第1回リデビュー小説賞を振り返る座談会 #2
文字数 4,031文字
まず、男爵平野さんの『road.road.reload』。高校生の主人公が信号無視の車に撥ねられるところから始まる死に戻り系SFです。序盤のハイスピードが武器で、どんどん死んで蘇るリズム感が否応なくページを捲らせます(次のエピソードへ、という意味ですが)。
「そろそろこの展開だと飽きそうだな……」と思ってきたところで転調するセンスはピカイチだと感じます。
後半に向かうにつれて設定面がやや重たくなってきたことや、物語の核が主人公から外れてしまったことなどが残念でした。
事故に遭った意識不明となった最愛の妹にかかる手術費用はなんと四億円!それを一ヶ月以内に用意せねばならない主人公の銀行員。彼は銀行員という仕事を利用して、悪の限りを尽くし金策に奔走するのだが…。
この設定だけでも非常に魅力的です。僕たち編集者の間でよく言われることですが、「帯やあらすじが書きやすい小説はいい小説」という格言(?)があります。これは、物語の魅力が非常に明確だ、ということですよね。この物語はまさにそれに当たると思います。
一方で、せっかく銀行員という現実的な設定を使ったのだから、全体のリアリティレベルはもう少し底上げをして欲しかった…!物語が「なんでもあり」にならないように注意が必要です。実際犯罪を起こしてはいけないのですが(笑)、「これならできるかも」と思わせないといけないですよね。
「神は細部に宿る」といいますが、その細部を詰めていけば、もっともっと魅力的な物語なると思いました。
まず、この作品で突出していいのは、「冒頭のツカミ」です。今、物語を楽しんでもらうためには、漫画なら最初の数ページ、映画なら最初の10分、アニメのAパート、まず、冒頭で面白がらせることがとても大切です。
それは、ネットの場合ではなお一層でしょう。違う娯楽(HP)に遷移することがこんなに容易な場所で、小説を楽しんでもらわないといけないのですから。
そこで、この物語の冒頭です。
いじめられっこの主人公の机の中に入っていたのは、一丁の拳銃。誰が、一体何のために!?
いやぁ、魅せますね!惹きつけられますね!この拳銃は誰が入れたのか、この拳銃を主人公はどう使うのか、それだけでもドラマが無数に生まれそうです。「冒頭の魅力的な謎」これはミステリにおける鉄板の仕掛けとも言えます。それが抜群に面白い作品でした。
残念だったのは、拳銃の描写などに無理があること、でしょうか。先ほどと同じく、細部の詰めや掘り下げが甘いところはもったいない…。もっと丁寧に書けば、この作品、間違いなく世に出て読者を楽しませられるレベルだと思います。
昭和二十年。終戦直後の小坂を舞台に、漫画の神様、手塚治虫先生をデビューさせたと言われる酒井七馬の視点で語られる物語。
まず、酒井七馬に目をつけたところが圧倒的にいいですよね。この切り口があったのか、と。
僕も知識不足で申し訳なく、どこまでが史実に基づいているのか、資料にどこまで依拠しているのか、をきちんと判断できなかったのですが、この時代だからこそのマンガ黎明期の息吹を感じ、過去に思いを馳せさせる作品でした。
押し切れなかったのは、ひとつはどういう形で世に出していくかが難しかったこと。もうひとつは、「小説」であるならば、もっとフィクションとして、エンタテイメントとして読ませて欲しかったことです。
とはいえ、史実に基づいていた作品のであれば、どこまでの脚色が許されるのかについては、中々難しい判断になってしまいますね。
『小夜子さんのウキウキ修羅場ライフ』、これはアイデアが秀逸でした!
ストーカーを鍵にした作品は幾つか読んだことがあるのですが、まさかヒロインがストーカー体質で事件を巻き起こすとは。よくミステリで名探偵が「事件を引き寄せる体質」という話がありますが、これをストーカーされるヒロインでやるわけです。
また、視点人物の少年と、ヒロインのお姉さんのキャラクターがいい。二人の関係性で読ませていく物語ですね。
せっかくこの設定を活かすならば、ミステリとして、各話完結の事件を解決していく話になれば、それだけで一つのお話としてしっかりまとまると思います。また、後半、ヒロインの身内ばかりの話になってしまうのは、描かれる世界の半径が狭くなりすぎるため、もうちょっと物語は外に開いて欲しかったようにも思います。
『小夜子さんのウキウキ修羅場ライフ』、これはアイデアが秀逸でした!
