第52話  入れ替わり体質の欠点 3

エピソード文字数 5,611文字

 ※


 華凛をおんぶして、校門前で先生にお辞儀をする。

 平八さんの車に乗り込めば大丈夫だ。

華凛。車ん中だ。背中から降りろ
 車の中ならもう安心だ。それなのに華凛は俺の背中に張り付いたまま動かないし、喋らない。

 

 まぁいい。帰ってから事情を話してもらうぞ。

はい。今無事に保護しました。ええ。それはご心配なく。


楓蓮お嬢様に代わりましょうか? 分かりました。では

 平八さんが親父と話してるみたいだな。

 スマホを切ると「麗華さんにも報告しておきました」と説明してくれると、車は動き出した。

 


 何も言わなくても平八さんは家まで送り届けてくれる。

 俺と華凛に続き聖奈も降りると、平八さんだけは「駐車場に止めてきます」といい、車を動かす。

華凛ちゃん。大丈夫?

 聖奈が声を掛けても動こうとしない。

 きっとこいつは……怒られると思っているのだろう。  

  


 でもな華凛。今回の件はちゃんと事情を話して貰わないと困るんだ。




 

 家に到着すると、リビングの床に華凛を降ろすと、案の定というか下を向いたままフードを被ってやがる。

華凛。ちゃんと理由を話すんだ。怒らないから

 あぁ……こりゃ無理なパターンかも。

 自分の責任だと分かっていて、それを喋るのを怖がっているんだ。

今日。何時に起きてた? 正直に喋ってくれ

 まずこの質問だ。今回の件で一番の謎である。



 凛がリミット限界で入れ替わったのが午後二時だった。

 そこから逆算すればある程度答えは出るのだが……

五時前くらい。で、でもすぐに寝ようと思って……


 だろうな。五時前なら凛の場合はそこから七時間……

 つまり十二時に最初のリミットがやってくる。


 そして俺が迎えにいった十四時には、リミット二時間経過してた訳か。



 危なかった。

 あと十分でも遅れりゃ……大惨事だった。


分かった。だけどな。それならそれで俺に言ってくれ。一言あれ……
だって! ど、どうにか寝ようと思って、寝たと思ったから行けるかもしれないって

 急な華凛の反撃に、俺はうんうんと頷いた。


 分かってる。分かってるから。

 お前は自分自身でどうにかしようと思ったんだろう?



 今、こいつが言った「寝る」なのだが……

 入れ替わり体質の人間は完全に意識が無い状態になると、カウントはストップする。



 その分、リミットの来る時間を寝た時間だけずらす事ができるのだ。



 つまり華凛は、五時頃起きてすぐに寝ることでカウントをストップさせようとしたが、出来なかった。



 これは俺でも難しいし、何よりも確実ではない。

 それに意識が無くなる時間を正確に測るなんて出来ないし、その後の計画も立てにくい。


 


いいか華凛。寝てリミットをずらすのは俺だって難しいんだ。

本人が意識が無い。寝てると思っても、意外と起きてるものなんだ

 下を向く華凛、目に涙を貯めながら身体を震わせていた。

 俺は両手を上げてこっちに来いと言うと、飛びついてくる。

次からそういう事は俺に言うんだぞ。何でもいい。気になったり心配な事は必ず教えてくれ

 これでいい。今度からはちゃんと俺に報告してくれればいいだけ。

 後は俺に任せときゃこんな事件にならない。



 しかし、華凛は急にうめきだすと、ぼろぼろ涙を零しながら声を出していた。

もう。嫌だよ……こんな身体……大嫌い!
華凛……
華凛ちゃん……

 そう言われると、俺だって落ち込んでしまうだろ。

 

 俺は大泣きする華凛を抱きしめて、ひたすら泣き止むのを待っていた。



 だが、華凛は日頃の鬱憤を晴らすかのように、本音をぶちまける。この場にいる聖奈や、さっき部屋に入って来た平八さんに、その全てを吐き出していた。



 ※



何で私だけ……私達の家族だけ、こんな身体なの? 女の子になるせいで、友達も出来ないし、遊べない! 私はみんなと一緒に遊びたいのに
他の人みたいに……普通に暮らしたいよ

 華凛がぽろっと零した言葉が心に突き刺さる。


 強制的に入れ替わらないと生きていけない。

 それがどれだけつらい事なのか。



 俺だって、この入れ替わり体質を何度も恨み続けた。それはもうこの先もずっと、そうなのだろう。



 同じ悩みを持つ華凛の気持ちは良く分かる。

 だからこそ俺は、感情の昂ぶった華凛にやれることは……強く抱きしめるしかなかった。




 落ち着いてきた華凛。聖奈はそのタイミングを見計らったかのように「こっちおいで」と促す。

 言われるがまま俺の膝から離れて、聖奈へとへばりついた。

華凛ちゃん。あなたの気持ちは分かったわ。だけどね……今日の事は皆でちゃ~んと話し合って、一人で解決できるようにしないといけない

 そう聞いて、すぐに逃げようとする華凛だったが、聖奈が逃がさない。

 

