緩む。
「インキュベーターのおじさん」
「はい、なんでしょう」
「おじさんは、冒険ってしなさそうですね」
「…そうですね。おじさんになると冒険が怖くなってしまうのですよ。必要に迫られないと極力しません。おじさんに言われたくないかもしれませんが、冒険の前の準備については遠慮なく質問してください」
「はい、今から魔法が使える日が楽しみです」
「おばあちゃんの教えの中の忠告を大切に」
彼女たちの様な卵ならば、多少の犠牲を払っても温めたいと思いながら帰還する。
この世界は丁寧に作られていると感心する。マナの漏れもなく、虫や獣の気配すらない。創造者はご健在だろうか。これが作品なら彼女たちの過去と未来が気になった。元の世界に戻ったボクは書店によってから帰宅した。