雨の中の少年

文字数 1,655文字

 雨に濡れる少年を見つけたリタは、しゃがみ込んでその顔を覗き込む。しかし、少年に反応はなく、リタは心配そうに口を開いた。

「こんなところに居たら風邪ひいちゃうよ?」
 彼女の問い掛けに、少年は微かに瞬いた。だが、彼が言葉を返すことは無く、リタは溜め息を吐いて目を瞑る。
 
 その後、リタは少年をおぶって孤児院へ向かい、その入り口で少年を下ろした。そして、彼女はタオルを持って戻ると、少年の体をくまなく拭いていく。

 リタが小さな体を拭き終えた頃、少年は震える唇を大きく動かした。この時、少年の口からは悲しそうな声が漏れ、彼は泣きながらリタの体に抱き付いた。抱きつかれた者と言えば、少年の体を優しく包み込んだ。そして、彼を落ち着かせるように背中を叩くと、優しい声で話し掛ける。
 
「何が有っても、私は味方だから」
 リタは、そう伝えると息を吸い込み、更に話を続けていく。

「アランだって、トマス神父だって、君の味方。口には出さないかも知れないけど、大事だって思ってる」
 そこまで言ったところで、リタは口を閉じた。そして、少年を抱き上げると、ゆっくり食堂へ向かって行く
 
「今日はスープの余りが無いから、牛乳を温めるわね。凄く体が冷えているもの、中からも温めなくちゃ」
 少年は微かにリタに頬を寄せ、それに気付いた者は頬を緩ませる。その後、食堂に着いたリタは少年を椅子に座らせ、直ぐに調理場へ向かって行った。

 調理場へ向かった者は、十分もしないうちに食堂へ戻った。この際、彼女の手には大きめのマグが握られ、それを少年の前に置くと自らも椅子へ腰を下ろす。
 
「ほら、冷めないうちに飲んじゃって。マグを持っているだけでも温まるし」
 言って、リタはマグを少年の方に向けて動かした。対する少年は両手でマグを掴み、それを口元へ持っていく。少年は、温かな牛乳を一口飲むと、マグを口元に近付けたまま目を瞑った。

 この際、リタは少年の手の甲に刻まれた傷に気付き、慌てた様子で立ち上がる。
 
「救急箱を持ってくるわね。消毒して、傷口を保護しないと」
 そう言うや否や、リタは少年の反応を待つことなく食堂を出た。一方、少年は彼女を目で追い、細く息を吐きながら目を細める。

 食堂を出たリタは医務室へ向かって走り、その途中でアランに出会う。
 
「どうした、リタ? 廊下を走ったら子供に示しが付かないぜ?」
 青年の言葉を聞いたリタは溜め息を吐き、少年の状態について簡単に伝えた。対するアランは首を傾げ、片目を瞑って言葉を返す。

「それ、傷が深かったらお前の治療だけじゃまずいだろ。雨ん中に居たなら、毛布も掛けてやれ。俺が、使っていないのを持ってくるから」
 
 そう言って、アランは倉庫の有る方へ向い始めた。一方、リタは少しの間を置いてから医務室へ向かい、そこで保管されている救急箱を持って少年の元に戻る。すると、そこには青い毛布を抱えたアランの姿が在り、彼は抱えていたものを少年に掛けると退室した。少年は、アランに礼を言おうとするが間に合わず、リタも青年を呼びとめる事をしなかった。
 
 その後、リタは救急箱をテーブルの上に置き、少年の左手首を優しく掴んだ。この時、怪我をしてから時間が経ったせいか血は止まっており、リタは消毒薬を取り出すと傷口に掛けた。
 少年は、消毒液が傷に染みたのか眉根を寄せ、それに気付いたリタは苦笑する。
 
「ごめんね。でも、こうしないと傷口が膿んだりしちゃうから我慢して?」
 申し訳無さそうに言うと、リタはガーゼを取り出して傷口に乗せた。彼女は、それをテープで固定すると少年から手を離し、使い終わった救急箱の蓋を静かに閉める。

「はい、治療はお終い。治りが遅くなるから、なるべく触らないようにしてね?」
 少年は頷き、リタは空になったマグを一瞥する。
 
「そうだ、お腹空いてない? 今日は、パンとか果物くらいしか直ぐに出せないけど」
 リタの問いを聞いた少年は、暫く考えた後で頷いた。少年の仕草を見たリタは立ち上がり、軽くなったマグを持って調理場へ向かう。
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登場人物紹介

主人公
ネグレクトされている系男児。
しかし、救いの手が差し伸べられて成長する。

神父
主人公に救いを差し伸べるが、差し伸べ方がやや特殊な年齢不詳な見た目の神父。
にこやかに笑いながら、裏で色々と手を回している。

兄貴分
ガチムチ系脳筋兄貴。
主人公に様々なスキルを教え込む。
難しいことはどこかに投げるが、投げる相手が居ないと本気を出す脳筋。

みんなのオカン
主人公を餌付けして懐かせる系オカン。
料理が上手いので、餌付けも上手い。

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