備え

エピソード文字数 9,017文字

 武宮家での宴から一ヶ月が過ぎた。その間にも何度か遊撃の任務に就いたが、新道とすずめは現れていない。
アーバン・レジェンド側の活動も散発的で、目立った動きはみられない。その辺りは燐と蓮の工作が上手くいっているのだろうとシロガネたちは判断している。
 その合間、手の空いたウォルフ01を相手に訓練の方も続けているが、未だに一度も勝ててはいない。いないが、二対一ならば一戦の中でいくつか有効打を与えられるようにはなってきている。最初は二人がかりでも簡単にあしらわれていたものが、曲がりなりにも勝負になってきているのは大きな進歩だ。
 なによりあの宴以降、二人の意思疎通が面白いぐらいに上手くいっている。リンクを繋いでいる実戦はもとより、切断した状態での訓練でさえお互いがどう動くのか、なにを求めているのかが理解でき始めている。
 リンクで意識を共有しなくても連携がスムーズになっている。それは自分の意識より先に相手の意志を理解でき始めている証拠だ。
 それに些細なことではあるが、事務室で吹雪が微笑を見せるのもシロガネにとっては嬉しいできごとである。
シロガネが家族について話すとき、友人について話すとき、家で飼っている犬と猫の可愛らしさを話すとき、返事自体は今までとさほど変わらない短いものだが、時折かすかに笑って聞いている時がある。今では子供や動物の話が受けがいいといいうことまで分かってきており、最初の関係性を思えば大幅な進歩だ。
 あの顔を見れば、連兵殺しだとか死神だとかいうあだ名が相応しくないと一目で分かるだろう。
 今のウォルフ02は緊張したまま、リラックスできている。それは軍人としては最高の状態である。

 そんなシロガネは終業後、家路とは別の道を歩いている。この辺りは桜国が統合政府に統治されるまでは和風として統一感のあった通りらしいが、今となっては無秩序といっていいほどにさまざまな建物が乱立し、その面影はまったくない。あえていうのならば西洋風のごった煮という印象がふさわしい街並みとなっている。
 そしてそれは、桜国の主要都市における印象である。もはや昔懐かしき桜国の姿は一部の地域にしか残っていない。
 街を行き交う人も肌の色から髪の色、言語までも多種多様であり、さらには道路を走る車種も統一性がない。瓦の屋根などすでに消えて久しく、全てはアスファルトとコンクリートによって飾り立てられている建物が全てだ。
 もはや桜国といわれれば現状を思い浮かべる人間の方が多いだろう。古き良き和の国というものは確実に消え去った。たった一つ、魔術結晶の産地であったという事実のために。
 大きな利益を秘めたがゆえに多国籍に食い荒らされている国であり、統一感も伝統もない。わずかに残っているそれもやがては消えていくだろう。だがたとえどうあろうとも、この国はシロガネが守るべき桜国という存在である。
 やがて告げられた目的地に辿り着き、扉を開くと涼やかなベルの音が鳴り響く。店先に出ている看板にはフェイルノートとジャーニア語で綴られている。このバーが待ち合わせの場所だ。
 日が落ちかけた街並みに合わせるように照明が抑えられた室内がシロガネを迎え入れ、慣れない雰囲気に少しばかり気後れしてしまう。

「いらっしゃいませ」
「あ、ええと、待ち合わせで来たのですけれど」
「シロガネ・グリューネヴァルト様ですね。伺っております。こちらにどうぞ」

 扉のすぐ側に控えていた使用人(ボーイ)が先導する。時間が早いからか、シロガネの他には客がいない。カウンターの奥ではマスターが丁寧にグラスを磨いている。
 カウンターから延びる廊下の奥、個室になっている場所の前で使用人が振り返る。

「こちらになります。お連れ様はすでにお待ちになっております」
「ああ、ありがとう」

 こういうところでは心付けを渡すべきなのだろうかと悩む間もなく、使用人は引き返していく。

「あの、シロガネですが」
「ああ、どうぞ」
 誰何から許可を得て扉を開く。中にはウォルフ01の二人が座っているが、机の上にはまだグラスすら置かれていない。

「まあまあまあまあ。いらっしゃい、シロガネ」
「こんな所まで呼び出してすまないね。まずはそちらに座ってくれ」

 出迎えた二人は諸手を挙げてシロガネをエスコートし、対面の椅子を引いて示す。されるがままに座ると、二人も座り直して向かい合う。

「さ、まずはお互いに訓練お疲れ様だ。なにを飲む? ここは酒もそうだが、普通の飲み物も種類があってね。シロガネは酒があまり得意でないようだから、ちょうどいい店だと思ったんだ。ここの払いは私たちがもつから好きな物を頼むといい」
「そうよそうよ。訓練の後だから甘いものがいいかしらね。適切な活動は適切な栄養素からね。私のおすすめはこのミックスベリーよ。絶妙な配分で甘さとおいしさが両立しているの」
「ええと、それではそれをお願いします」

