第6話 一か八かの賭け

文字数 12,836文字

「ママ?」

「なあに?」

「次は金太郎と浦島太郎を入れてみたいんだけど……」

「さっき言っていたやつね? でもあの組み合わせ……危険かもしれないわよ? もしもアリサが言った通りになったら運営様に☆BAN☆される危険性もあるからね? その覚悟はおあり?」

「大袈裟wそうなったらその時よwwwwwそれでもアリサ、どういうタイトルになるかだけはアリサ自身の目でどうしても確認しておきたいの!!」
アリサちゃんはとても知的好奇心が旺盛ですね。

「いいわ! じゃあやってみなさい。あんたの事だからどうせスロット1に金太郎を入れるんでしょ?」

「はいっ! 私の予想が正しければ☆あのタイトル☆が出てきて、その瞬間に☆BAN☆されて、永遠にこの業界から追放。で、ママの予想が当たれば、きらしま太郎になる筈よね?」 

「そうなるわね。いいの? この段階であればまだ引き返せるけど? スロット1に浦島太郎でもいいのよ? そこまで命を張るような事でもないんだからさあ」

「逃げない! 退かぬ! 媚びぬ!! 省みぬ!!! それどころかこういう生死の掛かった勝負って、普段のぬるま湯生活では絶対に味わう事の出来ない

【死の恐怖を感じる事が出来る稀有なチャンス】

なのよwそんなチャンスこの私がむざむざ逃す訳ないでしょ!? ええ、実は怖いよ? 怖くないと言ったら嘘になる。最悪地獄の業火に焼かれ、その愚行を未来永劫子々孫々語り継がれ、数千億人の人間にあざ笑われる危険性もある。
でも、だから、だからこそ! 勝った時の喜びは一入ひとしおなのさぁ。ああ~今私さぁ、めちゃくちゃ楽しぃよおおおおお幸せええええええww」
アリサちゃん満面の笑みです。しかし、死の恐怖とか稀有とかどこでそんな言葉を覚えて来るんですかね?

「全く、命知らずのギャンブラーねwさあて、どうなるかしら?」
差し込み差し込み
パアー

「出てきた! なになに? あ……」

「ああ……これは予想外……丁度間を取って来たわねえ。まあとりあえずはBAN対象からは外れたわね。よかったわw」
間ですか? どういう事でしょうか?

「だねー。もし予想通りだったらここで人生終了だもんねwでもなんかあっさりしすぎてちょっと悲しい……何でかなあ? もしかしたら深層心理ではあれを望んで……そう、死ぬ事を渇望していた? フッまさか……ね……で……? きんしま太郎かあ……どんな話なんだろう?」
アリサちゃん? いいえ。アリサ様? あなた様は一体何周目の人生を歩んでいる最中なのでしょうか? あなた様を見ていると、まるで過去世の記憶を引き継ぎ、

*強くてニューゲーム*

を継続している。
そう、魂に記憶を定着させつつ、朽ちた肉体を捨て、別の新たな肉体へと転生を幾度となく繰り返している特別な存在。そんな風に感じ取れるのです。いわゆるリインカーネーション型の転生ですね。転生には3種類あり、輪廻型と転生型は記憶を引き継ぐ事はありません。アリサ様はリインカーネーション型で継続されている危険性があります。それも1回や2回ではないでしょう。
私の肌感で申し訳ありませんが、2桁台は軽く超えている感じがするのです。数多の人生が、経験が、記憶があなた様を形成されている物の正体なのですね? 何人もの人生を生き、積み重ね、鍛錬に鍛錬を重ね、堆積された膨大な知性が、高潔な魂が、あなた様の内側からひしひしと感じ取れる。そうではありませんか? いいえ。答えなくても分かっています。私のこの直感、九分九厘合っていると思います。そうでなければあなた様のその実年齢と乖離し過ぎた考え方や、驚異的な語彙力の説明が付きません。そして、これからもそれが継続可能ならば、それを繰り返す事で神? いいえ。それ以上の存在になれる可能性も秘められているのです。ただの人間であってもそれを幾度となく繰り返す事が出来れば当然神を凌駕出来る筈でしょう。
時々居ませんか? 同学年なのにとんでもなく頭の良い子がクラスに一人か二人は? そういう子はもしかしたらリインカーネーション型を繰り返し、複数回人生を経験しているのかもしれないのです。まあ勉強の出来ない子が優秀な人を妬み、悔しくてそういううわさを流している可能性もあるとは思いますが。アリサ様がもし本当にリインカーネーション型転生者であれば、新米女神の私なんかよりも遥か上位の存在と言う事に……え? 何で女神がこんな仕事をしているの!? ですって? いいえ。何でもありません……私程度の下っ端が女神の訳がないじゃないですか……いいえ。嘘はいけませんね……一応私、女神をやっています。ですが、その事に関しては今は言いたくないのです。もしも気が向いた時、機会があれば改めて話す事に致しましょう。では、続き行きます。

