十六・ 通訳業: 高原リツコ(たかはら・りつこ)の呼びかけ。
文字数 2,656文字
これまでの、ネット上の意見交換や、あくまでも『架空の』事態を想定しあった上での、机上の空論的な対策検討案の発表会では…ない。
【FIFS】とは『SF&IF』のアナグラム…というか、『悪魔的な』逆読みだ。
その実態は。
元をただせば『SF作家とIF設定愛好家によるリアル世界救済計画検討会』なる、
いわゆる単なる『同人(ファンジン)活動』に端を発する。
ただし、参加メンバーはハンパじゃなかった。
不朽の名作『パリー・ホーター』シリーズの作者とその子孫たちや、名だたるハリウッド映画の監督やら脚本家らを初めとして。
SF&FT界の大御所やら重鎮やら長老やらと呼ばれる超人気クリエイターたちや。
はたまたSF(フィクション)とは無関係に、実際的な政治的発言を続けてきた著名なポーベル文学賞受賞者や、社会派的関心は低いのかと思われていた各国の人気エンタメ作家や、アニメ監督やら、漫画家やらが。
早期から、錚々たる名前を連ねて、検討会に参加していた。
もちろん、われらがウマシカ先生が末端に籍を置いていたのは、言うまでもない。
議題はひたすら、「今のまま放置していたら、人類と地球は、どうなるのか。
我々はどこから来て、どこへ行くのか。何が出来るのか。…いや、するべきか?
なさざるべきか? はたはまた…??』という…
遠大な、もので。
(『何も。なにも、せんほうがええ!』というポンニツ島国からの声は、常にあった。)
しょせん机上の空論だと。
実際に命を張った活動を続ける環境保護家や人権家、非暴力直接行動を主張し続けて、殴られ拷問され、殺され続けている…市井の人々や。反政府武装闘争を闘う独立革命軍人などからは、当初は嘲笑された。
しかし。
リアル発動した。
クラウド(雲)ファンディングの向うを張って、
計画名は『ネビュラ(星雲)ファンド』と発表された。
人類救済計画だ。
生命と、文化と尊厳の。
そしてできれば、現存する、全生態系の。
せめて、健全な個体が生きているうちに…
遺伝子情報の、採集と保存を…。
*
はじめ、ハッカショ村が海に沈んだ、当初。
世界はそれを『人類史上最大最悪の天害人災の悪夢』と名づけて、嘆き悲しんだ。
ポーシャ毒を大量に含んだ雨や風で甚大な汚染の被害を蒙った各国政府は、ポンニツ島国政府を相手どって激烈に非難し糾弾し。
『地球に対する罪』と称して、国際法廷で欠席裁判を行い。
天文学的数字にのぼる損害賠償請求を…
突きつけた。
国際司法警察が鼻息も荒く、ポンニツ島に乗り込んだ時。
ポンニツ政府首脳陣は、すでにすべて遁走した後で。
国会はもぬけの殻だった。
緑の衣をまとった軍部が速やかに後を引き継ぎ、実権を掌握し。
「賠償支払い義務はない!」と、声高に主張して、世界を敵に回した。
大紛糾、した。
しかし。
*
後に『炎の七年間』と呼ばれる悪夢の日々が、突如として始まった。
数々の小隕石が飛来し。あるものは地表に激突し。あるいは月面に巨大な穴を開け。
衝突回避のために結集した超常力技能集団は、一般人類からは悪魔教だのサバトだの魔女だの狂信団体呼ばわりされて、忌避され、激烈に排斥された。
各地でありとあらゆる人種対立と民族紛争と階級闘争と独裁弾圧と反政府非暴力闘争と武装革命と無政府『逃散』運動が…互いに互いを非難しあって激突し。
地震と噴火と津波と異常気象と幻視毒発電機の連鎖的暴走事故の多発と。
次々に発生するポーシャ毒霧雲やその他の化学毒物の嵐や津波や。
さらにさらにさらに…
色々カクテルされた挙句に濃縮された複合汚染の竜巻やら汚染海域が。
全地球上を、ところせましと席捲しつくし…
悪夢。としか言いようのない世界になった。
*
不思議と、一部の世界通信システムだけは、かろうじて存続していた。
生命への災害!と非難され続けた、既存の大手企業主導による6G通信網に対抗して。
『無我システム』とも呼ばれる全く新しい通信技術の民間ボランティアによる開発チームを、FIFSが秘かに資本支援して立ち上げ、草の根に普及させていた…
おかげだ。
FIFSに賛同する者らすべてに対して、生き残った無我システムを通じて、
『ネビュラ・ファンド』への全力支援が要請された。
世界が、動いた。
『 無能無策な上に、庶民を苦しめる役にしか立っていない、
各国政府や国連には、もう任せておけない!
すべての生命のサバイバルのために。
あらゆる国境も、人種も性別も、経済力も、超えて…
手を、つなごう。 』
…リアル異世界的な、本物の『おとぎ話』だと、
みんなは喜んだ。
もはや、それしか、希望が、無かった…。
*
持てる者は全私財を投じて、資金援助した。
持たざる者はそれぞれなりに、おのれに出来ることを探して動いた。
すでに定着していた『宇宙旅行』(無重力高度まで往復二泊三日程度の娯楽とステイタス自慢のためだけの観光体験だ)用だった、超高度到達飛宙機の大量生産技術と設備が。
全権利を放棄して、全世界に開放された。
世界中から技術者がボランティアで集まった。
心ある企業は、蓄積していた資材を放出した。
次々に、厳しい訓練を短期間でクリアした人々が、続々と宇宙へ上り。
急ピッチで、巨大宇宙港が建設された。
名前を、『ポート・オブ・ピープルズ・パワー』
…『3PS』(スリーピース)と称した。
最大二十万人ほどが、収容可能だった。
続々と移住した。
そして次々と、宇宙移住希望者のための、受け入れ居住施設の新規建設が…
終わることなく続いた。
美味賜香子社長を筆頭として。パペル社からも。
多くの人員が、『3PS』建設に参加し。
また、初期移住者に名前を連ねた。
*
ポックル・ポンニ・ポキナワ列島連邦(旧単一国/ほぼ同一言語圏)に対する、
『FIFS』からのネビュラファンド参加要請の呼びかけ代表は。
もとよりパペル社とは何かと縁の深かった、パサミアモリ学園出身の多言語間同時通訳技能者・高原リツコ(たかはら・りつこ)が務めた。
ポン語圏からの資金供与と技術援助ボランティアの受け入れ窓口の実務総括は、パペル社の元副社長・長野緑が補佐した。