 自分たちの飲むものはすでに決めていたのか卓上のベルを振ると扉とはまた違った軽やかな音が鳴り、扉が開く。使用人に注文してからほどなくして三つの飲み物が並べられる。

「それではひとまず……今日も訓練お疲れさま」

 蓮の言葉にグラスを合わせ、飲み物を含む。

「おいしい」

 燐のいう通りミックスベリーは驚くほどシロガネの喉に染み渡り、するりと飲み下せる。確かに甘いのにそれが全く後を引かない。いくらでも飲み干せそうな喉越しのよさが癖になりそうだ。
 そんなシロガネを二人は楽しそうに見やる。

「あまりおいしいからって飲み過ぎると太るからね。最初に燐がそれにはまった時はもう大変でねえ」
「あーあー聞こえない聞こえない。今の私には葬り去った過去よあれは」

 なにやら燐の中では色々とあったらしい。こういうやり取りを見ていると、目の前の二人が統合軍最強のユニットではなく、ただの仕事帰りのオフィスレディに見えてしまう。
 吹雪とは違って燐と蓮はいつも自分の感情を隠さない。それが同じ魔術結晶を二人で共有し、意識すら溶け合いそうな環境をくぐり抜けてきたからかはシロガネには分からない。ただ、その子供っぽいともいえるような開けっ広げな感情はシロガネには好ましく映っている。
 しばらくの間は他愛のない話を続け、各々が二杯目を頼んだ段になって蓮がグラスを置く。その眼差しは先ほどまでとは違い、スイッチを切り替えたかのように鋭く眇められている。
 シロガネもそれを察して背筋を伸ばす。

「じゃあ、そろそろ呼び出した本題を話そうか……シロガネは吹雪のことをどう思う?」
「どう、と言われましても」

 奇しくもレオンとクリスにされたのと同じ質問に同じような返答をする。その辺りのスタンスはシロガネにとって今も変わってはいない。
 曖昧な質問は好みではない。
 それともこれは男女の関係としての質問なのか。それにしては燐と蓮の雰囲気は戦場のそれに近すぎる。
 認識の齟齬に気付いたのか、燐が少しだけ相好を崩す。

「ああ、ごめんなさいごめんなさい。聞き方が悪かったわね。私たちが今日話したいのは吹雪のこれについてよ」

 自身の胸を指先で叩く。ただそれは二つの膨らみから少し上、胸というよりは身体の中心線であり、そこにあるのは魔術機動歩兵にはお馴染みの魔術結晶に他ならない。

「……大尉のいない所で大尉の話をするのはフェアではないのでは?」

 初対面の時に言われた言葉を返すと、二人は少しだけ目を見開いてからシニカルな笑みを浮かべる。

「そうね、その通りね。でも、これから話すのはあの子自身が気付いていない可能性なのよ。あの子の人となりや評判じゃないの」
「それを吹雪に伝えていいのかどうか、私たちには分からなかった。だけど信頼できる連兵である君には伝えて、そして備えておいて欲しいのさ」
「備える、ですか?」
「そうそう、備え。私たちの危惧が当たったならば、多分それは抜き差しならない状況において起こると思うの」

 どうにも思ったよりは重要な話のようだ。そして誰にも聞かれたくない話でもある。だからこそ軍の建物ではなく、こうして終業後に個室に呼び出しているのだろう。

「それで最初の質問に立ち戻るの。吹雪の魔術結晶についてあなたはどう思う、と」

 それでもやはりシロガネの答えは沈黙のまま変わらない。ただこれはシロガネ自身に魔術結晶の知識がさほどないという事実からだ。

「君も知る通り、魔術結晶というものは我々魔術機動歩兵にとっての要だ。これによって魔術神経が生成されて魔力を操り、術式を起動して兵装を身に纏う。その他にも身体能力、思考能力の向上がある。ま、こんな基本は今さら言うまでもないな」