「じゃあ読んでみましょう」

「お願いします!」

「コホン、では、きんしま太郎はじまりはじまりぃ」

「わーい」
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むかしむかし相模さがみの国の足柄山に、きんしま太郎という男の子がいました。
彼は【禁】と言う文字が大きく書いてある赤い菱形の腹かけを着ていて、まさかりを担いでいるとても元気な子です。
そのまさかりで、良さそうな木を伐採しては山を走りまわっています。更に意外な事に、川釣りをする程の釣り好きで、腰には魚籠びくを下げ、釣り竿も左手に常に携帯しています。その腕前も一流で、山間渓流で、クマよりも多くの魚を捕れる程なのです。
そんなきんしま太郎は、お母さんと二人で暮らしています。

「お母さん! ただいまぁ!!!」

「禁止! ただいピーよ!」
おや? お母さんに怒られてしまいましたよ? 声が小さかったと言う事でしょうか? ですが、皆さんも聞いたとは思いますが、きんしま太郎もエクスクラメーションマークを3つも使用しています。
1つでも十分なのに、それを3つも使っている事からも分かりますが、彼は元気一杯にただいまと言った筈です。ですが……お母さんは怒りました。まさか耳が悪いのでしょうか? え? ぴい? ぴいとは? モケポンのピピッの進化前のぴーぃの事を言っているのでしょうか? 


で、ですが何故このタイミングでモケポンが出てくるのでしょう? 確かに可愛らしいからいいのですけれど関係性は皆無……うーん……分かりません。

「しまった!」

「禁止! しピーったです!」

「すいません」

「禁止! すいピーせん!!」
あらあら……

「すいピーせん……」

「合格!」
な、何でしょう? 矢継ぎ早に起こる会話の応酬に、私の頭が混乱してしまいましたよ? 禁止? 合格? 何を禁止で何を合格させたのですか? 何故彼は謝ったのに怒られているのですか? 厳格な家庭なのでしょうか? これ以上この事を考えるのは脳に疲労を与える危険性があり、後の語りにも影響を与えます……こんな複雑怪奇な状況を無理やり突き止めようとする愚行は諦めましょう。皆様も無理は禁物ですよ?

「はい! ま……いけねっ! ピーきだよ!」
ムムム……何ですかねえ? ぴいきと言いつつ、お母さんに薪を渡します。
彼は何故正しい【薪】と言う言葉を、【ぴいき】と言うおかしい言い方に言い直す必要性があるのですか? 私には一切法則が見えてきません……私が馬鹿なだけでしょうか?

「ピーあいいでしょう。でもいピー、言い掛けていピーしたよ? しっかりと意識を集中させなさい?」
ピーア? 筋肉質で海パン一丁で、そんなの関係ないじょのいこや、ハイッオッピッパーとかのギャグで大活躍中の人でしょうか? 名前がうろ覚えで思い出せませんが………

「はい!」
変な親子です。でも、それ以外は普通ですね。そして、きんしま太郎のお母さんは薪を受け取ると、それを利用し、とってもおいしいごはんを作ってくれました。
お母さんのごはんを残さず食べて、ふたりともにっこり。

