49. VSアゲハ隊⑤ 静音、めっちゃ頑張る
エピソード文字数 3,484文字
減っていくカウントダウン。みんな、一言も口をきかない。緊張してるのかな。だったらほぐしちゃおう。
「じゃあいくよー! 恋する五角形、チーム《ラブトリニティ》出陣だよ!」
『なんだその恋する五角形というのは」
すると、静音ちゃんのツッコミが聞こえて。
「昨日寝る前に考えたんだよ。かっこいいでしょ?」
『ダサいです』
「ええー」
つららちゃんまで辛口なコメント。
だけど、緊張はほぐれたかな?
秒を刻む数字はゼロになり、転送がはじまる。
現れたのは初めて目にするフィールドだよ。夜の大空にいくつもの岩山が浮かんでいる。大きさはまちまちで、それこそ山って感じのすっごく大きいのもあれば、直径一メートルほどの小岩まである。それらが上下左右に乱雑と浮かぶフィールドだよ。まるで岩の森林だね。頭上や足元にもたくさん浮かんでいるから、3D的な視野が求められるよ。
試しにマップを開いてみるよ。マップの高さは、まるでRPGのダンジョンマップみたいにメモリをいじって調節出来る仕様だ。
これで上下にも対応出来るんだけど、違う高さにいる仲間の光点は、マップの高低メモリをいじって探さないといけないから少し大変だよ。
『今回のフィールドは少し厄介そうだな』
静音ちゃんの声が頭に響く。
『それは向こうだって同じっしょ』
と百合華ちゃんの冷静な返し。
うんうん、百合華ちゃんの言う通りだよ。焦るのが一番ダメなパターン。
私は落ち着いて一人一人の居場所を確認し、前もって話し合っていた作戦を口にする。
みるくは左右を巨大な岩山に挟まれた区画にて、静音と合流を果たした。視界の隅に表示させているマップへと目をやると、ヒカリがつららのすぐ近くを降下している最中だった。ここまでは順調だ。
「待て! 誰か来るぞ!」
静音がみるくの腕を引っ張って、岩山の出っ張りへと隠れた。
前方上空より、二人の敵が降下してきている。
一人はマシンガンを手にした前髪の長い女の子、――レイコ。
もう一人は、形状の違うマシンガンをぶらんと両手でたらしている、眠そうな目をした女の子――ふうり。
アゲハ、純以外のメンバーと遭遇した場合、各自の判断で戦闘を行う――それが、今回みんなで決めたやり方。
公式の試合は動画になって保存されているらしく、今朝、ヒカリはアゲハ隊の試合記録を動画で見せてくれた。
その限りでは、レイコとふうりは剣を使わない。接近さえしてしまえば、静音の剣技に抗う術はないということだ。
幸いにも二人との距離は五十メートルほど。全力で飛べば四、五秒で近づける。
みるくは出っ張りに身を潜めたまま、ドキドキしながら二人の様子を伺う。
「いいか? 背中を見せた瞬間、私とみるくの二人で黒い方を銃撃して倒す。残る一人は私が突っ込んで接近戦で片付けるから、みるくは援護を頼む」
黒い方――というのは黒髪をしているレイコのこと。
「ラジャーだよ」
みるくは敬礼のポーズを取り、マシンガンを強く握りしめた。
レイコとふうりは降下を中止し、キョロキョロと首を動かしながら周囲の様子を伺いはじめた。
攻撃を開始するのは、二人が降下を再開し、みるく達より低い高度へ落ちた瞬間。あるいは、その場で身体を反転させた時。
「早く、早く背中を見せて……」
緊張感にマシンガンを握る手が湿っていく。
みるくの願いが通じたのか、対空高度はそのままに、二人が同時に背を向けた。
「今だ」
静音がハンドガンを出現させ、みるくは出っ張りから上半身を出してマシンガンを構えた。
その瞬間、敵はぱっと左右に分かれ、みるくの方を向いた。
「ば、ばれた!?」
「もしくは気付かれていたか。仕方ない。接近戦をしかける」
静音はシールドを展開しながらレイコに斬りかかっていく。みるくは静音の後方からマシンガンで援護射撃。ふうりの注意をこちらに向ける役。
弾丸はふうりに当たってはくれなかったが、ふうりは視線を完全にみるくへと向けた。
弾丸を撃ち尽くしたみるくは、シールドを展開しながらオートリロードが終わるのを待つ。
「オラァッ! 堕ちろ堕ちろォッ!」