 蓮がグラスに口をつけて一息吐く。そうして背筋を伸ばしたままのシロガネを見やる。

「そして、魔力によって魔術兵装は様々なバリエーションが存在する。支援型、遠距離型、バランス型、そして吹雪のような近距離型。それらは魔力、つまり魔術結晶の大きさで自由度が変化する。ここまでは君も理解しているだろう?」

 頷く。それに頷き返して今度は燐が口を開く。

「でもねでもね。だとしたら、吹雪はちょっとおかしいと思わない?」
「そう、なのですか?」

 そう言われてもどうにも腑に落ちない。確かに変則的ではあるが、これまでに組んできておかしいとまでは思わなかった。慣れるまで連携するのが多少難しいというのはあるが、二人の言いたいことはそういうことではないだろう。

「じゃあじゃあ、重ねての質問になるけど、シロガネは私たちの兵装をどう思う。私の無銘(むめい)でも、蓮の無名(むめい)でも、どちらでもいいわ」

 言われて思考を巡らせる。ここ一ヶ月の訓練で散々目に焼き付いたウォルフ01の姿はどちらもごくごくまともな魔術機動歩兵の兵装だ。きっと教本で平均的な兵装という例を示すならば、現役の中ではウォルフ01のデータが示されるだろう。魔術機動歩兵とは良くも悪くもそれだけの個性が出る。
 実力はともかくとして、燐と蓮はそれほど個性がない。あらゆる意味で吹雪とは正反対の兵装だ。

「至って一般的な兵装であると思います」

 その答えは正解だったようで、二人は頷く。

「そうねそうね、その通りよ。私たちがそうしている理由はウォルフ01の戦い方はこの兵装が一番合っているということもあるけど、もう一つは容量の問題よ」

 また胸を指し示す。そこには一つの魔術結晶が二つに割られたものがそれぞれに埋め込まれている。

「私たちの魔術結晶は一般的な魔術機動歩兵のものと変わりがない。それでも私たちはずっとプラティナム1と2に居座り続けている」

 語り続ける蓮を燐もグラスを傾けながら聞いている。シロガネは元より一言一句逃さぬように耳を傾けている。

「私たちはそれぞれの思考と反応に魔力の大部分を割り振って、兵装はほぼそのままにして戦っている。残りの魔力でカスタムするとどうしても中途半端になるからね。だから私と燐で、この二人でこの兵装で戦う戦術を確立した」

 訓練を思い出す。燐と蓮の戦い方はこれも至って平凡だった。機動力でかき回すでも、圧倒的な火力で制圧するでもない。相手が速攻を仕掛けてくれば迎え撃ち、迎撃の構えを見せれば仕掛けてくる。その攻撃も守り方も機動性も突飛なものはない。
 魔術機動歩兵という個々人の特徴が出やすい兵科を平均に均したような、尖ったものはまったくないのがウォルフ01という連兵の特徴だ。ただ、その能力における平均値が凄まじく高いレベルでまとめられている。
 そして、その選択が常に最善手となっているのが最大の特徴である。どういうわけか、全ての局面において燐と蓮は常に有効な手を打ち、そこに間違いは一度もない。

「私たちは機動力で黒狗には劣る。防御力で白騎士に劣る。でも、汎用性ではなによりも勝る。要するにジャンケンだな。私たちはグーチョキパーの全てを持っている」
「ジャンケン、ですか?」

 唐突に飛び出してきた単語に目を瞬かせる。

「そうそう。黒狗は鋭いチョキだけど、だったら私たちは一般的なグーを出す。一撃じゃ勝てないかもしれないけど、黒狗はチョキ以外持っていないから相性の良さで削っていけばいずれ勝てる。パーが出ればチョキを、グーが出ればパーを出す。結局の所、私たちがやってるのはそういうことなのよ」

 選択肢の問題と燐は言う。戦場で相手がなにを出してきても、それに対して相性の良い手を出し続ける。そうすれば負けない。そのための汎用性であり、それを突き詰めたのが無銘と無名、ウォルフ01の戦術なのだと。
 究極のオールマイティ、それが今のプラティナムナンバーのトップである。
 無論、言うほどたやすいやり方ではない。一手間違えればそれこそ相性の悪さで打ち倒されてしまう。常に最善手を選び続ける。そうするには目眩がするほどの経験が必要なはずだ。
 ただ、経験と言うのならばそれこそ燐たちは一般的な兵よりも圧倒的に得ている。