「ごちそうさピーでした!」
やはり何かがおかしいです……ここはどう考えてもごちそうさまでしょ……

「はい合格!」

「やったー」
……またです……何が合格なのでしょう? きんしま太郎のお母さんは彼のセリフから何かを判定しているようですが、今の所分かりません。
この先も同じような事があるのならその内に合否の法則を見出し、その秘密を皆様にも報告できる可能性は出てくるでしょうが、何せ情報が足りなさすぎます……しかし、この流れから通常の家庭ではないと言う事は分かります。そして、彼は母親に何かを制限された状態で生活をしているようですね。なんか窮屈ですねえ。私なら2日で飽きてしまうでしょう。
そして彼の父親ですが、実は天にいる赤い龍だそうです。名前は分かりませんが今は出張中で、3か月位アフリカに単身赴任中とのことです。どうも水不足の問題を解決するために派遣されたそうですが……赤いドラゴンと言ったら恐らく炎属性です。故にそんな属性の竜を水不足の地域に派遣したら逆に残り少ない水までもが蒸発し、更に失われてしまう危険性があるのではないでしょうか? まあ派遣した部長も何か考えがあっての事なのでしょう。私の様な素人が口出しするべきではなかったですね。しかし、レッドドラゴンと人間の子供が人間なんですね。不思議です。

翌日、きんしま太郎の友達、山の動物達と毎日色んな事をして一緒に遊びます。
どんな遊びをしているのでしょうか?

ある日は、おすもう。
「うおおおおおお 足柄山(あしがらざん)おろしいいいいいい」
ドスーン

「負けたクマ―いててて顎関節がちょっと外れちゃったw」
ああ! 物凄い投げ技です。600kgはあるであろうクマを10m投げ飛ばしましたよ? 小さな体に百人力の力を宿しているみたいですね。この力こそが竜の血を引き継いでいる証でしょう。しかし、相手のクマさんは頭から落ちて顎関節が外れてしまったようですよ? 投げ方を考えるべきだと思います。まだ幼い故に力が制御出来ていないって事なのでしょうかね……クマも可哀想に……

「禁止! 負け……しまった!! ピーけたクピー! って言い直して!」
何故か勝ったのに怒っていますね。不思議ですね。

「きんしま太郎さんも言ってるクマ―ww 負け……しまった!! ってw2回もw」
おや? クマはきんしま太郎のその謎の性癖を知っているみたいですね。そして彼を馬鹿にしたような口をきいています。しかしこの謎はまだまだ情報不足です。解明には時間がかかるでしょう。 

「きっ、禁止! 禁止ィ!! 早く言い直して!」

「はいはいww ピーけたクピーw これでいいんでしょ?ww」

「合格!」

「でもまだ!」

「え?」

「ほら! さっきの! きんしピー太郎さんもピー違えてるクピーも!」

「でも【まだ】って言ってるじゃんww自分の決めたルールすらも守れてないクマw」

「あっ!!」

「もう帰るクマwじゃあねw」

「く、くそう……チッ チッ グスン」
ドゴンミ☆
舌打ちをして地面を殴ります。不思議です。本来クマに相撲で勝った男が、試合後の数言のやり取りの末、敗者に言い諭さとされ、悔し涙を流しているのです。これほど異様な光景を見た事はありません。
本来体が大きいクマに人間が力で勝つなんて奇跡、ごく一部の本当に武術のみに人生を掛け、血の滲むような修行を積み重ね続けた【大谷倍達】クラスの男以外は達成出来ないでしょう。
それを既にこの幼い段階で達成した男が、肩を震わせ泣いているのです。クマが言った少ない言葉で。あの言葉に人を悲しませる要素があったのでしょうか? 確か、彼の中で決定したルールを彼自身が守れていないと言った内容でしたが、私はあの言葉をいくら言われても何も感じないでしょう。まだ私自身情報不足故かも知れませんが……そういえばお母さんにも似たような事で怒られていました。これと関係がありそうな気もします。ですが、まだまだまだまだ情報不足です。

そして、ある日はつなひき。
「オーエスオーエス」

「おりゃ! 勝ったあ」

「ぴーけたあ」

「合格!」

そして、ある日は、かけっこ。
「うおーー」
だだだだだ

「なんて速さだウサ……亀にもピーけて人間にもピーける……僕って実はそれほど速くない生物だったんだウサ……」
ウサギががっくりと肩を落とします。

「合格! でも勝負は時の運! 次は僕がピーけるかもしれない! 練習あるのみだよ!」

「わかったウサ。次こそはカツカレー」

「わはははは」

そして、ある日は、泳ぎっこ。
「川は飽きたし今日は海に行く! クピー!」
そしてクマを大声で呼びます。クマ―と呼べばいいのに何故?

