ジオラモ編(3)

エピソード文字数 2,665文字

そこは、まさに地上の楽園。
青い空を映した透明な海の中は花サンゴの森。

しかし、その花サンゴを潰して軍事基地を作る計画が、連邦政府によって進められているという。

「すごくおっきな基地を、ここに作るんだって」

トロピカルソーダをストローで飲みながら、フロスは言った。

「ジオラモの海はね、花サンゴっていうとっても綺麗なサンゴがいっぱいで、でもそれに負けないくらい綺麗な魚がいっぱいいるのよ。でもそれだけじゃなくてね、人魚みたいな不思議な生き物もサンゴ礁に住んでて、それが世界的に貴重なんですって。
なのにね、そんなサンゴ礁潰して、基地を作ろうとしてるんだよ? ひどいと思わない? 花サンゴはジオラモの宝物なのに」

「あっきれるわね。だからニンゲンは嫌いなのよ。バカで愚かだわ」

リンはいつの間にかホットミルクをオーダーしてちびちび舐めている。お腹が冷えすぎたに違いないとナギは呆れた。おまけに猫舌だから少しずつしか飲めないらしい。

「長老さん達はね、みんな反対してるんだよ? 基地を作らせることは戦争の手助けをすることだって。それにね、おっきな基地を動かすエネルギーを作るために、コア・ステーションまで作るんだって。おかしいと思わない? 綺麗な空と海と花サンゴ礁、全部ダメにしちゃうんだよ?」

ダメだよ、ダメだよ……リョータが羽をばたつかせながら繰り返す。

「でも、みんな反対してるんでしょ?」

「それがね、」

フロスはそこであたりを見回し、顔を突き出して小声になった。みんなも顔をフロスに寄せる。

「反対してる人達の家ばっかり、火事になってるの。逃げ遅れて死んじゃった人もいるんだよ?」

来た。

フロスの話を聞いて、ナギもリンも、ひりっと筋肉がこわばるのを感じた。

今度の敵はもうわかった。火のモンスターだ。だとすると、

「ね、フロス、この国は前からこんなに暑いの?」

「ううん、違うよ? 叔父さんが違うって言ってた。去年の暮れの少し前あたりからどんどん気温が上がって、今みたいになったんだって。こんな暑さは異常だって。お年寄りがたくさん亡くなったって聞いたよ?」

「基地とコア・ステーションの建設の話はいつ頃持ち上がったのかしら?」

ホットミルクをちびちび飲みながら、リンが訊く。

「うーん、私はよくわからないんだけど、やっぱり去年の暮れあたりから? コア・ステーションを作る計画はその後、今年に入ってからみたい」

「やっぱり今までと同じね。全部つながってるわ」
リンが言う。そして、「火事って、どんな様子なのかしら?」

「それがね、怖いのよ。普通、火事見つけたら、家のどっかから火が出てて、それがだんだん燃え広がる感じでしょ? それが違うのよ。突然家がブアーッて爆発するみたいに燃えて、だから中の人なんて逃げ出す間もなくて。ね、ね、普通じゃないでしょ?」

「その火事は夜に起こるの?」

ナギが確かめる。フロスは下顎に人差し指をあてて少し考えてから、

「夜が多いけど、昼間の場合もあるよ? そうそう、昼でも夜でも、その家の人がいる時に火事になってる。だから、」

たぶん狙われてるんだ、ううん、絶対狙われてるよねと、フロスは怯える仕草をした。

「どうしよう、リン」 ナギが不安の目をリンに向ける。

「……そうね、次に狙われそうな家はどこかわかるかしら?」

「ええー!? そ、そんな怖いこと、で、でもわからない。反対してる家はたくさんあるから、次に狙われるのなんて、みんな警戒してるし、わかんないよ!?」

リンは腕組みをして考える。モンスターがどこに現れるか、わからなければ退治もできない。

「すみません、基地をたてようとしてるばしょにいってみるというのはどうでしょうか?」

そう言ったのは、ルナだった。

「そうね。こちらから乗り込んだ方が早いわね。いいアイディアだわ、ルナ。でもその前に、」

みんなはリンの顔を見る。リンはナギの顔を見ている。

「ナギ、魔法の練習をするわよ。相手が火のモンスターだったら、火の魔法じゃ対抗できないわ」

ナギはくるんと目を丸くした。


喫茶店を出て少し行った公園に、他の木よりふたまわり大きな木があった。その木陰に、ナギ達がいる。
ベンチの上に水の入った紙コップが置かれ、離れたところにナギが魔壊銃ビューラを構えて立っている。その近くに木製のベンチとテーブルがあり、リンとルナ、フロスが座っている。しかしリンは既にバテているようだ。

「いいわよ、ナギ、撃ってみて」

テーブルの上にとろけながら、リンが言う。ナギは気持ちを集中して、ビューラを発射する。

命中。紙コップは吹っ飛び、中の水は飛び散りながらシャーベットになった。

「よかったわね、ナギ。海の家でバイトできるわよ」

リンは投げやりだ。ナギは泣きたくなった。

それからナギは、体力が減ってくるとルナに回復してもらいながら、二時間ほど練習した。練習の甲斐あって、どうにか水を凍らせるようにはなった。
ルナとフロスは拍手して喜び、リョータも嬉しそうにグルグル飛びまわったが、リンはとっくにのびて眠ってしまっていた。

「リン。ね、リン、起きて。なんとか氷になったよ」

「ふひぇ?」

「氷になったの。どうしよう。行く?」

「暑い。眠い。動きたくない。ナギ、おんぶ」

「もう、リン。こんなところで寝てたら干からびるからね」

「わかったわよ。あーもうやだ。さっさと片付けて涼しい国行くわよ。ポッキー忘れないでね、ポッキー」

リンはやけになって立ち上がった。


海まではピンセルの車でひとっ飛びだった。海岸まで来ると熱風はいくぶんやわらぎ、代わりに海風がリン達の鼻先をくすぐった。

まるで絵のような青空と、透明な海。駆けて行きたくなる水平線。波は穏やかで、白い砂を絶えず磨き続ける。ナギは使命を忘れて、波に素足を任せたくなった。

だが。

「リン」

「あれがそうね」

左に目を転ずると、美しい景色をぶった切るように鉄柵が組まれ、品のない重機がボタボタとのさばっている。

「ルナはピンと一緒にいるといいわ。危ないから」

「ボクなら平気です。リンさんとナギさんがあぶなくなったら、ボクが回復します」

「そう。じゃ、気をつけて」

ざく。ざく。砂を踏んで、三人は歩き出した。

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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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