第5話  再会

文字数 1,458文字

 居酒屋を出て、この勢いでカラオケでも行こうかということになり、私達は揃って出口に向かった。会計を済ませると、レジにいた店員さんが私の顔をじっと見ている。
「人違いだったら御免なさい。もしかして宇田さんじゃない。」
その人が聞いた。
「へっ?」
この声、聞き覚えがある。

私はサングラスを上げて彼の顔をまじまじと見た。
「あー。融君じゃない。」
「やっぱり、宇田さん。さっきテーブル行った時、そうじゃないかなって思ったんだよね。」
「凄い奇遇。久しぶりだね。ここで働いているの?」
「そう。知り合いの店なんだ。元気・・・そうだね?」
彼はにやりと笑った。
「何故に疑問形?・・・・あっ、これはDVじゃないから。」
「何とコメントしていいものか・・・。あっ、悪い。お客さんが来るから。」
私達の後ろから他の客が来るのを認めた彼は片手を上げて言った。
「じゃあね。有り難う御座いました。・・俺、週末はここで手伝っているんだ。」
「ふうん。そうなんだ。・・・じゃまた来るね。」
私達は店を出た。

「樹~。何よ。今のイケメンは。」
涼子が私の首を絞めながら言った。
「めっちゃいい男じゃん。何?樹。どんな知り合いよ。」
茂木ちゃんが私にボディブローを喰らわす。
・・・私は怪我人だってば。

「何って、何でもないよ。ただの知り合い。」
「ただの知り合いにしてはやけに親しそうじゃないの。融君なんて呼んじゃって。
樹、私達にまだ話していない過去があったんじゃないの?」
「ないない。過去と言う程の物はない。そんなもの存在しない。・・・彼、確かに男前だけどね。問題有りだよ。」
「えっ?何が。何の問題?そんなの塵に等しいわよ。ちょっと、樹、あなた、またあの店に行く時は必ず私を誘いなよ。そして彼に私を紹介しなさい。」
涼子が早口で言った。
内容を聞かない内から塵に等しいとは・・・。やっぱりこいつはおかしい。

「涼子、あんた、おかしいよ。」茂木ちゃんが言う。
「そうだよね。茂木ちゃん。」私が答える。
「何で、あんただけ誘うの。勿論私も一緒に決まっているんじゃん。おかしいよ。自分だけなんて。」
・・・そこかよ。
「って言うか、樹いらないよね。私達だけで。別に。樹の友達ですって言えばいいしさ。前回来ましたって」
はいはい。そうですね。

「樹、顔が地味なくせに何でいい男が寄ってくるのよ。おかしいよね。陸にしても、さっきの彼にしても。・・全然可愛げないのに。顔が地味、服装も性格も地味って、もう最悪じゃん?いい男って趣味がマニアックなの?」
「最悪!」
・・・・
茂木ちゃんって癒し系のふっくらとした可愛い顔をしているのに・・・何なの・この罵詈雑言。
黙っていれば須恵器・・間違えた。素敵なのに。

「殴るよ。茂木ちゃん。私に寄って来たのは陸だけだから。さっきの人はただの知り合いって言ってんでしょう」
「茂木ちゃん。樹ってそんなに不細工じゃないよ。可愛い系じゃないけどさ。・・地味系だな。・・・きちんと化粧をすればまあまあイケるんじゃん?決して可愛くないけど。ちょっと中性的で、どっちかと言うと女の子にもてるタイプだよね。地味だけどね。」
「・・・ありがとう。涼子。褒められた気はしないけど。・・・私に可愛いという言葉は絶対使いたくないのね。地味とか・・何度も言わなくていいよ!それに化粧だってしているし。」
「わからない化粧って意味なくない?」
「まあ、どうだっていいよ。樹の化粧は。今日はゆっくり話聞かせてもらうから。個室で。取調べ。」
私は茂木ちゃんと涼子に、囚われた宇宙人のように連行され、夜の町に消えて行った。

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