all day long

文字数 717文字

丘にぽつんと咲きました

古い街が見下ろせます

反対側には

遠くに海も少し


軽やかなハミングでした

海からの風に乗って

とぎれとぎれに聞こえてきました


声変わり前の少年が

冒険の途中で歌っているようでした

耳を澄ましていると

だんだんはっきりしてきて

ボクの前で止まったのです

見上げると かわいいおでこの女の子でした

目が合いました

その瞬間

細い指がボクを摘みとり それから 胸のポケットに

ねぇ どこに行くの

ボクは だから 冒険に出るような気持ちになりました


丘を下り

遠くに見えたレンガ造りの教会を通り過ぎ

右に折れ

半ズボンの男の子とすれ違い 

左に折れ

半袖の女の子とすれ違いました 

公園を縦に横切ると

そこは キミは部屋でした


キミはボクをコップに移しました

陽当たりのよい窓辺にかざると

ソファに沈んで ボクを眺めました

それから つづきを読み始めたのです

でも 2ページほどでつまずくのでした

多分 ボクの知らない きのうと同じように


のんびりと届く陽光は

くもりガラスにつかまり

ボクのまぶたをくすぐります


ボクの知らない温かさ

ボクの知らない静けさ


うとうとと うとうとと

ボクは はじめて夢を見ました


ボクは 花屋になっていました


雨上がりの店先で

少し湿った土に

種をひとつ蒔くのです


すると キミが芽を出しました

ボクがくち笛を吹くと

メロディのはしっこに

生まれたての葉を揺らすのです


ボクは キミとシアワセに暮らしてゆくんだ

そう思いました


よく晴れた青空に

キミは つぼみをふくらませました

じょうろを見つけると

all day long all day long と

えくぼをつくったりするのです


海から昇ってくる爽やかな風に

薄く透明な花びらを広げることもありました

ボクを摘んだあの時に

栞を挿すようでした




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