第22話 源氏とキセキの物語、天皇賞春は王様の命令!?(6)

文字数 1,895文字

2004年5月2日、十六年前は今日と同じ日付での春の天皇賞だ。
そのゲートインは、スタンドからバラバラとした拍手が続いていた。
イングランディーレはスタートすると、押しながら先頭。
ザッツザプレンティが次を伺うが、ヴィータローザが2番手となる。
リンカーンは中段。
ネオユニヴァースはその後ろ、最後方から5頭目で待機だ。
最初の4コーナー、イングランディーレが2番手を5馬身離して先頭をキープ。
アマノブレイブリーが2番手進出、3番手にヴィータローザ、シルクフェイマス4番手、
5番手にゼンノロブロイ、ザッツザプレンティは6番手。
その後にリンカーン、さらに追走はネオユニヴァース。
ホームストレッチで各馬は歓声と拍手を受ける。
淡々とした流れで1コーナーを迎える。
2コーナーでイングランディーレは8馬身差を2番手のアマノブレイブリーにつけ、その離れた5馬身後にシルクフェイマス、そこから3馬身差ヴィータローザ、さらに3馬身差ゼンノロブロイとなる。
向こう正面、イングランディーレは2番手を10馬身以上引き離す。
遙か遠くを通り過ぎる馬の隊列にスタンドからは嘶きが沸く。
住民全員が同じ場所で同じこと、この令和の時代、競馬場で馬の応援がしたかったと口を結んで悔しがる。
競馬ファンとして普通の楽しみ。
『秋のG1こそは生観戦』と胸にその想いを抱く。

縦長の展開で、当然のようにイングランディーレが先頭。
全体の隊列を映すカメラが引き気味で馬が豆粒のように小さい。
もう、イングランディーレと後方集団という競馬だ。
ざわめきはひたすら続いている。
テレビに映る17頭の後方集団、イングランディーレはいない、カメラの先を走っているのだ。
イングランディーレのみが坂を下る、金縛りに掛かる後方集団とは、遂に20馬身差!
ざわめきがヒートアップする、『これは本物かも知れない』と気づき始めたように。
直線を向く、イングランディーレは先頭、まだ、10馬身差だ。
ざわめきと歓声がない交ぜになる。
相変わらず引き気味のカメラ。
ゼンノロブロイが2番手から追い詰めるが、5馬身差。
ジョッキーのムチに応えるイングランディーレの脚色は衰えない、逆に突き放しにかかる。
イングランディーレが悠々とゴールラインを切る、7馬身差。
ジョッキーのムチを掲げてのガッツポーズが競馬の怖さを示していた。
単勝7,100円、三連複は10番人気、4番人気、5番人気で211,160円。
三連単はまだ無い時分で、あれば恐ろしい数字のはずだ。
「いや、何とも言えないですね」
「こんなことってあるんですね」
鞍さんと惠が驚きを表す。
「まあ、展開は怖いっていうことだな」
グラスに着いた露を払う冴がそう言う脇では果凛がツインテールを振動させている。
「すげー、この馬、究極の逃げ馬じゃん」
逃げ馬好きの果凛が金髪を振り回してのトランス状態だ。
『いや、凄いのはこの後でさ…』の優に『まだあるの、何?』と住民たち。
モッツァレラで頬を膨らませた果凛は早く言えとばかりに優に鼻先を付けるように迫る。
シャウルスで頬を膨らませた惠が離れさせようと、手で優の頭を後ろに反らす。

ロイヤルアスコット、イギリス本国では王室主催レースの意味でロイヤルミーティングって呼ばれているみたいだけど。
優が説明を始める。
テニスのウインブルドン、ゴルフの全英オープンに並ぶ夏の有名なスポーツイベントだ。
ロイヤルアスコットでは女王陛下ご臨席を賜り、五日間も競馬が開催される華やかな祭典でもある。
去年はG1が合計八レース施行され、ロイヤルアスコット開催のアンバサダーに日本の騎手の第一人者が就任したのも話題の一つだ。
そのアスコット競馬場での芝の長距離G1、『ゴールドカップ』にイングランディーレは、天皇賞を勝った約一ヶ月半後に出走したのだ。
『長距離って?』惠は問うと『今は19ハロン210ヤード』に果凛の軽い蹴りで『メーターで言え』が入ると『約3990m』とのことだ。
淀の天皇賞より約800mも長く、『うぇ』と住民たちはギブアップを表明する。
「結局、イングランディーレはどうなったの?」
「確か、13頭立9着かな、勝ち時計は4:20:9のはず…」
「…天皇賞を大逃げで勝った直後、長距離のG1へイギリス遠征ですよね。慣れない環境の中、よく頑張ったと想いますよ」
王侯貴族たちの華麗な雰囲気のロイヤルアスコットでの競馬。
負けはしたけど、イングランディーレの挑戦は賞賛に値する。
住民たちは絢爛華麗な競馬に想像を馳せ、憧憬を抱いていた
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