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文字数 8,161文字

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榊原高校ファンタジー部2,016年度部誌第1号『不滅の方程式』収録作品③「不死鳥のパズル」

それは突然現れた。当時から非凡な高校生であった坂本 航(わたる)のもとに「メイリア」と名乗る謎の少女が訪ねてきたのは、ほんとうに突然の出来事だった。

「メイリアよ。よろしく」

彼女は(英語で)そう喋った。

「あ。初めまして。なんで僕に用事が?」

モニター付きインターホンを通じて予め用件を承っていた航が言う。すると、彼女はにっこりと笑って答える。

「あなたの書いた論文を読んで。面白そうな人だから、会いたいと思って」

「『細胞の不死化に関する新しい知見』のこと? それは嬉しいな」

「あなたは生物学的な不死というのは、細胞がいつまでも変化なく増殖を継続できる能力のことであって、外傷からも病気からも無敵であるような不死の生物は存在しないって書いていたわ」

「うん、触りのところでね。ただそれはメインで言いたいことじゃなくて……」

その言葉を遮って発せられたメイリアのセリフに、航はただただ驚いた。

「でも私、不死なの」

「え?」

「私、どんな事があっても絶対に死なないのよ」

「な、何を夢みたいなこと言ってるんだよ。そんなことある筈がない」

航は常識としてそう否定した。しかしメイリアと名乗る少女は至って真面目な顔をして、若くして世界的科学雑誌から論文をアクセプトされた目の前の高校生のことをからかっている様子でもない。そんな彼女の顔つきを伺って、航はどこか得体のしれない不思議さを感じた。まさに金髪の西欧人に近い見た目をしているというのに、今まで見てきたどのような西洋人の顔とも一致しない未知の遺伝子のようなものが混じっている気がした。おそらく混血なのだろうと航はひそかに思った。

「やっぱり不死ってことが信じられないのね? じゃあ証拠を見せてあげる」

そう言うとメイリアはおもむろに家の前に広がっている公道に出て、走ってきた一台の青いセダンめがけてその身を投げ出した。ものすごい音を立てて事故現場が出来上がり、セダンの運転手を衝撃から守るためのエアバッグシステムが作動する。運転手はどうやら大丈夫そうだが、さっきまで航と話していた少女は無事ではないに違いない……しかしそんな推測は裏切られることになった。

「ほら、平気でしょ?」

さっきまで車に轢かれてボロボロに崩れたコンクリート塀の下敷きになっていたはずの彼女は、傷一つ無く航の前まで駆け戻ってくる。大破した車には生々しい血痕まで付いているというのに、なぜかメイリアはまったくの無傷だった。

「これで証明できたでしょ?」

航は起こった出来事を呆然と見つめながら、何やら気難しそうな顔をしてぽつりと呟いた。

「……何が証明できたって?」

「だから、私が不死だってこと」

歳相応の声でじれったそうにメイリアは囁く。しかし航は答える。

「全然ダメだ。君は『どんな事があっても、絶対に死なない』と言ったんだ、これじゃ平凡な交通事故ひとつに巻き込まれてもおおよそ死なないってことが確かめられた過ぎないじゃないか。本当に何があっても死なないかなんて、こんなしょぼい事故一つで確かめられるもんか。もうちょっと強力な手段を使えば君だっていくらでも死ねるよ」

「え? じゃあ…」メイリアは途方に暮れたような表情をした。「……どうすれば信じてもらえるの?」

「時間ある? 着いて来て欲しいところがあるんだ」

うんうんと頷く彼女の手をとり、航はそのまま目的地へ向けて出発した(青いセダンは結局、自損事故ということになった)。

 何本かのリニアモーターカーと電車を乗り継いで辿り着いたのは、父親が勤めるJAIS(日本先端科学技術研究機関)の本部ビル前だった。全面ガラス張りの建物が数十階に渡って聳え、尖塔のような頂上には科学の進歩を彩る二重螺旋のモニュメントが絡みついてる。航はロビーの受付に自分の父親の名前を告げ、呼び出しを待った。メイリアは大人しい様子で隣のクッションに座る。10分後、白い髭を蓄えた白衣の人物が航を迎えにやってきた。

