43.

文字数 773文字

 宣言したとおり、それから正樹は毎日紗江と逢うために連絡をしてきた。もちろん紗江は一度も断ることがなかった。
 就業後に待ち合わせをし、食事をして体を重ね合わせる。もうそれは当たり前の日常のようだった。

「ねぇ、紗江。今日ご飯でも食べに行かない?」

 更衣室で着替えていると、咲子が髪をブラシで梳かしながら聞いてきた。

「彬と約束してたんだけど、あいつ、仕事が忙しくなってさ。たまには女同士でゆっくり話さない?」

 咲子とは同僚でもあり、社会人になってできた親友でもある。色んなことを話してきた。とても大事な存在だ。
 でも。
 紗江の脳裏に正樹の顔が浮かぶ。もちろん今日も逢う約束をしていた。

「…ごめん。今日は約束があって」

 すまなそうに紗江が言うと、咲子は意外とあっさりと承諾した。

「そっか。じゃ、しょうがないよね。デパ地下でお惣菜でも買って家で食べるか」
「ごめん」
「いいって。デートでしょ」

 何気なく言われたので思わずその言葉を聞き逃しそうになった。

「デ、デートって…」
「えっ?違うの?そうだと思ってたけど」
「え…」
「最近さっさと帰るし、なんか雰囲気も変わったし。例の人、付き合ってるんでしょ」

 咲子が指しているのは間違いなく正樹のことだった。
 紗江が言いあぐねていると、咲子はさっさと身支度を済ませロッカーの鍵をガチャリと閉めた。

「また今度ゆ~っくりと彼氏のことを聞かせてもらうから、覚悟しといて!じゃ、お先!デート、楽しんできてねぇ」

 片方の手をひらひらと振りながら、咲子は更衣室から出て行った。

 どうして分かったのだろう。
 それよりも。
 紗江は咲子の言葉に強く心を掻き乱されていた。
 付き合う?私が?正樹と?
 約束も言葉もない関係の脆さを今更ながらに気づいたのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み