第9話 介護職員の人間関係

文字数 1,270文字

「介護の仕事は人間関係がキツい、と聞きます。頑張って…」という言葉を、20年来の友人から頂いた。認知症の方々との関係ではなく、そこで働く「従業員どうしの関係」のこと。
 確かにそれは、身をもって思い知っているつもりだ。実際、「自分は仕事がデキる」と自覚し、周囲からもそう見られている従業員ほど、高い自尊心を持ち、絶対的に自分が正しいと考えているように感じる。

 先日、このようなことがあった。遅番の多い私は、3時のおやつを入居者さん方に出す作業をしたことがなかった。だが、「仕事がデキる」と自他共に認めているベテランのパート女性は、「そんなことないでしょう。その時間、ぼーっとしているか、喋っているんでしょう」とおっしゃる。その時間、私は入居者さんをお風呂に入れているので、物理的に無理だった。

 こんな感じでいいのかな、と思いながらおやつを切り、お茶を入れ、10名の方々に差し上げる。その後、注意を受けた。私の入れたお茶のカップは「昼食用」であって、おやつの時使う物ではない、と。そしてどこかに用意されていた、お盆に載ったおやつ用の10個のカップを、満面の笑みを讃えて持って来たのだった。
「若くないと、仕事を覚えるのが遅くなるでしょう」ともおっしゃられる。

 また、少々怒りっぽい入居者さんがいらっしゃるのだが、その方をトイレに連れて行くように、との指令を受け、「○○さん、トイレ行きましょうか」と私がその方を誘導する。「行かん!そんなとこ、行かん!」と拒否なさる。それを見て、彼女はやはり心から嬉しそうに笑みを浮かべ、怒れるひとをなだめすかし、トイレに連れて行く。
「1ヵ月で、早い人は覚えるのに」と、私に向けて、眼を合わせずにおっしゃりながら。

 申し訳ないが、このフロアを担当するのは5日目である。研修と勉強会に参加した日もあった。正直に言って、この方のトイレ誘導は初めてだった。
 その後も、何かと私のアラを探し、「お前は仕事ができないのだ」と見せつけてくるような感じ、実際そのような物言いで何かおっしゃっていた。

 ところで、また別のベテラン男性従業員数人からは、「入居者さんとのコミュ力がすごいデキている」と、ほめられた。恥ずかしいから、こんなことは書きたくないが…
 くだんのパート女性は、「あなた、みんな(入居者さん)から嫌われてないでしょう」と、にこりともせずに言う。暗に、「こっちが困るのよ。あなたばかりイイ顔されたら」という含みがあるように思われた。

 従業員どうしの心理的なねばりつきは、どうでもいいと思いたい。自分は、職員の人間関係をするために仕事をしているのではない、と思いたい。
 これでも、悩み、休日もそのことで頭が一杯になるけれど…悩んだところで、どうしようもない。
 ああ、自分は、そのような人たちによって悩んでいる。悩ませているのは、彼らの存在、言葉、態度、そこから受ける私の「感受作用」によってであって、受けた私自身を、自分でどうにかしなければ。彼らは「外」にいる、私は私の「内」をしっかりしなければ、としようとしていた。
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