第120話 支援
文字数 2,095文字
マレイは眉一つ動かすことなく淡々とした口調でユウトを責めるでもなく諭すでもない確認作業を続ける。
「その大魔獣という魔物はゴブリンロードが誘導をしているのだろう?
ならわざわざ大工房の付近で戦闘を行うというのなら危険な要因を持ち込まれる大工房としてははなはだ迷惑な話しだ。その点についてどう考える?」
「うっ」
マレイの質問にユウトは言葉に詰まった。
決戦の場が星の大釜であるとはいえ大工房までの距離はけっして遠いわけではなく戦闘が起これば街道の通行を止める必要が出てくる。流通が滞ることで発生する大工房の損失は決して少なくないだろうとユウトは想像してしまった。ユウトの脳内はマレイを納得させられる糸口を探して高速回転を始める。しかし刻一刻と時間が過ぎても答えが出せず、思考の袋小路で空回りを起こしてしまっていた。
「発言してもいいかしら」
ユウトの隣に座るラーラが硬直した声を掛ける。
「あ、ああ」
ラーラの申し出にユウトはハッとさせられる。ラーラはマレイの正面に落ち着いた声で語り始めた。
「すでにこれから起こりうる大魔獣との戦闘はすでに回避は不可能でしょう。幸いある程度その大魔獣の誘導が行われていることで準備を行う時間が確保されています。この時間こそ大工房に取って大きな利点になると考えます」
「具体的には?」
マレイがラーラの話す内容に興味を持ったことがユウトにとってこの状況を打開できるかもしれないという兆しを感じる。
「こうして状況が制御できているからこそ確かな準備を行ったうえで新たな魔術具の実践が行えるということです。
これからの敵はゴブリンからより個体として強力な魔物へと戦う相手が変わっていくことでしょう。その新たな体制を前に中央より先んじて魔物と実戦を行える機会は各工房や買い手へ広く訴える非常に良い機会になります」
「そうか。この決戦を大規模な実戦形式のお披露目会とするわけか。星の大釜のそこに大魔獣を誘導できるならその縁から見る分には比較的安全に進められるか?ユウトのこの戦いにおける功績をより強調するには見物人が多いに越したことはないか」
ラーラの言葉に付け加えるようにヨーレンはラーラの方を向いて語り、ラーラは頷くとさらに続けた。
「今、提案されている作戦はその成否にかかわらず旧世代のゴブリンが殲滅されることは確かです。そうすればそれを機に時代が一気に変わるでしょう。しかし今、この機会が失われれば次はもうないでしょう。だらだらとゴブリンの殲滅を検証し続けなければなりません。
ならいっそのこと、ここで決着をつけるべきではないでしょうか」
ラーラの言葉には感情に訴えかけない平静さをユウトは感じる。そこへヴァルがスッと前に出た。
ヴァルにこの場の全員が注目する。
「ゴブリンロード、より伝言。
コノ作戦ガ了承サレナイノデアレバ、我ハ残存個体ト共ニ隠レ、遠ク先ノ機会ヲ探ルコトニナルダロウ。
トノコトダ」
ヴァルが語り終わると同時に沈黙が流れた。
「ふん、わかったよ。大工房としてもその作戦の決行に賛同しようじゃないか」
マレイがその沈黙を破って発声する。その様子は半ばあきらめのようにユウトには見えるがその真意はわからなかった。
これでユウトは三つの組織への交渉を大まかにではあるものの望む方向へ進めることができたと胸を撫でおろす。最後はラーラ、ヨーレン、ロードに助けられところが多かったものの誰かへの説得、提案にこうまで積極てきにこなせたことをうれしくもあった。
「一つ、確認しておきたい」
気が緩んだユウトの隙をつくようにディゼルが声を上げる。ユウトは曲がった背筋をもう一度伸ばした。
「なんだろう。ディゼル」
「話しを聞く限りユウトは純粋な新世代のゴブリン、ハイゴブリンではないということだと認識しているけど本当のハイゴブリン達とは一体どんなモノなのか聞いておきたい。この国において人以外の種族であるドワーフ等と同様に社会に溶け込める可能性があるのだろうか?
魔物の調査、討伐が主たる役目である調査騎士団としてはその点をはっきりしておきたいんだ」
ディゼルの質問にユウトは悩む。ユウト自身それほどハイゴブリンの子ども達と意思疎通ができているわけではなかった。
「深く考えないでくれ。明確な証拠を提示することが難しいことはわかっている」
ユウトの考え込む様子にディゼルは慌てて求める答えの意味を付け加える。ユウトは少ない接点の中でハイゴブリン四姉妹のことを想い出していた。
ヨーレンは悩んでいるユウトを見てヨーレン自身の所感をディゼルに伝え始める。
「私の意見だけどハイゴブリンの四人姉妹の見た目はほとんど人の子どもと変わりない。髪の色と肌の色はユウトと一緒なのが特異なくらいか。直接会話はしていないが話す言葉は流ちょうで落ち込むリナに寄り添う様子はゴブリンとは思えなかったよ」
横で聞きながらユウトもヨーレンの感想に同感だった。
そこでユウトは一つ思いだす。
「ヴァル。ちょっとこっちに来てくれ」
ユウトに呼ばれたヴァルは「了解」と返事をしてユウトのそばまで滑るようにやってきた。
「その大魔獣という魔物はゴブリンロードが誘導をしているのだろう?
