第17話

文字数 1,782文字

 その日、小波はエフェクターを家に忘れて取りに帰り、ミナは空いた待ち時間に新しいピアスを買いに行ってグズグズと選ぶのに迷って、結局メンバーの中で一番最後に待ち合わせの駅前広場に着いた。一人待ちぼうけをくらわされたアキラは、そんなミナに罰だと言ってオシャレなコーヒーショップでドリンクとケーキを買わせた。当初の予定からはかなり遅れて「ヘヴンズ・ドールズ」が入る雑居ビルに向かう道を歩いていたことになる。
「どこに行きやがった」
喚く声達が近づいて来る。ざっと音がして、最初に見慣れない若い男二人が小波たちを一度抜き去ったが、すぐ戻って来て乱暴に聞いた。
「オイお前ら、今こっちにガキが来なかったか」
「見たんじゃねぇのか。隠すなよ、さらうぞ・・・・」
その後に遅れて現れた男たちが制止した。
「馬鹿、もういい」
小波にいつも気を掛けてくれる父親の会社の滝沢と田淵だった。彼らは、小波に軽く会釈をする。小波は察して滝沢と田淵に対してゆっくり首を横に振った。
田淵は再度頭を下げ先の二人の頭を流れるような導線で続けてひっぱたいた。
「え~」
同時に発した声が少女らを一斉に和ませた。滝沢も少し表情を緩ませて若い衆に指示する。
「ここは、大丈夫だ。早く、広い範囲で探せ」
「ハイ! 」不満そうな顔のまま、二手に分かれて走り去った。
「おい、力人、この店はお前の管轄する場所だろ。小僧たちにはしっかり説明しとけ。お嬢さんの顔を知らないようではダメだろ」
「すみません」
小波は助け船を出した。
「最近ここに来てなかったから、しょうがないよ」
滝沢はにこりと笑って「失礼します」と言うと田淵も小波に深く頭をさげその場を二人は後にする。
「それにしても、不気味なやつでしたね。それか、シンプルに馬鹿か」
田淵の言葉に滝沢はニヤッと笑った。
「気は違っているかもしれないが、論理的な動きをする奴だ。強いんだか、弱いんだか分らん。ああいうのは気をつけろよ」
田淵もなんともいえない気圧のようなものを感じていたようで、
「兄貴の言うように、最初は負ける気がしました。でもどこかしっかり制御された、確かなリズムに裏打ちされた上で存在している威圧感でしたね。奴の世界で生かされているような。一見、強そうに見えない少年なのに。背丈もお嬢さん位だし、色素も少し薄めで、時代遅れの作家みたいな」
「そうかもな。狼というよりも野良犬。ただ高貴な血でありながら何故かの悲劇で堕ちた者が放つ独特の匂い。欲しいな」
「相対した時、左右の目つきが違って、そこで本能的に警戒はしましたが、あの可愛げが残ったツラを見てちょっと油断しました」
田淵は先に飛び掛かったどうでもいい雑魚の二人をかわして目の前に立たれた瞬間に、敗北を覚悟して、右ストレートをみまうことを大人しく待っていたが何故かニヤッと笑いやがったのを見て、我に返ってミゾオチをえぐった。
一発くらわしたが、効いたのか効かないのか分からない感じで滝沢に向かって舞う時の声が二人の脳裏にこびり付いていた。聞いたことのあるような、でも知らない歌謡曲みたいな懐かしいメロディー。不思議な時間の感覚がこの少年によってもたらされた。
確信をもった攻撃がするりと全てコントロールされたように少年の周りを流れていく。初めて本職のヤクザと喧嘩して差を思い知ったあの時の、弱者の諦めを思い出させられた感じであった。なのに次の瞬間ガラリと少年の気配がでくのぼうに変っていて、滝沢の拳を成されるまま受けた。だが、何度殴りつけても、真を捉えきれないいやな籠った感触しかなかった。路上に現れたメロディーはレクイエムであった。全てを見透かされ、霊能者にさらけ出されて、代わりに神に許しを乞う獣の為の。
滝沢は田淵の気持ちを代弁するように言った。
「あいつはうたを歌っていやがった。絶対聴いたはずだ。
なのに今となっては不思議な旋律に纏われた事実はもう疑わしく、メロディーはすぐには思い出せない。それなのに、時間を経たある時に当たり前のようにじわじわ聞こえてくる。
前世の記憶の痕跡みたいな・・・・」
田淵も言葉にせずにはいられなかった。
「なんか,重い笑いを隠しているというか、ずっと自分を鏡で見つめているような・・・・。
見方によっては、ナルシストのおたんこなすでしたね」
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