第8話

文字数 647文字

ある日の晩のことだった。

大野は一人、寝室のベッドに寝そべって壁にかかった自分の作品を眺めながら、堀木の肌の温もりを思い出していた。

暖かくて、白くて柔らかい、少し太り気味のもっちりとした胸。
彼は堀木の胸に顔を埋め、この上なく安らかな気持ちに包まれていた。

おれは、生まれて初めて、十歳近くも年上の男を愛してしまった。

もっと彼の肌に触れていたい、温もりを感じていたい。

彼と結ばれるにはどうしたらいい?

彼を始めて抱いた時、うまくいかなかったのは、おれが焦りすぎたのと、彼が緊張していたせいだろう。 

おれを受け入れてもらうには、どうすればいいんだろう…。

大野は枕元に転がっていたスマートフォンを手に取り、先日堀木と撮った写真をじっと見つめた。

切なげな表情を浮かべた彼と、彼を後ろから抱きしめたおれが写っている。

おれはこの写真を見るたびに、彼が愛しいと思うと同時に、最後まで受け入れられなかった悲しさと悔しさが入り混じった感情が芽生えてくる。

彼にとっておれは、たかひろという男以上の存在にはなれないのだろうか…。

彼は、そいつに捨てられたにも関わらず、そいつを未だに愛している。

もっとおれを見てくれよ、堀木さん…。

頭を抱え悶々としているうちに、大野の中で、たかひろに対する嫉妬と憎しみが湧き上がってきた。

―何とかして、そいつにおれと堀木さんの関係を見せつけてやりたい。

大野は SNS のアカウントの中からたかひろを特定し、プロフィールに記載されていた仕事用のアドレスに例の写真を添付して一通のメールを送った。
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