「呼んだクま……呼んだクピー?」

「禁止!」

「先に言い直したじゃんwwww突っ込み遅いよwwww」

「ごめん! でも言った! その罪は消えない! 言い直した位では許されない! 気を付ける! じゃあ海に行くから乗せて!」

「はいはいww」
クマも呆れている様子です。
いつもは川で泳いでいますが、今日は海に向かいます。釣りも得意な子なので、海の幸も捕るのでしょうね。熊に乗って勇ましく歌を歌いながら下山します。
♪ま……ピーさかりかついできんしピー太郎♪ く……まじゃない……♪くーピーにま……ピーたがりおうピーのけいこ♪
♪ハイ シィ ドウ ドウ ハイ ドウ ドウ♪  ♪ハイ シィ ドウ ドウ ハイ ドウ ドウ♪
あれ? やはり歌も変ですね。とても歌いづらそうです。ですが後半はスムーズに意気揚々と歌えています。なんでこんな歌い方なのか? もやもやしますね……真実さえ分かればこんな事にはならない筈なのに……悔しいです……

「滅茶苦茶間違えてるクマwそれもう疲れない?ww」
クマが心配していますね。

「全然平気! あっ! 禁止! ピー違えてるクピーに! 早急に! 一瀉千里に!」
なんですう―?

「めんどくさw ピー違えてるクピーwwこれでいいんでしょww?(どうせきんしま太郎さん次の言葉【合格!】って言うんだクマwww絶対に言うクマww)」

「合格!」

「www」

「なんで笑う? 不適切!」

「いやいや適切だよw」

「そうなの? ピーあいいや。今日は思いっきり泳ぐ!」
ダダダダダ
浜辺に到着し、海に向かって走りだします。すると途中で子供たちが何かを囲んでいるようです。

「あれは何? ちょっと行く!」

「ほっとけばいいと思うクマ」

「駄目! 後禁止! 思うクピーに言い直して!」

「思うクピー」

「合格!」
クピーって……ドクターストレートパーマアフロちゃんに出てくるカッちゃんですか?
とことこ

子供1「この盗賊カメめ! 早く返すんだ! このままでは許さないよ」
ポカポコ
子供2「この泥棒カメめ! 検非違使けびいしに連れて行ってやるべ」
ドカバキ
子供3「さっさと返せ! こののろまカメ!」
ゴンゴン
「信じて下さい! 本当なんだカメ」
おや? 子供達が三人がかりで一匹のカメをいじめていますね。

「禁止!」

「な、なんだお前!」

「禁止! なんだおピーえ! と言い直して!」

子供1「なんでです? 関係ないでしょう!」

「なんだおピーえ! って言うの!」

「なんで? いやだよ!」

「他にも……沢山あった! 思い出す! 落ち着く落ち着く……ええとあれでしょ? それにあれもだ! ねえ! 子供!」

「な、なに?」
 
「子供1! 君はこのピーピーでは許さないよ。に言い直して! 後、子供3はこののろピーなカメに言い直して!」
なぜですか?