「どうしたんだ航、仕事中に訪ねてくるなんていやに珍しいな」

「会ってもらいたい人物がいるんだよ父さん。この少女なんだけど、……死なないらしいんだ」

父親ははじめて訝しげな顔をした。息子の頭がおかしくなってしまったと思ったのだ。

「交通事故に巻き込まれても死ななかった」

航が小声でそう付け足す。その語調には自信がなく、まるで自分が見たものを信じられないという風であった。
父親はいよいよ気難しそうな顔をして、航が連れてきた少女を眺めた。

「つまり、この少女にどこか変わったところがないか検査して欲しいということか?」

聡明で物分かりの良い父親は、彼が言いたいことをそう受け取ったのだった。

 数時間後、七階のレストランで航は父親と夕食をとることになった。内装は中華風の定食屋だったがメニューにスパゲティがあったので、航は迷わずスパゲティを注文した。

「検査の結果は?」

運ばれてきたスパゲティをフォークで不器用そうに巻きながら、航は尋ねた。

「医学的検診によっては、大した異常は今のところ見つかっていない、いや、しかし……」

父親の顔は恐ろしく真剣だった。

「どうしたの? 何か変わったところがあったの?」

「飛び降りたんだ」

「飛び降りた?」

「ああビルの7階からな。お前はゲームでもしていて気が付かなかっただろうが、大変な騒ぎだったさ」

航はそこで始めてふうんという顔をした。

「死ななかったんだね?」

「……このようなことは、端的に言って有り得ない。そうであるとしてもだな、何か明らかな原因があるはずだ」

航はコップの水を飲みながら、有り得ないからこそ調べて欲しいんだという自分の真剣な願いが受け入れられるように、熱のこもった視線を送った。

「ちなみに彼女はいまどこに?」

冷水をごくりと飲み干してから彼は尋ねる。

「検査室に待機させている。たいそうお前と会いたがっているよ」

父親は答えた。

「会うさ」

航は言った。

 こうしてJAIS本部ビル十七階の多目的ホールで航はメイリアと再会する。

「きいた? 私ビルから落ちても死ななかったわ。証人だって何人も居る。これで不死だってわかったでしょ?」

メイリアが自慢気な口調でそう言うが、航は頑として次のように答える。

「君は『どんな事があっても絶対に死なない』と言ったんだ。ただ単にビルから落ちたくらいじゃそんなこと証明できるはず無いだろう。マンションの5階から落ちて奇跡的に無傷だったブラジルの主婦の話をするかい?」

「じゃあ、どうすればいいの」

メイリアはむすっとして言う。

「君にはこれからもっと検査を受けてもらわなくちゃならない。それで何かしらの特殊な機構、他者と違ってる部分が見つかるかもしれないから。それともし君の同意が得られればだけど、事故等の瞬間についての証言と、いくつかの初歩的な人道的実験への参加、それとこれももし君の完全な同意が得られればの話だけど、いくつかの非人道的実験への参加なんかが考えられる」

航は冷静にそうアドバイスした。

「いいわよ。あなたに信じて貰えさえすればいいのよ」

するとメイリアはしれっと承諾して、しばし思案のあと、何か食べ物が食べたくなったと申し出た。

「航よ、食事に付き合ってやりなさい、まだ何も食べていないだろう?」

父親が気を利かせて航にそう声を掛けた。航は嫌そうな顔をして、

「さっきひどいスパゲティ・コードと格闘してたから、いまは何も食べたくない気分なんだけど……」

と呟いたが、しかしその望みは聞き入れられず、上階の食堂に連れて行かれた。メイリアに手を牽かれながらも彼は、「食べ物を食べるってことはメイリアは餓死するんじゃないのか?」などと仮説立てて考えていた。

