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文字数 854文字

 そんな、ある日。

「ああ〜、飽きたなぁこの仕事」

 俺は隣の車で弁当売って、金勘定をしている龍二に言った。
姿は見えないが声はお互い聞こえる。すると、

「そうかい」

の一言。俺は販売カウンターから身を乗り出すと、隣りの龍二に、

「ねぇ、日本から出ない?この生活じゃ、
ずーっとずーっと弁当屋とサンドイッチ屋よ」

と言うと。

「出てどうする?指名手配の俺達が、まともに生きて行ける場所などそうそう無いよ」

 俺はバタンと椅子に仰け反ると。

「リストラされた気分・・・」

と言えば。

「お前、何に成りたかったんだい?」

「知ってるだろ。ロケット技師」

 すると、意外な事を龍二は言った。

「お前にゃ無理だよ。頭悪いから」

カチン!俺はこれでも一応その成績は・・・、あれ?どの辺だったっけ?

「悪かったな。でも今や、世界で1基も宇宙へ
ロケット飛んでないんだろ。終わってるよねぇ」

「あはは、飛んでるよ。通信衛星や気象衛星を打ち上げる為にな。それもそう必要じゃないからな」

と言った。俺は急に思い出し、

「ショックだよなぁ。あのカリスマ技師の斉藤さんが、20年も前に死んでたなんて。しかも85歳で、俺が読んでた雑誌のあの記事、何年前のだったんだよ」

「えっ?」

と龍二。

「俺が読んでた、月刊技術工学。今でも生きてるみたいに書いてあったよ」

「そうやって、子供の夢を壊さず。
技術者に憧れる人を沢山作ろうとしたのさ。
世界の科学技術は退行している。
新しいものは無く、古い技術を継承するのにも四苦八苦しているらしいぜ」

「道理でこの車、やたらと止まると思った。
冷房の効きも悪いし。ああ〜、世界はどうなんるだろ」

「知るかよ」

 龍二は、お金を手提げ金庫にしまうと。

「俺、夕方の分仕入れてくるから。チョウさんの店に行くわ」

と言った。流石に弁当のおかずは、ワゴン車では作れない。ホカホカの飯を入れるのが精一杯だった。

「分かった。俺はハンバーガー売ってる。
暇だから、昼寝でもしてるわ」

「ハイよ」

と龍二は、車の幌を畳んでチョウさんの店へと走り出して行った。
 俺はそのまま寝てしまった。
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