子供1「な? なんでなの? 意味が分からないよ?」

子供3「そうだそうだ!」

「禁止だから!! 早く言い直して! お願いだから!」
物凄い顔で睨んでいます。
ゴゴゴゴゴゴゴ
子供1「え、(な、なんだぁ? あの赤いの?)えーと このピーピーでは許さないよ!?」

子供3「こ、こののろピーなカメめ! こ、これでよろしいでしょうか?」

「合格!」
よく見るときんしま太郎の背中から深紅のドラゴニックオーラが浮かび上がっていました。しかも普段は見えない様に糸色と言う気配を絶つ技術で隠しているのですが、今回は一般人にも見えるように糸色を緩め、あえて子供にも見える位までに顕在化させ気付かせました。そうすればスムーズに事が運ぶと確信したのでしょうね。中々賢い子です。
案の定初めて見るそのオーラに委縮した子供達は、最早催眠術にかかった人の様に従う他ありません。きんしま太郎? あなたはお願いだからって子供達に言っていましたけど、こんなのはお願いでもなんでもないんですよ。その言葉で従ったのではなく、あなたにしか出来ないドラゴニックオーラを意図的に展開させ、従わせただけの【脅迫】にすぎません。

「で、何があったの? 亀!」

「そ、それがこの亀、うちの子猫を背中に乗せて連れ去ろうとしたんですよ」



「どうして?」

「そ、それが……こいつ言い訳したんだ」

「どんな!?」

「カメ曰く子猫が

「この国から左上にある東ニャンアジアと言う地方にある、ニャンボジアと言う国の世界遺産のニャンコールキャットに行きたい。その為には、水陸両用のカメタクシーでないと辿り着けない。だからここでお別れにゃ。今までお世話ににゃりましたって言っていたカメ」

って言ってたって言うんです。うちの猫に限ってそんな筈ないんです! めっちゃ家猫ですし。そんなでたらめを言って、私の愛猫を海の外に連れて行くなんて……許せなくって……信じられなくって……だってこの国以外に国があるなんてそこら辺に転がっているカメが知っている訳がないんです。そんな爬虫類の口から人間である私ですら知らない新事実を聞く事になるなんて思いもしなくて……そんな突拍子もない事を信じろって……どうしても受け入れられなくて……国は、大陸は……ここ、日本しかない筈なんです! 周囲は全て海なんですよ! 東西南北、津々浦々、縦横無尽に駆け巡ったところで何もない筈なんです! それを知っている私がそんな事を許したら、シートベルトもない様な安全性に欠けるカメタクシーで広大な海上を旅する事を許可したと言う事になるんです。運よく一度も嵐に逢わなければいいですが、海の天気なんてものはプロでも読めない」

「ちょっとま、ちょっとピーって! 長いよ」

「説明している途中でしょうが! 勝手に口を挟むな! ……ですから突然の高波に遭遇するリスクを背負わせ、本当に存在するかどうかも分からないその世界遺産とやらに行く許可を下した。と、言う非人道的な飼い主として永遠に後ろ指差されるのです……そんな無責任な事は出来ないのです! 大切な物とずっと一緒に居たい。そんなかけがえのない唯一無二の気持ち、あなたにだってあるでしょう。いけないんですか? ずっと愛猫と暮らしたい。そんなささやかな幸せすら私から奪うのでしょうか? いいえ? 私は戦う! もしもそれが違うと言われようと戦い続ける。それが私の今の考えなのです。若さ故についヒートアップした事は反省……ですけれど、ね……私からは以上です」
よくしゃべる子供です。しかし、この時代の子供は外国が存在する事を知らないみたいですね。

「そうなの……ええとええとうーんうーん長すぎる……でも……あっ 見つけた! 禁止! いピーピーでお世話ににゃりピーした! と、それが私のいピーの考えなのです。に、言い直して! 早く!」
彼は今子供1からとても悲しい話を聞いた筈です。ですが一切涙は流さずずっと何かを思い出す事に専念していました。そしてそれを見つけたら子供を叱ります。あれだけのセリフを思い出せるとはかなり記憶力は高そうですね。

「え……? あっいけね! いピーピーでお世話ににゃりピーした! と……それが私のいピーの考えなのです」

「合格!」
なんだかよく分かりませんが、私、このやり取りもそろそろ飽きてきました。そして吐き気がします。

「それで猫は?」

「そういえばいませんね。いじめていた時は確かに亀の上に居たのですが」
あらあら……猫ちゃんに当たったらどうするんですか? せめて亀の上から避難させてからいじめ……いいえ。いじめ自体いけませんね。しかしこの子供、そんな状態でいじめるなんて本当に猫が好きなのでしょうか?