ストーカーを鍵にした作品は幾つか読んだことがあるのですが、まさかヒロインがストーカー体質で事件を巻き起こすとは。よくミステリで名探偵が「事件を引き寄せる体質」という話がありますが、これをストーカーされるヒロインでやるわけです。
また、視点人物の少年と、ヒロインのお姉さんのキャラクターがいい。二人の関係性で読ませていく物語ですね。
せっかくこの設定を活かすならば、ミステリとして、各話完結の事件を解決していく話になれば、それだけで一つのお話としてしっかりまとまると思います。また、後半、ヒロインの身内ばかりの話になってしまうのは、描かれる世界の半径が狭くなりすぎるため、もうちょっと物語は外に開いて欲しかったようにも思います。
こちら、カテゴライズするのが難しいところはあるのですが、読んでいて「響く」お話でした。ヒロインの体験した、痛いお話が語られるなか、本人のこころの声みたいなものが伝わってきてなんとか彼女に救われてほしいな、と読みながらずっと思い続けておりました。
『声の優』(こえのわざおぎ)――こちらの作品は、タイトルからわかるとおり、声優についてのお話、というか、声優を目指して学校に通っているヒロインたちの日常を描いた作品であります。
いわゆる「キャラ文芸」的なものとしてカテゴライズされる作品なのかもしれませんが、残念なところとしては、もう少しキャラクターの印象が残るような部分がほしかったなあという点、そして、タイトルからして読み手としては「声優、という存在にキャラも物語も焦点が当てられるのだろうな」と想像するはずですが、その点が弱いというか、声優をとりまく業界的な解説も挟まれるのですが、全体的に突っ込みが弱いような印象がありました。――その点残念であったのですが、「この舞台を描くのか!」……と読み手が気になるような素材を選ぶというのは、当たり前ですがとても重要なことであると思います。
気が向いたときだけ部屋にいる猫みたいな幼馴染を見る主人公の視点が妙に退廃的で、著者の柊さんならではの世界観が滲み出すようです。
ご飯を食べる、あるいは横になっているだけのシーンでも奔放で天然な彼女に対する思いがにじむのは、素敵な恋愛ものの証だと思います。
それだけに、あまりにも起伏がなく終わってしまったことが残念でなりません。エンタメである以上、ストーリーで読者を引きつけて読み続けさせる凄みがほしかったです。
結城絡繰さん、受賞作もですが、そのほかにも、手を変え品を変え、流行りを意識したりしなかったり、作品の幅を感じました。ちょっとやり過ぎなくらいに感じた
なども楽しんで読ませて頂きました。
社畜ダンジョン~会社がダンジョンに飲み込まれた俺はスマホで無双する~
導入の楽しさがありました。
社畜感をもっと出せると、より魅力的になったのかなと思います。
まほろばの
著者の方の力量の高さを感じました。
もう一歩、キャラや物語の魅力を打ち出す、ないしはバランスを崩すことを意識すると、フックが強化され印象に残るのかなと思います。
転生したらサメ映画のビキニ美女でした
受賞、という文脈から外れてしまう、ちょっとニッチな作品ですが、好きです。
個人的にサメ映画の素養が無いのですが、それでも読ませる力がある作品でした。
多種多様で、作家の先生方の力が存分に発揮されていることが嬉しい、と同時に、
やはり、読者に届いてこそ、という意味では、読者の目を根底では意識している、ということは
やはり大事なことである、と感じました。
ラノベと一般文芸を共催にしたことで、物語のジャンルが広く、企みに満ちた小説を読めたことは本当に幸せでした。
リデビュー小説賞、第二回を開催するのか、また、開催するとしたらどのような形にするのか、など、まだまだ検討中です。まずは、受賞された方々と改稿を重ね、最善の形で世に出すことが僕たち編集者側の使命だと思っています。
リデビュー賞に限らず、NOVEL DAYS内では、複数のコンテストが開催されておりますので、またこういった機会を作らせていただければ、と思います。
ご投稿をいただいた皆様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
受賞作の刊行をどうか楽しみにお待ちください…!