 はじめの実験は至って穏やかなものだったので、ここでは特に詳細を記述しない。ただメイリアがJAISを訪れて一週間後には、彼女が紛うことなき損傷すら与えられない不死であることは部署際的に知れ渡っていた。誰もが彼女を「すごい丈夫な、奇跡的に外傷から守られた、限りなく不死に近い存在」として扱ったが、誰も「彼女に強力な放射線を照射したらどうなるのか」とか、「1000度の溶鉱炉に彼女は本当に耐えられるのか」とか、「ジメチル水銀のプールで泳いだら彼女はどうなるのか」といった疑問に精確に答えられる自信はなかった。そういった未知のあらゆることを試してみるまでは、彼女を「本当の不死」とは認めないと航は念を押していた。しかしこれが決定手続ではないことは彼も知っていた。
 幸いにして彼女は死の決定的要因となるような外圧を受けてもまったく苦痛を感じていないようだったので、それがこれまで行われた実験への免罪符にはなった。科学者たちはより過激なことをそのうちどうしても試してみたくなり、「こういうことがあっても、おそらく彼女は死なないし苦痛も感じないだろう」という合理的な科学的推測から、「この実験でこういう結果が出ているのだから、こんな実験で彼女が死ぬはずはないし、苦痛も絶対に感じないはずだ」という断定へと仮説が曲げられ、そのうちあまり人道的とは思えない実験もメイリアの全面的な協力のもと行われるようになった。名誉のために言っておくと、人体実験(それ)はJAIS創立以来およそ例を見ない出来事だった。なにしろメイリアこそが異常で、彼女だけがひときわ特別だったのだから。そのことによって初めて起きる事態だったのだ。
 その一方で、彼女の細胞組織を精密に科学分析することも試みられた。彼女本体から切り離された微小な組織構造は本人の身体と同じように不死・瞬間再生能力などの特徴を有するが、細胞レベルのものではおよそ数時間後、爪などの大きなパーツではおよそ一日後にその不死性は失われてしまう。彼女から切り離されたパーツが不死性を失う様子を光学顕微鏡で観察しても、そこには何ら特質的変化は見られなかった。
 メイリアはおよそ14、5歳と見られる平均的な知能を持つコーカソイドの少女で、自分がこのように存在する訳をまったく記憶していないようだった。ただ「自分は不死である」という確かな心理的確信に基づいた情報だけを保有しており、それとここ十余年あまりに得たと思われる知識を除けば、それ以外の事をほとんど見知っていなかった。もしかしたら記憶が無いだけで、今までに悠久の年を生きてきたのかも知れなかった。各心理テストの結果には全て異常がなく平均並みで、奇妙なことあるいは彼女については山ほど見られる不思議な事に、どれほどの睡眠剥奪・食事制限を施した後でも行われる知能テスト・心理テスト・体力テスト等々の成績に平常時と比較したときの有意な差異は見られなかった。このことは端的に言って彼女が生命維持のために行なっている行為・行わなければならない行為が皆無であることを示唆しており、それにもかかわらずメイリアが眠ったり食事を摂ったりすることは奇想天外の事実としか言い様がないと観察者は口々に述べた。
 5年間を通してあらゆる実験が行われ、表に出す訳にも行かない彼女の存在を匿うためと称して数百億の実験費が密やかに捻出された。その見返りとして書き上げられた論文は、『ストリキニーネ・リシン・その他植物毒の味覚について』詳細に書き上げられた非常に物好きな1本のみでであり、それも当然としてバロウズの気まぐれめいた論文と同じくらいにしか注目されなかった。航は暇のあるたびに彼女と面会を行って、ときには外出許可を取り(この頃はまだ収容違反という概念が確立されていなかったので)二人で一緒に旅行に出かけたりした。だがメイリアが彼女のいうように「完璧な不死身」であるとは航は一貫して認めなかった。あらゆる虹を解体する科学の進歩によっていつか彼女が死ぬ方法も明らかになると頑なに信じていたのだ。ふたりがそのような交流を続けていた間にも、現に理論物理学分野と量子力学分野で共に目覚ましい発展があり、いまや人類は空間的四次元を論じられるようになるばかりか、不完全ながらもそれを実際に観測することさえ可能になった。あるひとりの宇宙物理学者が航の父親に提案した画期的方針によって、遂に彼女の不死であるメカニズムが解明される目処が立っていた。
 その頃と言えば航は死力を尽くして量子力学と宇宙理論物理を学び、両学位を取って幾つかの研究室を経てJAISに斡旋されようとしていた。あらゆる知識を備え、分析し、統合し、すべてメイリアが不死である仕組みを解明するために、また逆説的に彼女を死なす理論を組み立てるため時間は捧げられた。それから数年後、ついにメイリアが不死である理由をあらかた解明してみせた世界初の論文において、航の父親が共著者としてそこに名前を連ねた。所論によれば、四次元的な分子の相転移とプランク時間連続的なフィードバックによって彼女は現在において絶えず過去の情報へと更新されており、特定の境界領域内においては三次元空間内で書き換えられない状態で存在するというのだった。もしその仕組みが完全に正しく当たっていて理論が演繹的な意味で完璧であったとすれば、メイリアを殺しうる可能性があるのか、そう問われれば結局は「不明」であり、現在の技術的には「不可能」というのが暫定的な答えであったが。何はともあれ、メイリアという”現象”はその日を分水嶺として以後世界的に知れ渡るようになり、航の気軽に面会できるような存在ではもはや無くなった。