「禁止! そういえばいピーせんね!」

「すいま……すいピーせん」

「今ギリギリだった! もう一度!」

「すいピーせん」

「謝るだけじゃ駄目! ほら! 後、そういえばいピーせんねも言ってない! 早く! 言い直す!」

「ああっ! 忘れていピーした……そういえばいピーせんね」

「合格!」
……吐き気がします。

「もうこんな事をしてはいけない! 亀を逃がしてやる!」

「はい、すいピーせんでした」

「合格!」
スタコラサッサー
合格の言葉に胸をなでおろし、3人は去っていきました。

「た、助かりましたカメ」

「禁止!」

「え?」

「ほら! さっきの子供達と僕のやり取りを思い出す!」

「あっ! えーとえーと……あっ! た、助かりピーしたカメ」

「合格!」
あれ……カメはもうきんしま太郎の仕組みを理解したみたいですよ? 何でカメですら分かる事を私では理解出来ないのでしょう……この法則さえ分かれば……悔しい……悔しい……

「では、お礼に共に竜宮城へ参りましょう」

「禁止!」

「あっ! 竜宮城へピーいりピーしょう」

「合格!」

「では私の背にお乗り下さいカメ」

「じゃあクピー、ここでピーっていてくれ。今日中には戻るから。暇なら潮干狩りしていてもいい!」

「御意」
クマを海岸付近で待機させ、海へと向かいます。
「♪むかしーむかしーきんしま……きんしピーはー♪ ♪助けたカメに連れられて―♪ ♪竜宮城へ行ってみれば―♪ ♪絵にも描けない美しさ―♪」
のんきに鼻歌を歌っています。そして歌い終わる頃には大きなお城の前で止まります。

「大きい城! 流石にこれは投げ飛ばせない!」
何故投げ飛ばそうとするのでしょう?

「止めて下さいカメ」

「冗談冗談!」

「あっカメさん遅かったですね。その方は?」

「そういえば名前……なピーえを聞いていなかったカメ」

「それだとギリギリ! 気を付けて!」

「存じていピーすカメ」

「ええと……あなたの名ピーえを教えてほしいカメ」

「きんしピー太郎だよ!」

「だそうです。彼は【あれ】を言うと過剰反応するから君も注意してね」

「【あれ】……ですね? かしこ……ピーりピーした」

「うん! 出来ているね!」

「伊達に長年番兵をやっていピーせんよw」

「すごいカメ! 初めてなのにかピーずに言えてるカメ!」

「フフフwwwじゃあお通り下さい」

「ありがとうカメ」
【あれ】……とは……? ハッ! 今恐ろしい事を気付いてしまいました……恐らく私以外のこの物語の登場人物は、きんしま太郎の逆鱗に触れる【あれ】の秘密を知っているようですね……ですが私も……私だって……いつか必ずや解明して見せます! ご期待下さい!

てくてくてくてくてく
城の中を歩きます。廊下は幻想的な光景が広がっています。沢山の魚やイカやタコが泳いでいます。そして一番奥の部屋を開けます。
ギイイイ

「乙姫さピー! ただいピー戻りピーしたカメ」
髪の毛がアルファベットのmの様な結い方で飛び出していますね。そんな髪型をしていてとてもカラフルな着物を着たとても美しい女性が座っています。

「おかえりなさい亀吉……? ただいピー? 今のおかしな言葉は?」

「シーッ」

「え?」

「禁止! いピーのおかしな言葉は!」

「は?」
乙姫様の美しい顔が恐怖に歪みます。

「言い直して! 女! 早く!」
相手がどんな身分であれ、自分のポリシーに反する場合一切の遠慮はありませんね。彼の暴走は誰も止められません。しかしだからと言って乙姫様相手に女呼ばわりは無いのでは?

