第70話 3月23日。祝杯。
文字数 2,481文字
「新しい三月家の設計図を披露してくれた、所長、美久ちゃん、ナオ。
お疲れ様でした。本当にありがとう。では、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
お義父さんの挨拶で、三月家の6人と金沢組の僕ら3人は飲み物の入ったコップを掲げ乾杯した。
「蛸島漁港の製氷機が応急修理で何とか復活したらしい。
明日からは底引き網漁船がでるってよ。
毛がにやハタハタが水揚げされるようになるし、珠洲の漁師も少しづつ復活しとるわ。」
隆太さんが僕たちに教えてくれた。
「わしもバンバン魚を獲りまくって、新しい家のために稼がんならんな」
お義父さんも今日の僕たちのプレゼンテーションを見て、一層気合が入ったようだ。
「そろそろ親父は隠居やろ。俺一人で漁にでるよ」
「だらか(あほかの意)。漁じゃまだまだお前には負けんよ」
「はいはいはい。せいぜい邪魔にならんように頑張っておくれ」
「まぁまぁ、お義父さんも元気なうちは手伝って貰って隆太さんも助かってるじゃない。
一人での漁は危険だし、ありがたいよね」
清恵さんはお義父さんの空いたグラスにビールを注ぎ、お義父さんの機嫌をとった。
「やっぱり一人の漁は危ないんですか?」
所長が隆太さんに聞いてみる。
「そうやな、珠洲の内浦は比較的穏やかな海やが、やっぱり海では何が起こるかわからんしな。
一人の作業の漁師で、何人か沖から帰ってこないやつは知っとる。」
「そうですか、、、。危険なお仕事なんですね」
「まぁ、向き不向きはあるけど俺は好きだね。
働けば働くほどストレートに金になるし。
魚が穫れん時は辛いけど、読みがあたって沢山穫れると楽しいしな」
隆太さんは豪快に日本酒をグビッと煽った。
用意いただいた豪華な海の幸を中心に、僕たちはご馳走をいただいた。
日本酒は珠洲のお酒ではないが、金沢から持ってきた石川県白山市鶴来のお酒「菊姫」がある。
場を盛り上げるのに一役かった。
「じっちゃん、おもしろーい。ははは」
いつのまにかお義父さんと美久ちゃんが、勝手に意気投合して笑いながら盛り上がっている。
僕は清恵さんに印刷してあった設計図面を渡した。
液晶テレビにも再び図面を投影して、改めて清恵さんやお義母さんに家の説明を行った。
普段家に居て家事をすることが多い、清恵さんやお義母さんは家事動線や収納スペースに細かい要望があるようだ。
僕と所長はその意見をメモに残して、幾つかのことを確認した。
「ところでお前たちは今後のこと、どう考えているんだ?」
僕たちが図面を囲んで話している様子を、少し遠巻きで見ていた隆太さんが、はるき君とともき君に声をかけた。
唐突の質問だったので二人の子どもたちは戸惑っている。
「一昨日まで、金沢に住んでみて思うところもあっただろう。
まぁ医王山は熊がでるような山の中だが、当然生活するなら珠洲より金沢の方が便利や。
お前らが望むのなら、今からでも金沢の学校に進むという選択肢がないわけじゃない。」
喉を潤すように、隆太さんは日本酒を少し口に含んだ。
「今回の地震で選択肢は逆に増えたかと思う。
このまま珠洲に残るか、お前らだけでも金沢に行くか。
もし思っていることがあれば遠慮なく言ってくれ」
設計図を見ていた僕たちは静かになり、はるき君の方を見た。
はるき君はゆっくり考えを噛み砕くように話し始めた。
「僕は、、、少なくとも高校生までは珠洲に居たい。そして金沢か県外の大学に行って、ナオさん達みたいな設計士になりたい」
「えっ?」
思わず声が出た。
はるきくんは僕や所長の方を向いて続けた。
「今日の家のプレゼンテーションみたいに、珠洲に住む人たちに新しい家の設計図を描く仕事をしてみたいと思ったんだ。
僕がワクワクしたように、他の珠洲の人たちにも、ワクワクするような家を作ってあげたいと思って」
「それはいい!沢山勉強してゆくゆくは、ぜひうちの設計事務所に入って!」
若干酔っぱらいモードの所長がはるき君を勧誘した。
最近なかなか新卒の採用が難しい、とよく所長はぼやいていたので、本心なんだろう。
それにしてもはるき君がそんな風に思ってくれていたことは。
僕も少し嬉しかった。
「そうか。それはお前らしい考えだな。いいと思う。ともき、お前はどうだ?」
「僕は珠洲で高校を出たら、漁師になりたい!」
ともき君がすぐに力強く言った。
「ええっ!?」
今度は清恵さんが驚きの声を上げた。
「じいちゃんがもっと歳をとって漁ができなくなった時、父ちゃん一人だと心配だろ?
