第10話 イルカのせなかのおじいさま

文字数 2,926文字

「ほら。一列縦隊」
「クルト、指図しないで」
「ミコ、あなたもよ。なに勝手にボクトくんと手を繋いでんの」

 なんだか楽しいなあ・・・水族館なんて年中さんの遠足の時に行っただけだもん。その時はこんなに大きな水族館じゃなかったし。

「立派ねえ」
「へー。広いし青い光がきれい」
「ボクト、俺たちも一緒に来た方が賑やかでよかっただろ」

 クルトくんがそう言ってくれるとなんだか嬉しくなっちゃった。だってミコちゃんはお父さん・お母さんと一緒に色んなところにお出かけしてるだろうし。クルトくんもミチルちゃんもきっとそうだったろうし。

 隣にいるミチルちゃんに言ってみたんだ。

「嬉しいな。家族でお出かけしてるみたい」
「ボクトくん・・・」

 水槽の展示をみんなでまわってたらちょうどイルカショーの始まる時間になったんだ。
 イルカが5頭も出演するので有名なんだよ。

「イルカショーか・・・幼稚園の遠足じゃあるまいし・・・」
「悪かったな幼稚園児で。クルトは哺乳類どころか魚よりも賢くないけどな!」
「ミコちゃん、魚だって賢いよ」
「ほんとだな、ボクト。クルトと比べたら魚がかわいそうだな」
「くっそー」

 イルカショーが始まって、5頭のイルカのうち4頭はプログラムをこなしてジャンプしたりスピードを乗せた泳ぎをしたりしてるけど1頭だけずうっとプールの縁をゆっくりと回ってるの。なんだか気になって見てたんだけどね。

「あ!」
「あ!」
「お!」

 ボクとミチルちゃんとミコちゃんがいっぺんに大きな声を出してね。クルトくんだけは「?」って感じだからもしかして気づいてないのかな?
 ボクはもうショーどころじゃなくなって終わったらミコちゃんが先頭を切ってくれたよ。

「行くよ!」

 そのまま3人で観覧席を駆け下りてプールの縁まで行くとね、ゆっくり外周を回ってたイルカがちょうどボクたちの前まで来てそこで立ち泳ぎをしてるところだったよ。

「アンタ、誰?」

 ミコちゃんがそう言うと遅れて降りてきたクルトくんが答えたよ。

「イルカだよ」
「ちっ。これだから感性のかけらもない輩は・・・」

『かんせいのかけらもないやから』ってミコちゃんの口ぐせなんだけど、『やから』って何かなあ。クルトくんが怒るんだから多分あまりいい意味じゃないんだね。

「イルカはイルカだろ!」
「わかったよ。クルトが見えてないってことはこのじいちゃんは賢い人間にしか見えないってことだ。ミチルに見えてるのはどういう訳かわからないけど」
「ミコに見えるのもどういう訳かわからないけどね」
「あの、あなたはどなたなんですか?」
「ほほ。ぼうやが一番賢そうだからぼうやに話そうか。ワシは海の神じゃよ」
「あっ。やっぱりそうなんですね」
「ちょ・・・ボクト」

 ミコちゃんに呼ばれて少し離れた場所で4人で丸くなってヒソヒソ話し始めてね。

「ボクト。あのじいちゃん、怪しいよ。イルカに乗ってるところでもう普通じゃないけど神だなんていきなり言われて信じられるか?」
「そうだよボクトくん。わたし幽霊を何度も見たことあるからこういう現象は抵抗ないけど自分のことを神だなんて言うひとは一番怖いパターンだよ」
「ううん。大丈夫だよ、ミコちゃん、ミチルちゃん」
「え?」
「ボクが自分の名前言うときは夢見(ゆめみ)僕人(ボクト)って言うもん。同じだよ」
「あのさ」
「なんだよ、クルト」
「みんなさっきから誰の話をしてるんだよ」
じしょう(自称)『海の神』の話だよ」
「クルトには見えないんだね」
「ミチルちゃん。俺はキミの見ている世界が見たい」

 クルトくんが世界なんて言うのはちょっと変な感じがしたけど、ボクたちはまたイルカのそばに行って、海の神さまにボクからお願いしたよ。

「海の神さま。クルトくんには神さまが見えないんです。一緒にお  話したいのでクルトくんにも姿を見せてあげていただけませんか?」
「そうか・・・確かにその少年は疑り深そうだ。ならば・・・」
「? おわわわわわっ!」
「ほほ。少年よ驚くでない」
「カ、カルトの教祖がイルカにっ!」
「・・・カルトじゃと?」

 あっ。
 ほんとにやさしそうなお顔をしておられたのに、いっぺんに怒ったお顔になったよ。
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