「まあまあ……お、女? あなた!! 初対面の相手に言葉を慎まなくてはいけませんよ」
恐怖に引きつりつつもありったけの勇気を振り絞り反論する乙姫様。

「あっ! 禁止! ピーあピーあ……と、言葉を慎ピーなくてはいけピーせんよ? って言い直して! 早く!」
ピーアピーアって……筋肉質で海パン一丁で、そんなの関係ないじょのいこや、ハイッオッピッパーとかのギャグで大活躍中の人でしょうか? あっ今名前を思い出しました! その人物の名前はよじまこしおです! 引っかかっていて後ちょっとっていう物を思い出すとホントに嬉しいですー♡私の記憶力も捨てた物ではありませんね。ちょっと自信が付いちゃいました!! ……ですがこれだけの記憶力があろうともきんしま太郎の言葉の法則は未だに解決出来ていないと言う現実。これを解決するにはこれだけ記憶力があったとしても関係ない? もしくは必要ないと言う事なのかもしれません。それよりも柔軟な発想力が必要になってくるのかも? 私にはそう言う力が欠如しているのかもしれません……ああ……折角自分の良い所を見つける事が出来たと思ったのに結局ネガティヴになってしまう……皆様にも不快な気分を味わわせてしまいました。誠に申し訳ございません……

「嫌です! な、なんなんですかこの子は!」

「駄目! みんな聞いてくれてる! 女だけ例外は認めない!」
当然きんしま太郎の正義心から来る発言だとは思うのです。ですがそれ、間違った正義ですよ? 今までも脅迫じみた方法でそれをやっていただけなのですから……恐らく誰一人快諾している人はいなかった筈です。ほら、思い出して下さい。あなたの筋肉で、そして内在する闘気を顕在化させて脅し、強制していただけで、あなたが一般人の様に強くなければ誰一人従わなかった筈ですよ? あなたのやっている事は、心対心で訴えるのではなく、力で従えているだけなのです。そんなの独裁者と何ら変わりありませんよ?

「その前に女という呼び方は止めなさい! 私には乙姫と言う名前があるのです!」
そうです!

「禁止! そのピーえにと、乙姫と言う名ピーえがあるのですと言い換えて!」

「誰か! この者を追い出して!」

「姫! どういたしましたか?」
ダダダダダ
その叫び声と言ってもよい程に悲痛な声に、番兵達が光の速さで王の間に駆け込み、きんしま太郎を囲みます。
「禁止! どういたしピーしたか! って言い直して! 早く!」

「うるさい! 黙れ!」

「禁止! だピーれ! これも言い直して! 後、さっきのどういたしピーしたか? も一緒に!!」

「ああ、うるさいうるさい!! お願いです! 早くこの者の口を封じて下さい。もう声を聞くのも忌々しいのです! 早く! 捕えて下さい!」

「禁止! いピーいピーしいに言い直して! この通りだから!」

「もおおおお」
発狂する乙姫様。

「皆の者! 掛かれえええええ」
その【もおおおお】が戦闘開始の号令の如く響き、兵達の緊張感もピークに!

「魚おおおおお」

「だああああああ」
かつてない緊迫感が竜宮城内を包み込みます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあー疲れたぁ……何なのよこの文字量! ちょっと待って? なんかこの先の展開……もしかしたらバトルの匂いが……激しいバトルが引き起こされそう。この体力じゃ厳しいわ……ちょっと休憩」

「まあ確かにここから話し合いになる事は無さそうよね」

「でしょ? バトルパートはアクションを挟みつつ読まないといけないじゃない? パンチしたりキックしたりさ」
え? そんな決まりはありませんけど?

「そりゃそうだけどさー。それが無ければ最早朗読ですらないし」
そんな決まりはありません。

「ちょっと待っててね。飲み物取ってくる」

「あっ! ママ……あっピーピー! 禁止! ちょっとピーっててね? に言い直して! 迅速に!!」

「リアルで言われると更にうざいwこんな奴本当にいたら腹立つわねえ」
ああ……アリサちゃんもきんしま太郎の法則に気付いているみたいですね。流石です……まあこれは気付いて当然でしょう。彼女の頭の良さはこれまでずっと見てきましたからね。ですが私、ちょっと淡い期待を抱いていたんですよね……もしかしたらアリサちゃんは気付かないでくれるかなあなんて……と、いう事は、これで法則を知らないのは読者さんと私だけになってしまったみたいです……ですが、うっすらとではありますが手掛かりは見えつつあります。必ずやその手掛かりを有効活用し、共に力を合わせ、真相に辿り着きましょう! 
「うん」