その時は僕が一緒に漁をするよ」
「ふん。お前の力を借りるようになったとしても、まだ随分先の話だ。」
ぶっきらぼうに隆太さんは言ったが、心なしかどこか嬉しそうな表情を一瞬浮かべた。
「まぁこれからやりたいことなんて、コロコロ変わるもんや。それでいいんや。
とりあえず現時点では、二人とも高校卒業までは珠洲に居たいという希望は確認できた。
今日のところはそれで十分や。
ナオ、これからも設計よろしくな。
勿論設計にかかった費用はちゃんと俺に請求してな。
身内だからと言って遠慮することせんでええぞ」
「ありがとうございます!」
僕より先に寄った所長がお礼を言った。
「ん?はるきは設計士、ともきは漁師になる?」
お義母さんに経緯を聞いたお義父さんは急にシラフに戻ったかのように、はるき君とともき君の頭を撫でた。
「お前らはこれから無限の可能性がある。
けどその中の1つとして珠洲におるのであれば、わしゃあ嬉しいが、お前らがこれから決める道や。
わしらに遠慮せず、好きな道を進め」
二人の目を見ながらお義父さんは言った。
「えー、それじゃあはるき君は私の後輩?やったね。遂に私も先輩かぁ。あはは」
結構酔っている美久ちゃんが言った。
よく見ると日本酒のロックのライム割りを手にしている。
非常に口当たりがよく飲みやすくて、危険な組み合わせだ。
僕も結婚前に初めて三月家に来た時に、緊張もあったせいで日本酒のロック割りを飲みすぎてしまい、完全に記憶をなくしてしまった。。。
美久ちゃん大丈夫かな?と思いつつも、隆太さんやお義父さんの嬉しそうなオーラに当てられ、僕や所長もいつにもまして、楽しいひとときを過ごすことができた。
お疲れ様でした。本当にありがとう。では、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
お義父さんの挨拶で、三月家の6人と金沢組の僕ら3人は飲み物の入ったコップを掲げ乾杯した。
「蛸島漁港の製氷機が応急修理で何とか復活したらしい。
明日からは底引き網漁船がでるってよ。
毛がにやハタハタが水揚げされるようになるし、珠洲の漁師も少しづつ復活しとるわ。」
隆太さんが僕たちに教えてくれた。
「わしもバンバン魚を獲りまくって、新しい家のために稼がんならんな」
お義父さんも今日の僕たちのプレゼンテーションを見て、一層気合が入ったようだ。
「そろそろ親父は隠居やろ。俺一人で漁にでるよ」
「だらか(あほかの意)。漁じゃまだまだお前には負けんよ」
「はいはいはい。せいぜい邪魔にならんように頑張っておくれ」
「まぁまぁ、お義父さんも元気なうちは手伝って貰って隆太さんも助かってるじゃない。
一人での漁は危険だし、ありがたいよね」
清恵さんはお義父さんの空いたグラスにビールを注ぎ、お義父さんの機嫌をとった。
「やっぱり一人の漁は危ないんですか?」
所長が隆太さんに聞いてみる。
「そうやな、珠洲の内浦は比較的穏やかな海やが、やっぱり海では何が起こるかわからんしな。
一人の作業の漁師で、何人か沖から帰ってこないやつは知っとる。」
「そうですか、、、。危険なお仕事なんですね」
「まぁ、向き不向きはあるけど俺は好きだね。
働けば働くほどストレートに金になるし。
魚が穫れん時は辛いけど、読みがあたって沢山穫れると楽しいしな」
隆太さんは豪快に日本酒をグビッと煽った。
用意いただいた豪華な海の幸を中心に、僕たちはご馳走をいただいた。
日本酒は珠洲のお酒ではないが、金沢から持ってきた石川県白山市鶴来のお酒「菊姫」がある。
場を盛り上げるのに一役かった。
「じっちゃん、おもしろーい。ははは」
いつのまにかお義父さんと美久ちゃんが、勝手に意気投合して笑いながら盛り上がっている。
僕は清恵さんに印刷してあった設計図面を渡した。
液晶テレビにも再び図面を投影して、改めて清恵さんやお義母さんに家の説明を行った。