 更に数十年の月日が流れた。ある時刻、白衣を纏った初老の男性が大規模収容施設の廊下をひとりで闊歩してゆく。地下22階、あらゆる実験を終えた”不滅の生命体”は、電子メディアの仮想デバイスと最新型の共感覚シートを支給されて今ではこのセクターの下で永遠の余生を送っている。たんなる幽閉生活は彼女に何の苦痛もストレスももたらさないだろうが、人道的理由からどんな物品も要求があれば即座に配給されることとなっていた。2068年、人類の夢はあらかた完了し終え、もはやいくつかのイグノラビムスだけが宗教的に神聖視さえされるようになったに過ぎない時代、精神的なロマン主義がますます隆盛をきたした思想的にはなんともつまらない時代ではあったが、ともかくも先進国はあらゆる豊富な設備を取り揃えていた。機械化は実現し、自然言語は公理と推論規則を持つ人工言語体系に押しやられ、理論物理学は高度な発展の極みを遂げていた。宇宙の始原を探るための量子力学的実験施設は四次元からエネルギーを取り出そうというダイソンスフィアも裸足で逃げ出すプロジェクトを推し進めており、そのプロジェクト主任に航が就任してから数えること既に4年の歳月が過ぎ去っていた。その航がいま、白衣を纏って廊下をゆっくりと進んでゆく。
 訪れた懐かしきその顔を前にして、随分と落ち着いた物腰でメイリアはしずしずと口をひらいた。

「ね、私が不死者だと認める気になった?」

久しぶりも言わずに、いやそれがむしろ彼女にとっての久しぶりの代わりだった、長大な時間間隔も彼女にとっては無意味であった。

「無論こうやってわざわざ足を運んだということは、君を殺す算段くらいついている」

ソファに向かい合って座って、もうずいぶんと年をとった姿に変じた航は言った。ここ十年来、施設に足繁く通っては実験申請をし、そのたびに却下され、または投入した費用も虚しく失敗に終わり、そのようなことを何度も繰り返し続けていたが、さすがに今日は実験申請をする必要もなかった。

「待たせたな、ようやっと君を殺す手段へと辿り着いたよ。手間取って済まなかったね」

航はそういって暫時頭を下げた。その頭頂の髪は半ば白んでいた。

「あら。不死者にとって一年も十年も同じよ?」

メイリアが答えると、航は滔々と言葉を足していく。

「……だが実は君は待っていたんだ。かつて記憶を失った君がなぜ私の許を訪れてきたのか、その理由を考えない日は無かったよ。おそらく君はまだ少女だったから、僅かな手掛かりにすがるしか無かったんだ、その手掛かりを繋ぎあわせて私のもとにやってきたのは一縷の望みを求めたんだろう。ああ、確かに天才なんて呼ばれていた日々もあったさ。天才なら何でもできると若者は誰だって考える」

