第2話

文字数 2,210文字

卒業式の日には事前の予行練習の通りに卒業式を終えた。特に問題もなく終わり、意外と高校の卒業式はあっさり終えるもんだなと悟は思った。

卒業アルバムは卒業式前には配布されており、仲の良かった友達と寄せ書きを書きあったのもいい思い出だ。始にも寄せ書きを書いてもらった。
「いつかまた木漏れ日横丁の広場で会おう…始」と綺麗な字で書かれたメッセージだった。

悟も勿論始のアルバムに寄せ書きを書いた。
「また会おうな 悟」とちょっと大きい字で書いてた。

卒業式が終わり悟は友達と色々話していた。
どこの大学に行くとかどこに遊ぶ場所があるとか遊びに来いよとかだ。

ふと悟は教室内に始はもういないことに気づいた。

「どしたん?悟」
「いや始がいねえなと思ってさ」
「ああ、お前がよくつるんでたやつか」
「うん。あいつとも今まで一緒に遊んだし、話しておきたいなと思ってさ。俺ちょっとあいつ探してみるわ。じゃあな元気で。」
「おう。元気でいろな。」
挨拶をして話を切り上げると悟はそこら辺学校内を探した。教室にもいないし人がぞろぞろいる廊下でも始を見かけないようだった。
「どこいったんだ始。用がないから帰ったのか?」

結局校内は探し疲れて外に出た。
若干悟はもういいかなとか思い始めていた。
だがまあ最後ぐらい挨拶するのが義理だろうしと思い、内心いるかどうか定かではない木漏れ日横丁の広場の方へと向かっていた。

木漏れ日横丁の広場に向かうと、そこに始はいた。
「お前…探したんだぞ。学校出るの早すぎだろ」
「そう?用事ないからすぐ出た。」
「だろうなと思ったよ。」

「始さ、今回みたいなのまた会う時にさすがに困るから連絡先教えてくれ。今までお前の連絡先知らなかったし。」
「うんそうかもね。俺も悟にはまた会いたいから。」
悟と始は電話番号を交換した。
これで今度からは連絡出来る。

「悟にさ、俺伝えたいことあったんだ。」
「どうした、始。」
「俺あんたのこと」
「あっ俺もさ始に報告したいことあったんだよ。実はさ、今日彼女出来ちゃった俺。卒業式終わった後に廊下で偶然、気になってた子に会って告られてさ。これから付き合うことになった。」
「…へえそっか。…俺もあんたに伝えたいことあったんだ。あのさ、最後に悟の写真撮らせて欲しいんだ。このカエデの木の前で。」
「そんなん勿論だわ。」
悟は広場のカエデの木の前に立つ。
「いつも通りの表情してもらっていい?」
「これでいいか?」
「うん。俺、悟のその温かい表情、結構好きだった。」







・・・・・

卒業式の日が過ぎ、大学生になった後に悟は始と連絡をすることはなかった。
卒業式の日に出来た彼女とは大学生になってからもずっと続き、社会人になってから悟は彼女と結婚した。子供もいて息子が1人いる。

高校時代のアルバムを見返し昔の想い出を思い返しているうちに、机の上のスマホの音が鳴った。
久しぶりの旧友に会えるかもしれない緊張のために悟はキッチンに水を飲みに行っていたが今は戻ってきてスマホを手にしている。
「久しぶり。いいよ。」
「場所は木漏れ日横丁の広場でもいいか?」
「うん。今からでいい?」
「大丈夫」
既読がつくと悟はスマホを携帯し家を出た。



悟は木漏れ日横丁の広場に着いた。昔とあまり変わっていない景色は誇るべき美点だろう。季節はちょうど秋。赤く色づいたカエデの葉は特に綺麗で落葉して広場に散りばめられたカエデの葉を眺めるだけでも秋の色づきを感じることが出来る。

「昔はまるで良さが分からなかったが今見ると結構綺麗なもんだなこの広場の景色は。」

そこら辺散歩していると始から連絡が来た。
「今着いた。どこいる?」
「カエデの木のとこ」
既読が付きしばらくすると高校時代よりも大人びた始が悟の方へ歩いてきた。

「久しぶり悟。」
「よう久しぶり始」
久しぶりに会った分色んな話が弾む。
どこの大学に行ったとかどうしてただとかそんな話をした。

「俺今はカメラマンやってるんだ。色んな写真撮ってる。色んな場所と人撮っててさ。」
「そっか。昔から写真撮るの好きだったもんなお前。」
「うん。あとさ、俺も守るべき大切な家族が出来たんだ。奥さんと娘が1人。今の俺には何より大切だよ。」
「そうなのか。俺も奥さんと息子が1人いるんだ。卒業式に出来た彼女と結婚してさ。俺もサラリーマンとして働いて大切な家族守ってる。」
「そっか。」
「なあ今度家族連れて遊ばないか?この広場とかでも子供と奥さん連れてさ。」
「いいかもな。またここで遊ぶのも。」
「な!…ところで始はなんで俺の写真撮り始めたん?お前人には興味ないって言ってなかったっけ」
「…いいんだよ悟。それは昔のことだから。けど今また悟の写真撮りたいんだけどいいか?久しぶりに。」
「おういいぜ勿論。」
すると始は悟に対して広場のカエデの木の前に立ってくれと指示をした。
「ここでいいか。」
「うん。でさいつも通りの表情してもらっていい?」
「今日の気分の表情だっけか。」
「うん。」
悟はひとまずニカッと笑った。始はそれをパシャパシャと取り始める。
そこには大人びたけども昔と変わらない悟の表情があった。


「俺さやっぱ、悟の昔と変わらない温かい表情が今でもいいと思ったわ。」





end.
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