目抜き通り:透哉と睦月

文字数 1,041文字

 大晦日を翌日に控えた晩、透哉(とうや)は愛車のMINIでドライブしながら都内を周回していた。
 ブラックのダブルライダースがハンドルを切るだびに分厚くシワを寄せる。カーナビは銀座までもうまもなくと案内をしてくれた。
 助手席ではベージュのトレンチコートを羽織った睦月(むつき)が、頬杖をつきながらドアウィンドウから景色を眺めていた。考えごとをしているのか黙りこくったままだ。
 透哉の運転するMINIは銀座のメインストリートに進入した。通りに並ぶ店舗は(きらび)びやかな照明で行き交う人々を誘う。
「あ、GINZASIX」睦月がようやく声をあげた。
「何か欲しい物でもある?」
 ようやく声を発した睦月に透哉は声をかける。
「いや、特にない」
 通り過ぎる『GSIX』と掲げられた看板を尻目に、睦月はそう返した。
 交差点にさしかかり信号が赤に変わると、ブレーキをかけて車を一時的に停車させる。
「さっきまで仕事のこと考えてただろ?」
 透哉は睦月へ視線を向けながらそう言い放った。睦月は透哉に何か言い返そうと顔を振り向かせたが、その通りだったので言葉が出なかった。変わりにため息をひとつ。
「この一年、ライブに、会社経営に、講演と忙しかったんだから、少しは自分にご褒美くらいやったらどう?」
 カーナビで付近のコインパーキングを調べつつ睦月に問いかける。
「自分でも欲しい物がなにか分からない」
 睦月はそう口を開くと、再び頬杖をついてしばらく景色を眺めた。
 信号が青に変わる。車が発進して景色が流れていく。
「よく頑張ったね」
 不意にそう言われた睦月は思わず顔を赤くした。あまりに恥ずかしくて膝を立てて顔を隠す。
 カーナビが近場のコインパーキングを差した。透哉は指定の場所にを駐車して、運転席を下りた。
 後部座席に丸めて置かれた、ブラックとグレーのチェック柄マフラーと、グリーンとブルーのチェック柄マフラーをまとめて掴み出すと、助手席のドアを開けて睦月に手を差し出す。
「ほら、行くよ」
 睦月は差し出された手をとって、グリーンとブルーのチェック柄マフラーを受け取った。
「ウィンドウショッピングでもいいからさ、自分への贈り物探そう」
 透哉は睦月の手を引きながら、銀座のメインストリートまで連れ出した。
「GINZASIX、行きたいな。色々見たい」
 睦月はそう言うと、透哉と歩を並べた。
 年末で賑わう銀座は、今宵も煌びやかに人々を誘い、楽しませるのだ。
(終)
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