「まあ、それは私たちの特性も関係しているけれどね。私たちはお互いの経験を共有できる。私は燐の、燐は私の、それぞれ経験したことをそっくりそのまま自分のものにできるのさ。それはリンクによる繋がりとはまた違う、それぞれの追体験というべきものだ。そう、あの日の君のように」
「ッ!」

 言われて背筋が震えるほどの衝撃を受ける。怒りではない。羞恥でもない。ただ、あの日に枝垂れ桜の下でした会話が聞かれていたということだけに衝撃が走る。
 あれはきっと、シロガネと吹雪以外の他者が介入するべきではない神聖な場であったはずだ。少なくともシロガネはそう思っていたし、きっと吹雪もそうだろうという確信がある。
 だからこそ、それを見られていたという事実に肌が粟立つ。
 それはたとえば自身の裸を見られたということに対する羞恥と怒りに近い。然るべき人間にしか見せるべきでない部分を、勝手に覗き見られたという感情だ。

「見て、いたのですか?」
「正確には聞いていた、だね。吹雪がいきなり血相を変えて庭に行くのを襖越しに感じ取たから心配になってね。結果的に盗み聞きすることになってしまった。それは謝るよ、すまない」
「ごめんね、シロガネ」
「むッ……ぐ……」

 二人して頭を下げる。そうまで素直に謝られたのならば、シロガネとしても感情をぶつけるわけにはいかない。それは二人が本気で謝っているからということもあるが、シロガネの善性でもある。
 深呼吸を一つ、二つ。ゆっくりと呼吸を整えてから口を開く。

「おいしい茶葉」

 紡がれた言葉に二人が目を開く。

「おいしい茶葉、二袋……いえ、四袋で許しましょう。それに合う茶菓子もあればなおいいですけれど」

 しばらくの沈黙が流れ、それを小さな笑いが破る。

「そうねそうね。とっておきの茶葉があるから、それをお詫びに持っていくわ。お茶菓子は蓮、あなたが選んで」
「分かった。すまないね、シロガネ」

 もういい、というように小さく頷く。仕切り直しのように酒を一口飲み、唇を湿らせる。

「それでなんだったか……ああ、経験の追体験だ。吹雪曰く、私たちは規格外だと。私たち自身はそう思ってはいないが、それでも周りからそう見えるのはひとえにこの二つで一つの魔術結晶による連兵としての相性の良さ、それによる経験の共有ということだ」

 二人の体験をそれぞれフィードバックし続けることによって、魔術機動歩兵という存在への純化を果たした。ウォルフ01、プラティナム1と2の強さはそこにある。
 あっさりと言ってのけるが、それこそ規格外といえる事実だ。ただでさえ自我の混在が起こりやすい連兵というシステムにおいて、経験まで共有すればどうなるか。しかも顔も瓜二つの双子同士という関係性であれば、その危険さは混在というよりはもはや融解といっていいレベルで曖昧になっていくはずだ。
 シロガネの表情から察したのか、その危惧を弾き飛ばすように笑ってみせる。

「大丈夫大丈夫。心配せずとも、お互いの保ち方は理解しているわ。この喋り方だってそうだし、なによりずっと小さい頃、私たちには吹雪が呼び掛けてくれていた事実がある。私は燐ちゃんで」
「私は蓮ちゃん。それを覚えられている限り、私たちの自我は曖昧にならない。ちゃんと二人でいられる」

 どこか嬉しそうに言う二人にシロガネの胸が少しだけちくりと痛む。だが、それは表に出さないままに頷くに留める。

「私たちは吹雪ほどの魔術結晶はないが、そこにある容量を使い切ってこの地位まで昇り詰めた。じゃあ、吹雪はどうだ? 私たちの魔術結晶の倍以上を……それこそ規格外と言える容量があるであろう結晶を持つ吹雪が、なぜあの機動とそのコントロールだけで止まっているのか。なぜいつまでもプラティナム3で止まっているのか」

