第6話 夢かうつつか……影の正体とは

エピソード文字数 1,233文字

「どうやら現実のようだな」
 立ち上がった小鳥遊が、低く響く声で宣言した。どこか、楽しんでいるようにも聞こえる。お武家さまは、余裕だねと八っつあんは心につぶやいた。
 影が、にゃーおと鳴いた。その影を、ひょいとつかまえる小鳥遊。影の首根っこを持ち上げて、小鳥遊はシゲシゲとお腹を確認した。

 見ると影は背後にもう一つ、影を従えていた。小鳥遊は、一匹のそれを右手に持ち、さらにもう一つの影を左手で持ち上げる。だらーんと伸びた腹を確認。なるほどなるほど、とひとり頷いている。
「猫だな。シッポが二つある猫だ」
 小鳥遊は、笑いを含んだ声で言った。
「ねこ、ねこ? ねこですか?」
 八っつあんは、信じられない思いで、こだまのように繰り返した。
「そうだ。猫だ。正真正銘の猫だ」

「しかしシッポが二つとは……。それに、モノを直す猫なんて聞いたことがありませんや」
 おっかなびっくり、八っつあんが、行灯の灯を持って行くと、その影の姿がハッキリ見えた。それは黒と白の二匹の猫で、シッポが二股に分かれていた。しかも二本足で立っていた。
「あやかしだ」
 小鳥遊は、落ち着いた口調である。八っつあんは、背筋がゾッとした。
「あ、あやかしぃ?」

夫婦(めおと)妖怪だな」
「妖怪の、夫婦(めおと)ぉ?!」
 腰を抜かさんばかりに驚く八っつあん。
「そうだ。黒がオス、白がメスだ」

 小鳥遊は、畳に猫を二匹とも置いた。
 トメは手を拍った。ニッコリと笑い、
「それじゃあ、煮干しのひとつもあげましょうかねえ」嬉しそうにかいがいしく、(くりや)のほうへと降りていく。頭が半分あっちに行っているので、こんなみょうな事件にもなじみやすいのだろうか。

 小鳥遊を驚かせるものは、なにもないらしい。侍は、もう一度確認しようと、黒猫あやかしに近づいた。
 ピキーッ!
 黒猫が、ツメを出して小鳥遊に飛びかかった。小鳥遊は、ツメの直撃を顔面に受け、三筋の血の跡ができた。

「なかなか、元気がよい」
 傷を拭こうともせず、小鳥遊は、落ち着き払っている。顔が少々、ひきつっている。トメがやってきて、煮干しをパラパラ落としてやっている。白猫あやかしが、ヒクヒク鼻をさせながら、煮干しに近づいている。
「いい子だねえ。にゃあ、にゃあ」

 トメが、ちょっちょっと舌を打った。
「猫砂や猫草も用意しなきゃ。おまえさん、なんて可愛いんでしょ、いい子ねえ」
 完全に、気に入っている。
「どうやら、猫のあやかしが、我らの元へやってきたようだ」
 小鳥遊は、冷静に解説した。

 「な、そりゃどういうこって?」
 八っつあんは、おびえている。小鳥遊は、じっくりと妖怪を検分している。フーっと猫のあやかしが応える。
「我々をずっと見守っていて、助けに来てくれたのだ。きっと彼らは、神の使いだ」
「う、うそでしょ。妖怪が神の使いだなんて。とんだ厄介者ですよ」
 八っつあんは、泣きべそをかいていた。
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