詩小説『ケイコママの話』3分の光と影。全ての大人へ。

エピソード文字数 821文字

ケイコママの話

煙草の煙はライトに照らされ、柔らかに漂った。指先で灰を落とすその仕草。
氷がグラスを弾き、ひんやりした音がした。ママは静かに話を続けた。

二丁目、ゲイバー、ケイコママ。

乙女さながら、野太い声で、はしゃぐ娘たちを遠目で見てる。
やけに落ち着いてて、振る舞いは上品で、言わば女より女を嗜むそのママは。

ブランデーに浸す人差し指。氷と共に混ぜたなら片手で呑んだ。
羽織る薄手の上着。その中で見え隠れする肩は、色気が漂う。

どれほどまでに色濃い人生を歩んできたのか。
その胸元奥は深そうで。すべてを見透かされるような気がして。

諭すように、あやすように、口説くように、なだめるように、囁いた。
僕はラジオを聞くように、波音を聞くように、恋人の声を聞くように、耳を澄ませた。

語れぬ夢は、ひた隠す夢は、誰かを傷つける夢は虚しいばかりだと。
母も父も、どこで間違えたのかと悔やんだ。怒りと哀しみの真ん中で。

底抜けにエネルギーを振り撒く、あの子たちも過去をぶら下げて生きる。
傷跡引きずりながら、それでも自分を生きる。辿り着いた最期の、この居場所で。

ケイコママが、まだ圭吾君だった時の話。愛した男しか見えなかった。
ゲイ同士、影日向にて、密やかに蜜に愛し合った。

その男は私に別れを告げて部屋を出た。慣れ親しんだ田舎へと帰った。
その男の新しい恋人は女。本物の女を愛し始めた。

その女と籍を入れ、実家の家業を継ぐのだと。
青春の背中は影も作らず去って行った。

なにも言わずに、なにも言えずにただ黙ってそんな話を聞いていた。
話の最後に微笑んだママは少女だった。

帰ろうかな、まだ呑もうかな。
もう一杯だけ付き合ってと。
僕はママにからのグラスを差し出した。

この店が私の故郷。この店が私の家、家族。この店が帰るべき場所。
なにかを燃やさない限り、火はつかないのだと。

火をつけない限り、温まらないのだと。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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