「ねえアリサ? これ絵本よね?」

「そうだね一応絵本だと思うよ?」

「絵本よね? 間違いないわよね? でもそうとは思えなくなってきた! このうっすい本の中にどんだけ文字を詰め込むつもりなのよ! 見開きに2000文字位詰め込んであるじゃない!! 小説じゃあるまいし……いいえ? 小説どころじゃない! これは新聞よ! このビッシリっぷりは!! どうなってるのよ! どのページもどのページも文字がビッイイイイッシリィイイイで、絵が文字で覆われてほぼ見えないじゃない! 頑張って描いてくれた絵師さんにも謝罪して欲しいわ!! これじゃさ絵本じゃなくて絵新聞紙!! 絵新聞紙? 何この響き!? 気持ち悪っ!! こんなのばっかり読んでいたら夢に出てきそう……うわああ文字の大群が押し寄せて来るよーって悪夢が……」

「www」

「ねえアリサ? これでまだ半分なのよ? これで半分!!! 故に後この半分以上も残っちゃってるてぇ訳なの! さっき読んだ量と同じ位!! ひえええ……本当デスブックシルフは成長がないわねえw詰め込みゃ良いってもんじゃないのよ! こんなのばっかり読んでいたら活字恐怖症になりそう……あーあ、また喉が渇いたわ。これはコーヒーだけでは無理ね……体力回復の為にエイリアンエナジーも飲もうっと……ちょっと取って来るね……」
フラフラ

「禁止! ピーちがいないわよね? と、これでピーだ半分なのよ? と、ぴーた喉が渇いたわ! に言い直して! 早く! お願いだから!」

「うるさい!! 口と鼻を縫い付けて塞ぐわよ!」
ひー
「ひー」

「冗談よw」

「でも怖いよー」

「分かってる。そういう力のあるワードを使ったから。さっき言ったでしょ? 言葉の強さは自身を守る武器になるって。私が使ったから迫力があるって訳じゃなく、アリサでも勿論相手を委縮させる事が可能よ?」

「そうかなあ? でも目が本気だったし……ママお裁縫得意でしょうしきっちり縫われて玉止めまでされるかと思ってた」

「え? そんな事ないよ? 家庭科の実技はサボってたしww 玉止め? 何それwwwwお初にお目にかかりますわw」

「え? それ位修めてると思い込んでた。だって女でしょ?」

「こら! 女呼ばわりしないで!」

「ごめん」

「まあ確かに私に比べれば弱いでしょうけど、知っているかそうでないかで大きな差が出るからね?」

「ふーん」

「あんたもあんた特有の力強い言葉を編み出しておきなさい。まあ私の真似でもいいけど、どうせデスブックシルフみたいなオリジナリティ溢れる奴を考えるんでしょ?」

「確かに。考えて見ようかしら?(力強い言葉ねえ……何かしら? まだ思いつかないなあ)」

「でもさあ、私は今みたいにアリサに言葉で反撃出来たけど、この本の中の登場人物はきんしま太郎には絶対に逆らえない感じよねえ……なんか竜の力を引き継いでいて喧嘩ではまず勝てそうにない。それであんな訳も分からない事を押し付けてくる……完全な言論統制よね」

「そうね」

「じゃあエイエナエイエナっと」
フラフラ―
足元がおぼつきませんね……大丈夫でしょうか?

「エイエナかあ。あれ美味しいよね? でもあれ缶一本に、角砂糖約13個位入ってるらしいよ? あれだけコーヒー飲んだ後には飲ま……飲ピーない方が……ほら糖質が……」
糖質は麻薬と一緒です。一度摂取すると止まらなくなりますよね。可能な限り摂らないに越したことはありません。

「それもそうね……じゃあ水にしましょうね」

「はいっ! 後そこに天然塩を少々入れると更にいいよ!」
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