第19話  煌香展 Ⅲ

文字数 802文字

散会することになって、田神さんが佐伯先生に言った。

「俺、自分で帰るのに精いっぱいだから。佐伯君。済まないけど、この酔っ払いを送って行ってくれないか。」
「私は大丈夫です。自分で帰ります。」
と私は答えた。
「いやいやこの人、道で寝ちゃうと思うよ。・・一応女の子だから。」
「そうですよね。大丈夫です。私が送って行きます。・・・済みません。調子に乗って飲ませ過ぎちゃって。」
「佐伯君。お持ち帰りなしね~。」
と手を振る田神さんの姿が人ごみに消えて、・・・私は何とか家に戻れたらしい。

気が付いたら洋服のままベッドに寝ていた。
それなのに靴下は脱いだらしく丁寧にベッドの横に揃えて置いてあった。
「・・・?」
猛烈に喉が渇いて、「水、水」と言いながら電気を点けた。
コップに3杯目の水を飲みながら、ふとテーブルの上にあるメモに目が行った。
「えっ?何?」
メモを読んで私は水を噴き出した。

『死んだように寝てしまい、何度起こしても起きないので、私の方で勝手に鍵を掛けました。そのまま出て行くにはあまりにも不用心なので。鍵はポストに入れて置きます。
一応、確認したらご連絡をください。saeki』
その下にメルアドと電話番号が記されていた。

眩暈と吐き気に襲われてそれ以上立っていられなかった。
私はトイレに駆け込んだ。
ベッドに倒れ込み、どうやって帰って来たのかを思い出そうとしたがすっかり記憶が抜けていて、私は自分の不始末を呪った。
きれいに揃えてある靴下を見たときに何か不自然だなって感じたのだ。自分だったら脱ぎっ放しでその辺に片方ずつ放り投げてあるはずだし。
・・・・その先は考えたくなかった。

それから何度かトイレとベッドを往復し、もう一度眠りに着いたのは空が白々と明ける頃だった。何もかも忘れて眠りたい。二度と佐伯先生に会いたくない。だけど、ご連絡を差し上げない訳には行かない。御礼だってしなくちゃまずいでしょうよ。
私は深くため息を付いた。


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