第1話

文字数 1,775文字

「なぁ、転生って信じるか?」
ある時、友人から言われた。俺は達也、23歳だ。もう俺もいい年だし、そんな子どものようなことを考えてもな、と思いつつも
仏教では輪廻転生なんて考え方もあるくらいだからな、一概に馬鹿にするわけにはいかないよな、と思っていた。最近は転生を
テーマにした作品もたくさんあるしな、と思いながら俺は「あるかどうかは、転生してみないとわかんないんじゃない?あ、でも
転生したら今の記憶なんてないんだろうから、結局わかんないか」と思っていることを言った。それを聞いた友人は「まぁそんな
もんだよな。転生してやる!と思ってわざわざ自殺する理由もないしな」と言ってきた。別に現状にすごい不満があるわけでも
ないし、わざわざ死ぬ理由はないよな、なんて思いながら笑っていたらバイクがこちらに急速なスピードで向かってきた。
そこから俺の記憶はない。そして気が付くと何か葬式の現場にいた。どういうことだ?俺、葬式に参加なんかしたっけ?と思い
辺りを見回してみる。だが何か様子がおかしい。と言うのも、周りの人がみんな大きいのだ。どういうことだ?俺は中肉中背なの
だからそんなに周りが大きく見えることはないと思うんだけどな、と思った時点で俺は気づいた。あれ?俺、なんか浮いてないか?
浮いているというのは葬式の場にそぐわないといういわゆる『浮いている』ではなく、実際に空に浮いているのだ。そんなことが
あるわけがないと思い手を動かそうとしてみたが、何かが違う。どうなってるんだ?と思い俺は鏡を探してみることにした。だが
葬式の最中なので鏡なんてない。仕方ないと思い俺はおそらくここには鏡があるだろうと思われる場所、トイレを探した。そして
トイレが見つかったので行ってみて、鏡を見て驚愕した。あれ?俺、蚊になってる。意味がわからなかった。俺は人だったはず
なのに、鏡に映っているのは蚊だ。意味が全くわからない。といってこのままじっとしているわけにもいかない・・・のか?俺は
どうなったんだ?誰か、知っている人はいないかと思ったがそもそも俺が話せないのだから、聞きようがない。どうしたものかと
思いながらも、トイレにいても仕方がないので式場へと向かった。そこで俺はさらに驚かされた。先ほどは気づかなかったのだが、
この葬式、俺の葬式だ。俺はここにいるのだが、俺の葬式が行なわれている。もう頭が混乱してわけがわからなくなったが、そこで
ふと気づくことがあった。誰か知り合いはいないだろうか、だ。そもそも俺の葬式に参加しているのだから基本的には知り合いしか
いないはずだ。そう思い少し飛んでみると、いた。俺の意識がなくなる前に話していた友人だ。俺は友人の元へ飛んで行った。
そのことに関してはなんの問題もなかった。当たり前だ、式場に蚊がいたからと言って誰も何も思わないだろう。そして友人の肩に
止まった。ここで気づいたのだが、だからどうしよう、だった。蚊なのだから、喋ることはできない。そして文字が置いてあって、
そこに止まって意味を伝えるというような都合のいいこともできない。式場に文字なんてあるわけがないのだから。どうした
ものかと思っていると俺の友人が隣に座っている人、まぁこれも俺の別の友人なのだが、に「おい、肩に蚊が止まってるぞ」と
小さな声で言われていた。そしてその別の友人が肩を叩こうとした瞬間、友人は「おい、何もしなくていいよ」と言った。普通、
蚊が肩に止まっていたら倒されてもおかしくないのになと思っていると友人が「達也の葬式なんだぞ。人が死んだ時に他の何かを
殺すのは良くないだろ。ほっとけよ」と言った。それを聞いた隣にいた友人は「そういうもんか?まぁお前がいいならいいけど」と
言った。俺はなんとか助かった。そしてそこからどうしようかと思ったがどうする術もない。そもそも、蚊が何かを伝えらえる
なんて誰も考えすらしないだろう。そんなことを考えているうちに葬式が終わった。帰り道も俺はずっと友人の肩に止まって
いたが、いくら慈悲深い友人でも外に出たら蚊ぐらい叩くだろうと思い俺は友人から離れようと思った。だが最後にと思い友人に
見えるように友人の目の前を八の字に飛んだ。すると友人から驚くべき言葉が聞こえた。「お、もう行くのか?じゃあな、
これからはバイクだけじゃなくて人の手にも気をつけろよ、達也」。
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