 「ダメよ。逃がさない」と、言葉とは裏腹に笑顔を見せる聖奈に、すぐに泣きそうになる華凛。こればかりは俺も助けられないぞ。

ちゃんとお話しようね。華凛ちゃん
 聖奈はまず今日の事件について、被った被害を華凛に説明する。被害と言っても、この場合俺や聖奈が早退したくらいだが……
これが続けば、私も蓮も下手すれば留年になってしまう。もう一年高校一年生で過ごさなくちゃならない

 おいおい。そこまで言わなくても。


 華凛の顔が青ざめると、今にも死にそうな顔で俺に訴えかけてくる。

そりゃそうだけど、もう大丈夫だろ?
ダメよ楓蓮。ちゃんと説明しないと

 あぁこりゃ「私に任せて」パターンに入っちまった。

 

 

 次に聖奈は、華凛に最初から状況説明してもらうと、所々でストップさせて、解決案を出してゆく。



 ちなみに華凛はなぜ俺や親父に連絡を取らなかったのか。それは……

 「怖くなった」「どうしていいのか分からなくなった」らしい。


 しょうがない。こればかりは本人の気持ちになってみないと分からないだろう。


 だが聖奈は……この点だけは何度も言い方を変えて華凛に教える。

そうね。このタイミングでも一緒。蓮や私達に連絡すれば良かったのよ。

まずは状況報告。それが一番大事。そうすればみんな助けに来てくれる。

 諭すように教える聖奈に、半泣きの華凛だったが、うんうんと頷いていた。



 これには俺が驚いていた。


 なぜなら華凛は俺が説明したりするとすぐに泣き出したりゴネるからだ。


 だからあまり説教じみた事は言わなくなったのだが……

それに。いつでも迎えに来てくれる奴がここにいるじゃない?
そうですぞ華凛お嬢様。平八なら何処にいても五分間で迎えに行きますゆえ。緊急を要する場合は、まずは私めに、ご連絡くださいませ
うんうん。平八も華凛ちゃんの頼れる味方なんだから
黒澤家とは家族同然だと思っております。何も遠慮する事はございませぬぞ

 家族と聞いて華凛もようやく「うん」と声を出して返事した。

 俺もそう言われると……無性に嬉しく感じてしまう。

だからこそ。自分の事は自分で出来るようにならなきゃね。

いい? 華凛ちゃん。私は楓蓮みたいに、甘くはないわよ

ちょっと待て。それは俺が甘やかしているようにしか聞こえないんだが
そうじゃないの。華凛ちゃんが甘えん坊さんになっちゃったのは、あんたのせいでもあるのよ。だから私がちゃ~~んと一人で何でも出来るように教育してあげるわ
 聖奈のドヤ顔にたじろく俺と華凛だったが……
大好きなお姉ちゃんに、迷惑掛けるの。嫌でしょ?
……うんっ!

 まさかの華凛の大声に、俺が驚くのだった。



 さっきまでビービー泣いてたあいつの目には、僅かながらやる気というか、そんな気持ちが篭っている。



 こんな華凛を見るのは初めてだった。 

 ※


 一通り聖奈が話し終えると「分かった」と素直に返事する華凛。俺には見せないような顔に終始驚いていると、聖奈はそろそろ行かなきゃと言いはじめた。

まだ三時過ぎだぞ。何処に行くんだ?

どうせ早退したなら、それはそれでやる事があるのよ。

 色々と疑問が浮かぶが、聖奈が立ち上がると、俺の手を引っ張って玄関まで連れて行かれる。

華凛ちゃんは私に任せなさい
まぁ……そう言ってくれるのは嬉しいが、ちょっとキツくないか?

 途中、あまりにも言われすぎて涙ぐんでたシーンもあったというのに、俺が思わずストップしようとしたくらいだ。


 すると聖奈は目の前に顔を持ってくると「甘いわっ」とジト目を下さった。

前から気になってたのよ。あんたは甘すぎる。

あれじゃいくら大きくなっても自立出来ないわよ

 甘いのは……分かってるつもりだ。


 だけどな、お前のようにキツく当たれないのは、やっぱり同じ境遇で生きて来たからだ。


 あいつが悲しむのも分かるし、その気持ちが痛いほど分かるから。



 俺が何も言わないでいると、聖奈は一度溜息を出してからこんな提案をする。

あんたは優しいお姉さんでいてあげなさい。そっちのが適任だわっ。

その代わり私が、ビシバシ鍛えてあげる。

おいおい。そりゃ普通反対じゃないのか? まるで俺が母親みたいじゃないか
それでいいじゃない? どうせあんた。言えないんでしょ?
うっ……そりゃそうだが……
私に任せなさいよ。出来る事。出来ない事。それは人それぞれだしね。適材箇所って言うのがあるんだから、出来る事をやりなさい