「でも、あなたはもう若者ではないわね」

「君はこれまであらゆるテストを通過し、あらゆるストレスに耐え、あらゆる死の要因に対して超越的な振る舞いを示してきた。けれどまだ誰も試みていない手段が一つだけ残っている。何か分かるかい? それは完全なる静寂と暗闇の世界に対する耐久実験だよ。それも10年や20年といったスパンではなく、地球が滅び、太陽系が滅んだ後に必ずやってくるそれこそ何百億年も続く暗闇の世界だ。もし不死者がそれに耐えなければならないと知ったとしたら、誰だってこの無意味な生を終わらせたいと願うものだろう。君は実は潜在的に、自分自身を終わらせる方法を求めにやってきたんだ――そう私は結論づけた」

そう言いながらあの日のことを航はしみじみと思い出している風に、時折目線を忙しなく遠い虚空へと移しては心ここにあらずな仕草をする。出会いの日を回想し、そして数奇な運命をしみじみと懐かしんでいるかのようだった。

「それで?」

構わずメイリアは先へ進んだ。航は次のようなことを力強く言った。

「君は不死でない。不死でないんだ。そもそもこの宇宙に不死を証明する決定手続などない、決定実験など有り得ないことはジョークで何度も確認した通りだ。だが、どんな不死者でも宇宙が無くなればまた終わることができるのさ。今いるこの宇宙を消滅させること、四次元空間の新しい応用だな」

「よくわからないけど、頑張ったのね」

メイリアは航の頭をやさしく撫でた。何度も、祈るように。そしてふたりの終わりの時がもうすぐやって来ようとしていた。それは正確に言えば、それはふたりの住む宇宙の終焉する時だった。気がつけばいつからか航は嗚咽していた。

「ずっと、君がいつまでも死なないという事実が耐え難かった……。はじめは非科学的なものごとに対する単純な嫌悪感から……次第に、いずれやってくる破局的な沈黙と静寂の永劫を味あわせたくないという強い思いによって……言い方は悪いが、君を殺すことだけが私の人生の唯一にして最大の目的だったんだ。まるでひとつの難解なパズルを与えられたかのような人生、それでも私はいまこのパズルを完全に解いたと確信している……しかし、他の人々はこれを許してくれるだろうか。懐にあるリモートマシンでパルスを送るだけで第10研究所に最後の命令がゆく。もう運命は変えられない。多次元のすべてを経た鎖的な相転移が起こり、『猫のゆりかご』のように宇宙の全物質とエネルギーがすべて裏返しの世界でバラバラになるだろう。いや、そうなる。己を存在させる箱である『宇宙』がなければ君も自己を生成することはできない。宇宙がなくなればどんな不死者だって当然に死ねるわけだよ」

それを聞いて、メイリアは彼の目をまっすぐに見つめた。その表情は心なしか安心に満たされているような有様だった。わずかに、もっと近づきたいような仕草をメイリアは見せたが、結局ソファに向かい合ったままで二人は流れる僅かな時を見送った。やがてメイリアが静かな声で言った。

「それじゃ、お別れなのね? さよならを言わないといけないわね」

「そうだね。さようならメイリア、今までありがとう……」

航は答えた。時計を何度か忙しなく目つめて、何度かため息をついた。メイリアと時計をしばらく交互に見つめていたが、やがて、航は手に持っていた端末へパスコードを入力し、コード『アイスナイン』を待機させている第10研究所へとハルマゲドンの指令を送った。ただちにその論理(ロジック)は解き放たれ、彼が構築した理論の通りにこの宇宙にあり得べからざる『十二番目の次元』を目指して物質が反転しニュー・トーキョーの街から空虚な中心がビッグバンをはるかに超える速度で広がっていった。
「こちらこそ、さような――
*そして、宇宙は消えた。*

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