第4話
文字数 1,273文字
散った桜の花びらが風に舞う四月下旬、おれは体育館で行われている剣道部の練習に汗を流していた。
結局、あの日剣道部の見学をして剣道部へと入部したのは、おれと木下だけだった。あとの連中は、他の部活に入部したり、アルバイトをしたいという理由から帰宅部になったと、木下から聞かされた。
やっぱり剣道って人気ないのかな。おれはそんなことを思いながら、木下と二人で打ち込み稽古に励んでいた。
見学の日、おれに対して屈辱ともいえる挑発的な発言をしてきた河上先輩とは、入部した次の日の試合稽古でぶつかった。もちろん、おれが河上先輩に対して試合稽古を申し込んだのだ。
「今年は根性のある一年が入ってきたな」
などといって、他の先輩たちはおれのことを囃し立てていたが、河上先輩はその太い眉をぴくりと動かしただけだった。
おれは河上先輩から一本を取ってやろうと躍起になっていた。中学最後の大会で優勝したということもあり、おれは少し天狗になっていた。高校の剣道なんて中学の剣道に毛が生えた程度のもの。そんな風にナメて掛かっていたのだ。
主審を買って出た棟田 という二年の先輩の掛け声で、試合稽古が始まった。
おれと向き合った河上先輩は、短く、そして大きな声で気合いを発した。
その瞬間、おれは飲まれてしまっていた。
動くことが出来なかった。
河上先輩の構えは、ごく平凡な中段構えだった。
だが、剣先がじっとこちらを睨みつけているかのように、圧迫感を与えてくる。
おれは誰かに後ろから羽交い絞めにされているかのように、動けなかった。
最初の一本は、河上先輩に取られてしまった。
大きく踏み込んでの面打ち。
まるで剣道の入門書に出てくるような、鮮やかな面打ちだった。
おれはその面打ちに対して、竹刀を動かすことすらできなかった。気づいた時には、面打ちを喰らっていた。そんな感じだ。
こんなにもレベルが違うのかと、おれはショックを受けた。
試合は三本勝負だったが、おれは河上先輩に飲まれたまま、何もすることも出来ずに敗北した。
あとで知ったことなのだが、この河上先輩は去年の県大会で準優勝をし、インターハイまで行った実力者だった。そんな河上先輩から、地区の中学生大会で優勝した程度のおれが一本を取れるわけがない。
おれは何も知らずに河上先輩に挑んだ自分の愚かさを痛感した。
それに見学をしていた時にレベルの低い練習だと心の中で暴言を吐いていた剣道部の練習も、実際にやってみると基本に忠実な練習であり、レベルは決して低いものではなかった。それを証拠に、試合稽古では河上先輩以外の先輩たちからも三本中、一本取れるかどうかという状態であり、まさに「虎穴にいらずんば」というやつだった。
剣道部の先輩たちは、どの先輩も面倒見が良く、おれと木下は入部して数日で剣道部の中に溶け込んでいき、楽しい剣道部ライフを送っていた。
そんな楽しい日々が続いていたある日、ひとつの事件が起きた。
他人にとっては他愛もないことかもしれないが、おれにとってはそれはそれは大事件ともいえるような出来事だった。
結局、あの日剣道部の見学をして剣道部へと入部したのは、おれと木下だけだった。あとの連中は、他の部活に入部したり、アルバイトをしたいという理由から帰宅部になったと、木下から聞かされた。
やっぱり剣道って人気ないのかな。おれはそんなことを思いながら、木下と二人で打ち込み稽古に励んでいた。
見学の日、おれに対して屈辱ともいえる挑発的な発言をしてきた河上先輩とは、入部した次の日の試合稽古でぶつかった。もちろん、おれが河上先輩に対して試合稽古を申し込んだのだ。
「今年は根性のある一年が入ってきたな」
などといって、他の先輩たちはおれのことを囃し立てていたが、河上先輩はその太い眉をぴくりと動かしただけだった。
おれは河上先輩から一本を取ってやろうと躍起になっていた。中学最後の大会で優勝したということもあり、おれは少し天狗になっていた。高校の剣道なんて中学の剣道に毛が生えた程度のもの。そんな風にナメて掛かっていたのだ。
主審を買って出た
おれと向き合った河上先輩は、短く、そして大きな声で気合いを発した。
その瞬間、おれは飲まれてしまっていた。
動くことが出来なかった。
河上先輩の構えは、ごく平凡な中段構えだった。
だが、剣先がじっとこちらを睨みつけているかのように、圧迫感を与えてくる。
おれは誰かに後ろから羽交い絞めにされているかのように、動けなかった。
最初の一本は、河上先輩に取られてしまった。
大きく踏み込んでの面打ち。
まるで剣道の入門書に出てくるような、鮮やかな面打ちだった。
おれはその面打ちに対して、竹刀を動かすことすらできなかった。気づいた時には、面打ちを喰らっていた。そんな感じだ。
こんなにもレベルが違うのかと、おれはショックを受けた。
試合は三本勝負だったが、おれは河上先輩に飲まれたまま、何もすることも出来ずに敗北した。
あとで知ったことなのだが、この河上先輩は去年の県大会で準優勝をし、インターハイまで行った実力者だった。そんな河上先輩から、地区の中学生大会で優勝した程度のおれが一本を取れるわけがない。
おれは何も知らずに河上先輩に挑んだ自分の愚かさを痛感した。
それに見学をしていた時にレベルの低い練習だと心の中で暴言を吐いていた剣道部の練習も、実際にやってみると基本に忠実な練習であり、レベルは決して低いものではなかった。それを証拠に、試合稽古では河上先輩以外の先輩たちからも三本中、一本取れるかどうかという状態であり、まさに「虎穴にいらずんば」というやつだった。
剣道部の先輩たちは、どの先輩も面倒見が良く、おれと木下は入部して数日で剣道部の中に溶け込んでいき、楽しい剣道部ライフを送っていた。
そんな楽しい日々が続いていたある日、ひとつの事件が起きた。
他人にとっては他愛もないことかもしれないが、おれにとってはそれはそれは大事件ともいえるような出来事だった。