 ここぞとばかりに諭される俺であった。

 確かに俺は華凛には甘いからなぁ……

楓蓮。私達は家族なんでしょ? 私が一番下の末っ子を心配するのは当然じゃない?
そうだな……すまなかった。お前の言う通りだ
聖奈。華凛を……頼む。俺だってあいつには色々と言わなきゃならんし
うんうん! 任せなさい。ついでにあんたも色々と教育しないといけないしね
は? 何で俺が……
うん! 楓蓮も教育対象なんだけど
今更何を教育するってんだよ
 すると聖奈のニヤ顔を見てしまうと。背筋が凍るような錯覚に見舞われてしまう。
あんたを女らしくするのよっ。その為に色々と揃えちゃったから、今度家に持ってくるわね
 何を揃えたっつーんだ?
じゃあ行くわね

 聖奈はそう言って「平八」と叫ぶと、先に玄関から出て行くのであった。


 最後に飛びっきりの笑顔をお見舞いしやがって




 あのな聖奈。

 何でそこで「女らしく」なんだよ。


 俺は男なんだから、女らしくならなくていいの。 

 こればかりはお前がどうやっても、折れるつもりはない。




 ※



 リビングに戻ると、俺をみるなり泣きそうな顔をする華凛であった。

そんなヘコむな。もういいって
 聖奈が帰ったから俺が怒るとでも思ったのだろうか。
俺もお前にちゃんと言ってやらなかったから……だから俺のせいでもある。ごめんな
ううん。お姉ちゃんは悪くないよ。私がちゃんと……

 また泣き出したので、いつものように華凛を抱きしめる。

 

 華凛だって自分で分かってるんだよ。今回は自分の失敗だと。

 だからこそ。俺はきつく当たりたくないんだ。

いいか華凛。家族一人の責任はみんなの責任だ。

どんな失敗であれ、家族ならみんなで話し合って解決するんだよ。

 親父にそうやって教えられてきただろ?

次、失敗しなきゃいいだけの話だ。


もう聖奈が言ったとおりだ。次はちゃ~んと俺に言うんだぞ。はい。この件はもう解決した

 華凛の頭をなでなでしながら、更に続ける。
じゃあ次の問題を解決するぞ。まだ終わってない
え? まだあるの?
 俺の胸から顔をひょっこり出した華凛は、まだ何かあるのかと少しばかり不安な表情になっている。
問題はお前じゃなくて。俺だ
あっ……お姉ちゃんは入れ替わった時間が早いから……
 そこまで華凛がいうと、正解と答えて頭を撫でる。

華凛は問題ない。お前は女の時間が長いからな。

午後二時に入れ替わっても、限界時間だけで午後十一時まで過ごせる

だが俺は違う。二時前に入れ替わったから、その七時間後。つまり九時前までしか持たない。

リミットの頭痛が始ってからは寝れねーから、サイクルが狂っちまう可能性がある。

 俺は女の時間が短い。

 華凛とほぼ同じタイミングでも二時間も違うのだ。

じゃあ俺はこの後どうすればいい?
んっと……九時前までに寝る?

まぁそれも正解だが、九時前なんかに寝れたらいいけど、もしその時間に寝れなかった場合どうなる?

リミットの頭痛が来たら、入れ替わってから寝ることになるんだぞ?

 まぁ俺の場合は入れ替わって寝てもいい。いいけど……

 それは男の時間が長い俺ならあまり支障はない。


 だが男の時間の短い華凛にとっては、凛になって寝る。この方法は取れない。

 致命的なミスになる事だってあるんだ。

正解は……今から少しだけ寝る。サイクルを維持するにはこれが一番正しい
 つまり俺は今から寝て、一時間でも二時間でも、女でいられる時間をずらすんだ。

 次の日に学校がある場合は、四時間制限が無くなった女の状態で寝る。

 これが一番理想のサイクルなんだ

 俺はこれが理想のサイクルだが……

 華凛の場合は必須となる。


お前も昼寝しよう。こんな機会、たまにしかないからな
私は寝てもいいの?

華凛はどっちでもいい。女の時間が長いからな。

俺と同じように寝てもサイクルは変わらん。

一緒に寝る!
じゃあさっさと、寝る準備するか
 こうやって入れ替わり体質は、サイクルを常に守らなければならない。普通に過ごしているようで、色々と厄介な縛りがあるからな。
五時ごろまで寝るぞ。あんまり寝すぎると夜に寝られんからな

お姉ちゃん。ごめんね……


お姉ちゃん大好き

俺もだ。華凛。だけどな……今度はちゃんと、連絡くれよ

お願いだから……

うんっ!

 ちなみにこいつと一緒に寝ると、俺まであっという間に堕ちてゆくのであった。

 

 とりあえず、何もなくて良かった。

 一時はどうなるかと焦りまくったけど、終わってみれば平和なものだ。 


 あと、俺の他にも聖奈や平八さんが助けてくれたのは、黒澤家にとっては非常に心強いものであった。


 今まで親父と華凛と三人だったけど、

 他にも仲間がいると言うのは、これほど頼もしいとは思わなかった。

 

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次回。俺だけのワンダーワールド 1~3

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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