文字数 1,371文字

二人の女性が裸で抱き合っている。
少し過激な絵画。
エゴン・シーレ。
彼の絵は美しく官能的であり熱狂的なファンが多い。
私「こちらにご記入をお願い致します。」
私は来館された方々の受付をする。
男「ここに連絡先を書くの?」
私「お名前とご住所だけで結構ですよ。」私は伝える。
男「それだとあなたは、私に連絡できないでしょ?」
男性は私を見て微笑んでいた。
その男性はアルマーニのスーツが似合っており、
とても可愛らしかった。
私は、「それではこちらに」と言って
美術館の宣伝用カードに自分の名前と連絡先を書いて渡した。
男性は「ありがとう」と言って館内に入っていった。

数日後、アルマーニの男から電話があり
レストランで会う事になった。
いつも思う。
こんなに沢山服があるのに、着る服がない。
アルマーニの男性を想像する。
あの人の横に立つ為にピッタリの服はなんだろう?
シャネル?ヴィヴィアンウエストウッド?ロエベ?
クローゼットの前に何分立っているか分からない。
悩みに悩んで、マノロ・ブラニクに決めた。
いつも準備に時間がかかる。
靴を決めるのに30分、服を決めるのに1時間。
お風呂に入り、ヘアスタイルを決めて
メイクをし、全身鏡で色んな角度から自分を見る。
パンツラインは見えてない。
服の上からブラの線は見えるが、
品が下がらない程度なことを確認する。
やっとの思いで外に出て、
待ち合わせから10分遅れてレストランに辿り着く。
アルマーニの男性は相変わらず可愛らしい姿でいた。
食事の時間はあっという間に終わり、BARへ行く。
さっきまでのレストランとは違い、
薄暗い空間で私たちは
ゆったりと流れるように会話を重ねた。
その中で彼のいくつかのことを知った。
コントラバス奏者で海外をまわっている事や、
休日は美術館へ行くこと。
絵を嗜むが知識がある訳では無いことも。
そして私はいくつかのことを彼に教えた。
美術館の仕事をしている傍ら、
小説を書く仕事もしていること。
クラシックは好きだが、昭和の邦楽なども聴くこと。
会話をしていて気付く。
彼は私に好意を抱きそれを隠さず、また、
私の彼への好意も、彼は気付いていると。
BARのあと、少し歩く。
雨が降っていたようで道が濡れている。
私「私、雨が好きなの。道が綺麗になるでしょ?」
男「あぁ。そうだね。」
私「街灯も綺麗で、空気も澄んでる。」
二人のゆっくりと歩く足音が周りの建物に当たって跳ね返る。
私「次の休日は何をしてるの?」
男「古本屋にでも行こうかなって。君は?」
私「特に何も予定は無いわ。」
男「じゃあ一緒にどうかな?」
私「えぇ、良いわよ。古本屋のあとは、公園でもどう?」
男「あぁ、いいね。そうしよう。」

セカンドデートが古本屋とは、なかなか変わったものだと
思ったが、こういうのも良いと思った。
馬鹿の一つ覚えみたいに
ショッピングモールに誘われるよりは良い。
それに、静寂で古風なモノに私は弱い。
どこからか、クラシックが流れる。
それは深夜12時を知らせるチャイムみたいなものだ。
シンデレラを思い出す。
彼女はこれから私が体験するセカンドデートや、
その後、上手くいったら体験するであろうデートの数々、
そういったものを体験せず結婚し、幸せになった。
人によっては良いと思うのだろう。

私と彼のこれからの事と、その結果。

どう流れて、どこへ行くのか。

降った雨は
道に流れ、行き着く先はどこなのか。

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