普段家に居て家事をすることが多い、清恵さんやお義母さんは家事動線や収納スペースに細かい要望があるようだ。
僕と所長はその意見をメモに残して、幾つかのことを確認した。
「ところでお前たちは今後のこと、どう考えているんだ?」
僕たちが図面を囲んで話している様子を、少し遠巻きで見ていた隆太さんが、はるき君とともき君に声をかけた。
唐突の質問だったので二人の子どもたちは戸惑っている。
「一昨日まで、金沢に住んでみて思うところもあっただろう。
まぁ医王山は熊がでるような山の中だが、当然生活するなら珠洲より金沢の方が便利や。
お前らが望むのなら、今からでも金沢の学校に進むという選択肢がないわけじゃない。」
喉を潤すように、隆太さんは日本酒を少し口に含んだ。
「今回の地震で選択肢は逆に増えたかと思う。
このまま珠洲に残るか、お前らだけでも金沢に行くか。
もし思っていることがあれば遠慮なく言ってくれ」
設計図を見ていた僕たちは静かになり、はるき君の方を見た。
はるき君はゆっくり考えを噛み砕くように話し始めた。
「僕は、、、少なくとも高校生までは珠洲に居たい。そして金沢か県外の大学に行って、ナオさん達みたいな設計士になりたい」
「えっ?」
思わず声が出た。
はるきくんは僕や所長の方を向いて続けた。
「今日の家のプレゼンテーションみたいに、珠洲に住む人たちに新しい家の設計図を描く仕事をしてみたいと思ったんだ。
僕がワクワクしたように、他の珠洲の人たちにも、ワクワクするような家を作ってあげたいと思って」
「それはいい!沢山勉強してゆくゆくは、ぜひうちの設計事務所に入って!」
若干酔っぱらいモードの所長がはるき君を勧誘した。
最近なかなか新卒の採用が難しい、とよく所長はぼやいていたので、本心なんだろう。
それにしてもはるき君がそんな風に思ってくれていたことは。
僕も少し嬉しかった。
「そうか。それはお前らしい考えだな。いいと思う。ともき、お前はどうだ?」
「僕は珠洲で高校を出たら、漁師になりたい!」
ともき君がすぐに力強く言った。
「ええっ!?」
今度は清恵さんが驚きの声を上げた。
「じいちゃんがもっと歳をとって漁ができなくなった時、父ちゃん一人だと心配だろ?
その時は僕が一緒に漁をするよ」
「ふん。お前の力を借りるようになったとしても、まだ随分先の話だ。」
ぶっきらぼうに隆太さんは言ったが、心なしかどこか嬉しそうな表情を一瞬浮かべた。
「まぁこれからやりたいことなんて、コロコロ変わるもんや。それでいいんや。
とりあえず現時点では、二人とも高校卒業までは珠洲に居たいという希望は確認できた。
今日のところはそれで十分や。
ナオ、これからも設計よろしくな。
勿論設計にかかった費用はちゃんと俺に請求してな。
身内だからと言って遠慮することせんでええぞ」
「ありがとうございます!」
僕より先に寄った所長がお礼を言った。
「ん?はるきは設計士、ともきは漁師になる?」
お義母さんに経緯を聞いたお義父さんは急にシラフに戻ったかのように、はるき君とともき君の頭を撫でた。
「お前らはこれから無限の可能性がある。
けどその中の1つとして珠洲におるのであれば、わしゃあ嬉しいが、お前らがこれから決める道や。
わしらに遠慮せず、好きな道を進め」
二人の目を見ながらお義父さんは言った。
「えー、それじゃあはるき君は私の後輩?やったね。遂に私も先輩かぁ。あはは」
結構酔っている美久ちゃんが言った。
よく見ると日本酒のロックのライム割りを手にしている。
非常に口当たりがよく飲みやすくて、危険な組み合わせだ。
僕も結婚前に初めて三月家に来た時に、緊張もあったせいで日本酒のロック割りを飲みすぎてしまい、完全に記憶をなくしてしまった。。。
美久ちゃん大丈夫かな?と思いつつも、隆太さんやお義父さんの嬉しそうなオーラに当てられ、僕や所長もいつにもまして、楽しいひとときを過ごすことができた。