第6話 カラオケ&ハニトー

文字数 1,792文字


 次の日の放課後。
 一緒に街を歩いても、ハルジは明らかに目立っていた。

 その証拠に、カラオケに入る時も受付の人はガン見。
 廊下ですれ違った女子グループは、全員がハルジを振り返る。
 そのせいかドアを閉めてふたりきりになると、今度は妙な優越感が襲ってきた。

 これが儚い愉悦、ってヤツなのかな。
 あたし、間違いなく浮かれてる。

「アマネ。ほんとにニホンのジョシコーセーは、昼間からビールやワインの置いてあるカラオケBAR(バー)に出入りするのか?」

 ハルジは床から天井まで、物珍しそうにカラオケボックスの室内をぐるりと見渡した。

「そうだよ。お酒は注文しないけど」

「それより、ぜんぶ個室なんだが」

「う、うん?」

「どうやってマラーイカを捜すんだ? 覗いて回るのか?」

 ハルジの天使(マラーイカ)を捜すと言いながら、ちょっとしたデート気分を楽しんでいるのは後ろめたい。
 けど「あなたの天使は私です」と告白するタイミングも、完全に逃してしまった。

「あっと、それは……」

 不意にハルジが、顔をのぞき込んできた。
 妙にいい匂いのせいで、ふらっと引き寄せられてしまう。

「アマネも、カラオケBARにはよく出入りするのか」

「いや、出入りって言うとアレだけど……あっ、来た来た!」

 いいところで話を切ってくれた店員さん、感謝します。

 ごめんね、ハルジ。
 この夢を叶えたら、すぐに出て行くから。

「なんだこれ」

「ハニトーだよ。あたし一度、一緒に食べてみたかったんだ」

 でん、とアイスの帽子をかぶった一斤のトーストにトッピング各種がずらりと並ぶ。

「誰と?」

「え?」

 彼氏とふたりでカラオケ&ハニトーが、あたしの安い夢。
 それを今、卑怯な方法で叶えている。

 だって、マラーイカなんていないし。
 マラーイカは、あたしだし。

 けどこれって、(ゆる)されるかな――。

「パン、切ってないぞ」

「これでいいの。さ、ハルジも食べて」

「また、ほっぺにクリーム付けるなよ」

 ハルジはアイスの溶け始めたハニトーにどこから手を付けていいか真剣に悩みながら、あたしの微妙な心を無意識にくすぐってくる。

 そう。
 こういうなんでもない話をしながらボックスでハニトー食べるの、憧れてたんだ。

「じ、自分じゃ見えないから、ハルジに任せたよ」

「OK。今度は舐めてやるから、覚悟しろよ?」

 いたずらっぽく笑ったハルジの方が、口元に生クリームをつけている。
 軽い仕返しのつもりで、その唇に指を伸ばした。

「お、おい」

 意外に頬を赤らめたハルジを見て、大胆すぎる行動に我ながら怖くなった。

 ヤバい。
 なんかあたし、すごい勘違いしてる。
 ハルジとは幼なじみでも、なんでもないのに。

「あ、ごめん……」

「勘弁してくれよ、そういうの慣れてないし」

「え?」

 その顔は、同い年のハルジだった。
 どんどん、ハルジが身近になっていく。

「いや、なんでもない。ちょっと……うん、トイレ行くぞ」

「行くぞって――は?」

 急に腕を掴んできたハルジは、真剣だった。

「どこだトイレは」

「ちょっと、あたしも一緒!?」

「当たり前だろ。警護中なんだ」

「大丈夫だよ、ここで待ってるから」

 どうせボディーガードなんて、日本にハルジを連れてくるための嘘だよ。
 ハルジの故郷である日本を、見せたかっただけなんだから。
 あのバカ親父も、わりといいとこあるよね。

「そうはいかん。オレがトイレに入ってる間、ずっと話しかける。アマネは入り口の前で、それに返事し続けてくれ」

「それ、イヤすぎるから!」

「仕方ない、一緒に」

「ムリムリ、もっと無理ッ!」

「くそう、護衛(ガイド)として最低の手段だが」

 ワンショルダーのバッグから、見慣れない型のスマホを差し出してきた。

「……なにこれ」

「特注のGPS(ガーミン)だ。ここを押すと、オレとチーフのスマートフォンに緊急連絡が飛ぶ」

 GPSって、それ単独の機能のヤツがあるんだ。
 真剣なハルジを前に、断るわけにもいかないし。

「わかったから、早く行ってきて」

「いいか、迷わず押せよ」

「おっけ、OK」

 親指を立てて見送ると、ハルジは何度も振り返りながらようやく部屋のドアを閉めた。

「ボディーガードって……もう少し気の利いたウソはなかったかねぇ、あのバカ親父」

 再び開いたドアに、思わずため息が出た。
 心配性にもほどがあるって。

「もう、しつこいなぁ。わかったから――」


 そこに立っていた男たちを見て、自分の浅はかさを後悔するしかなかった。



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