ならわざわざ大工房の付近で戦闘を行うというのなら危険な要因を持ち込まれる大工房としてははなはだ迷惑な話しだ。その点についてどう考える?」
「うっ」
マレイの質問にユウトは言葉に詰まった。
決戦の場が星の大釜であるとはいえ大工房までの距離はけっして遠いわけではなく戦闘が起これば街道の通行を止める必要が出てくる。流通が滞ることで発生する大工房の損失は決して少なくないだろうとユウトは想像してしまった。ユウトの脳内はマレイを納得させられる糸口を探して高速回転を始める。しかし刻一刻と時間が過ぎても答えが出せず、思考の袋小路で空回りを起こしてしまっていた。
「発言してもいいかしら」
ユウトの隣に座るラーラが硬直した声を掛ける。
「あ、ああ」
ラーラの申し出にユウトはハッとさせられる。ラーラはマレイの正面に落ち着いた声で語り始めた。
「すでにこれから起こりうる大魔獣との戦闘はすでに回避は不可能でしょう。幸いある程度その大魔獣の誘導が行われていることで準備を行う時間が確保されています。この時間こそ大工房に取って大きな利点になると考えます」
「具体的には?」
マレイがラーラの話す内容に興味を持ったことがユウトにとってこの状況を打開できるかもしれないという兆しを感じる。
「こうして状況が制御できているからこそ確かな準備を行ったうえで新たな魔術具の実践が行えるということです。
これからの敵はゴブリンからより個体として強力な魔物へと戦う相手が変わっていくことでしょう。その新たな体制を前に中央より先んじて魔物と実戦を行える機会は各工房や買い手へ広く訴える非常に良い機会になります」
「そうか。この決戦を大規模な実戦形式のお披露目会とするわけか。星の大釜のそこに大魔獣を誘導できるならその縁から見る分には比較的安全に進められるか?ユウトのこの戦いにおける功績をより強調するには見物人が多いに越したことはないか」
ラーラの言葉に付け加えるようにヨーレンはラーラの方を向いて語り、ラーラは頷くとさらに続けた。
「今、提案されている作戦はその成否にかかわらず旧世代のゴブリンが殲滅されることは確かです。そうすればそれを機に時代が一気に変わるでしょう。しかし今、この機会が失われれば次はもうないでしょう。だらだらとゴブリンの殲滅を検証し続けなければなりません。
ならいっそのこと、ここで決着をつけるべきではないでしょうか」
ラーラの言葉には感情に訴えかけない平静さをユウトは感じる。そこへヴァルがスッと前に出た。
ヴァルにこの場の全員が注目する。
「ゴブリンロード、より伝言。
コノ作戦ガ了承サレナイノデアレバ、我ハ残存個体ト共ニ隠レ、遠ク先ノ機会ヲ探ルコトニナルダロウ。
トノコトダ」
ヴァルが語り終わると同時に沈黙が流れた。
「ふん、わかったよ。大工房としてもその作戦の決行に賛同しようじゃないか」
マレイがその沈黙を破って発声する。その様子は半ばあきらめのようにユウトには見えるがその真意はわからなかった。
これでユウトは三つの組織への交渉を大まかにではあるものの望む方向へ進めることができたと胸を撫でおろす。最後はラーラ、ヨーレン、ロードに助けられところが多かったものの誰かへの説得、提案にこうまで積極てきにこなせたことをうれしくもあった。
「一つ、確認しておきたい」
気が緩んだユウトの隙をつくようにディゼルが声を上げる。ユウトは曲がった背筋をもう一度伸ばした。
「なんだろう。ディゼル」
「話しを聞く限りユウトは純粋な新世代のゴブリン、ハイゴブリンではないということだと認識しているけど本当のハイゴブリン達とは一体どんなモノなのか聞いておきたい。この国において人以外の種族であるドワーフ等と同様に社会に溶け込める可能性があるのだろうか?
魔物の調査、討伐が主たる役目である調査騎士団としてはその点をはっきりしておきたいんだ」
ディゼルの質問にユウトは悩む。ユウト自身それほどハイゴブリンの子ども達と意思疎通ができているわけではなかった。
「深く考えないでくれ。明確な証拠を提示することが難しいことはわかっている」
ユウトの考え込む様子にディゼルは慌てて求める答えの意味を付け加える。ユウトは少ない接点の中でハイゴブリン四姉妹のことを想い出していた。
ヨーレンは悩んでいるユウトを見てヨーレン自身の所感をディゼルに伝え始める。
「私の意見だけどハイゴブリンの四人姉妹の見た目はほとんど人の子どもと変わりない。髪の色と肌の色はユウトと一緒なのが特異なくらいか。直接会話はしていないが話す言葉は流ちょうで落ち込むリナに寄り添う様子はゴブリンとは思えなかったよ」
横で聞きながらユウトもヨーレンの感想に同感だった。
そこでユウトは一つ思いだす。
「ヴァル。ちょっとこっちに来てくれ」
ユウトに呼ばれたヴァルは「了解」と返事をしてユウトのそばまで滑るようにやってきた。