最終話 大団円?

文字数 837文字

「どうした?」
 寝ぼけ(まなこ)で尋ねると
「交尾がしたい」
 という。一気に目が覚めた。ありえない。
 十文字が抵抗すると諦めるが、その攻防は何度も繰り返された。
 一緒に寝ていた緑と琥珀まで
「銀だけ、ずるい」
 などというので心底困り果てた。
 どうやら十文字は三人から虎視眈々と狙われていたらしい。もの好きな、と思うが、そもそも相手は人間ではない。
 銀を(なじ)りつつも琥珀は、
「狼の習性だから仕方ないのはわかるけど」
 と一定の理解を示した。
 狼は人間と同じく一夫一妻制らしい。

 ある夜、またもや交尾に失敗した銀があまりに辛そうだったため、十文字が宥めていると
「この程度は耐えられる」
 と強がりをいう。
「あのときは我慢できなかった。同じ過ちは繰り返さない」
「あのとき?」
「おまえはまだ小さかった。かわいくて仕方なくて、じゃれつくうちに衝動が抑えきれなくなって」
 おまえを食い殺した、と。
 恐ろしい告白をされた。

 聞くと、緑と琥珀のときも、当時の十文字はこどもで、彼女たちを助けようとして命を落としたのだという。
 無事におとなに成長したのは今生がはじめてらしい。
 そうなのか、と思うが、なにしろ覚えていないので実感などはなく。

 ほどなく、緑と琥珀の収入源が明らかになる。
 緑は手先の器用さを発揮してハンドメイド作家としてSNSで人気になりメディアに取り上げられ、琥珀は美しい歌声を動画配信したところ爆発的に人気が出てファンがついたのだという。
 (二人とも、おれより遥かに人間界に馴染んでないか?)

 銀は……どこでなにをしているのか聞きたくない。無造作に大金を持ち帰ってきては十文字に押しつけようとする。怖すぎる。
 おまけに緑と琥珀まで、
「あたしたちが稼ぐから、あなたは好きなことをして暮らせばいいわ」
 などといいだす始末。
「とりあえず引っ越しましょ。手配はしておくから」
 との申し出に同意せざるを得なくなったのは、このアパートがペット禁止の物件だからだ。

 来月には新天地での四人の暮らしが始まる。
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