 そこまで言われて、ようやくシロガネにも二人の言いたいことを理解する。

「黑金大尉にはまだ伸び代がある、ですか?」
「きっときっと恐らくね。それもかなりの。でも多分それはシロガネ自身にもあるわ」
「私にも?」

 言われてもどうにも腑に落ちない。シロガネ自身は訓練で手を抜いたことはないし、任務やその他の事柄もきっちりとこなしてきた。士官学校を卒業してから四年、それこそ周りから生真面目、努力の人間と呼ばれるほどに。
 だが、それでも序列としてはシルヴィア01が精一杯だ。シロガネとしてはそれが順当な評価であると納得している。このまま勤め上げればゴルディオナンバーにも上がれるかもしれない。けれど、その辺りで打ち止めであろうということも予想している。
 二年でプラティナムナンバー上位に駆け上がった吹雪や、数年もトップの座を維持しているウォルフ01に比類しているとはとても思えない。

「シロガネというよりは魔術機動歩兵全般に、という言い方が正しいな。私たちからすれば、誰も彼もが容量を使い切っていない。それが幸か不幸かは分からないけれどね」

 どこか曖昧な笑みを浮かべて蓮が呟くように言う。

「まあまあ、そうは言っても容量を使い切るだなんてものは突拍子もない話だわ。そんなもの、極限状態にでも陥らない限りは気付かないでしょうね。たとえば私たちのように」
「追体験ですか? でも、私はあれで変わったとは思えませんが」

 確かにシロガネは吹雪の体験を得たが、だからといってそれで魔術機動歩兵としてなにが変わったということはない。連携はしやすくなったが、それはまた別の話だ。

「追体験はあくまでも私たちの場合よ。極限状態、と言ったでしょう? そして私たちウォルフ01と02には、それが起こるであろう戦場がすぐそこに迫っている」
「それは……」

 シロガネが言い淀む。たしかに新道との決戦は迫りつつある。遊撃として出撃していても、散発的に動いているアーバン・レジェンド側がどこか張りつめているのが分かる。うまく言葉にはできないが、なにかを試してきている気配があるのだ。実際問題として戦闘後に捕縛できている違法術者の数が減って来てもいる。その事実に対し、吹雪はデータ取りのようなことをされているかもしれないと述べていた。
 それは実戦に出ているものにしか感じられないものだ。
 ましてや基本的に待機している吹雪たちではなく、破壊工作を行っている燐たちが言うのだから間違いないだろう。

「だからこその備えだ。余っている容量が使えるようになったとして、吹雪がどうなるかも分からない。連兵しているシロガネにどう作用するかも分からない」
「虚空蔵がリンクを切断してくる以上、特にね。その時にはきっと私たちはあの子の側にはいられない。だから追体験できるほど相性のいいシロガネに備えてもらうしかない」
「正直、私たち以外であれを体験できる人間がいるとは思わなかったからね。それほどあれは稀有な現象だ。今まで独自に調査したが、私たち以外にはそんな現象が起きた連兵はなかった。だから伝えるのが今になってしまった」
「いえ、お二人のお気遣いは理解できますから。分かりました。なにが起こるのかは想像もつきませんが、心構えだけはしておきます」

 本題を伝え終わり、少しだけ弛緩した空気が流れる。

「本当は私たちでなんとかするべき問題ではあるんだろうね。新道との繋がりは私たちから始まったものなのだから」

 ぽつりと蓮が呟く。

「でもでも、シロガネに頼らなきゃいけなくなった。いえ、違うわね。シロガネに頼りたくなった。それだけの力をあなたは持ってるわ」
「そう、なのでしょうか。どうにもお二人には過大評価されているように思えます」

 謙遜のような否定のような言葉を二人は柔らかな笑みで受け止める。

「あの子はね、ずっとずっと気を張ってた。自分がすずめを見捨てたって信じ切って、私たちがどれほどそうじゃないって言っても信じなくて。そうして連兵を何度も喪って、喪って、喪って。傷つき続けて。独りぼっちの連兵になって、それでも刀を握ってる」
「シロガネ、君はね。そんな吹雪がようやく寄りかかることを選んで、そして受け止めてくれた連兵なんだよ。ただリンクを繋げているだけじゃない。それ以上の関係を吹雪とシロガネは築けている。正直、羨ましいぐらいだ」

 枝垂れ桜の会話を思い出す。死なず、生きて、助け合う。お互いに手を取って、大地の上に立っていた。
思えばあの時の二人は互いを支え合う、人という文字そのものであったのかもしれない。
 二人の環境、実力、性別、そんなものを超えてあの時二人は対等になった。それはシロガネも実感していることだ。

「シロガネ」

 呼び掛けに思考が引き戻される。気付けば二人がシロガネをじっと見つめている。

『どうか、あの子をよろしく』

 異口同音に告げられた言葉にシロガネは強く返事をした。
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