レイコがマシンガンをぶっ放した。
だが、静音は放たれる弾丸の数々を匠にかわし、斬りかかる。
横一閃。
高速で振られる斬撃を、レイコは後ろ向きに飛行してギリギリ回避する。
ふうりが銃口を滑らせた。
剣を振るったままの形でいる静音に向ける。しかし、身体のすぐ横をみるくの弾丸が通過し、すぐに後退。リロードが終了したのだ。
ふうりは、再び銃口をみるくに向けた。
みるくはシールドでふうりの射撃を防ぎながら、逃げるレイコの後方に向かって連射――と同時に直進する。
レイコは後退を諦めたのか上昇し、静音の頭上を通過してみるくに近づきはじめた。
「逃すか!」
そこで、静音が左手にハンドガンを再出現させ、レイコを銃撃――と思わせ、ふうりを横から撃った。
不意を突かれたふうりの太ももに数発、実体弾が突き刺さった。
「みるくも頑張っちゃうよ~!」
みるくは左手に柄まで白い光のナイフを具現化させ、投擲する。みるくの視線はレイコに向いていて、ナイフは自動で視線を辿っていく。
「あったれ~!」
レイコが停止し、シールドでナイフを防ぐ。その一瞬の隙を見逃さず、後ろから斬りかかる静音。
ハッとして振り返るレイコのシールドに、重剣が食い込んだ。
「シールドがもたないィィッ!?」
その瞬間には静音は重剣を手放し、弾かれて宙を舞っていたナイフをキャッチ。シールドの横から襲いかかってレイコの横腹を刺す。
「ぬぁっ、こ、こいつ――ナイフをォォっ!」
「あるものは全部使わないとな?」
怯んだところで腹を蹴り飛ばされ、空中で半回転、背中を見せるレイコ。その背に、静音は何発も弾丸をぶち込んだ。
「くそーーーーっ!」
レイコが叫び、光の欠片となって消滅する。
「ヒカリ! レイコ撃破だよ!」
『ナイスみるくちゃん、静音ちゃん!』
そこでふうりが黒い魔法弾を投げた。
「静音! 後ろだよ~!」
「わかっている!」
静音は素早く上昇し、爆撃を回避した。黒い爆炎が静音の足下で、岩壁を丸く削る。
みるくは一気に加速し、マシンガンの弾をばら撒いた。牽制が目的だったが、弾は全弾ふうりのシールドに命中する。連続して火花を散らし、砕け散るシールド。シールドの破片が邪魔したのか、ふうりが目を瞑った。
その刹那、上空から静音が闇の魔法弾を投げた。
ドオオオン!
という空気を振動させる爆音。爆煙がはれると、ふうりの姿はなかった。
「やったよ~」
喜んだのもつかの間
「みるく! 上だ!」
「えっ……」
見上げると、なんと上空から敵が迫ってきていた。
剣の切っ先をみるくに捧げ、弾丸みたいな勢いで迫ってくるオレンジ髪の少女――猫牙純。
みるくは慌ててマシンガンを持ち上げて、リロードタイムに直面した。
「た、タマ切れぇぇ~~!?」
ドスリ。
みるくは心臓に軽い衝撃を受けた。
みるくの身体が散ったのと同時に、私は重剣を右手に加速していた。
上段から下段への強烈な縦一閃。火花が散り、重々しい金属音が鼓膜を振舞わせる。
十字に押し付け合う刃を挟んで、私は純とかいう女と視線を重ねた。
「オマエとは一対一で戦いたかった」
「そいつは光栄だな」
どちらからともなく後方へ飛び退る。再び斬りかかるのも同時。三回、刃をこすり合わせるように交錯し合い、またも鍔迫り合いの形に突入する。
強い。
猫牙純の身長は女にしては高めで、手脚にもほどよく筋肉がついている。鍛えているのだろう。
剣の扱いにも相当慣れている様子。
正面からの斬り合いは避けて、百合華かつららと合流するまで距離を取るべきだろうか。
そんな思考が頭をよぎるが、すぐさま捨て去る。
「エースが逃げてどうするんだ。みるくは最高のサポートをしてくれた。なら、それに応えるのが私の役目だ!」
私は重剣をわずかに傾かせて、切っ先を猫牙純の握る剣の上に走らせた。
そのまますれ違い様に肩を斬り裂き、身体を反転させながら追撃――重剣を真横に振るった。
猫牙純は身を低くし、私の剣撃をかわして見せた。
「やるなぁ。だけど、勝ちは譲らないよ?」
そう口にし、長剣の切っ先を私の喉元めがけて、斜め下方から突き出そうとする。
その刹那だった。