1 ✿ 此花、泣く

エピソード文字数 1,192文字



 病室へ戻ると、窓の外で雨が降っていた。

「ではではっ。私このへんでお暇します。咲良は?」
「私も、そろそろ帰るわ。理々は傘持っている?」
「持っているよ」

 理々はカバンから折りたたみ傘を取り出した。
 咲良もカバンから傘を出してみせる。
 二人はいっしょに病院を出て、駅へ向かった。

「じゃぁ、また学校で」
「今日はありがとう。またね」

 改札をくぐったところで、理々へ手を振り、駅のホームに立つ。
 間もなくやってきた電車に乗った。



 ガタタンゴトトン

 咲良は電車に揺られるのが好きだ。
 目をしばらく閉じて、開けたら景色が変わっていて――それは当たり前のことだが――〝もしこの電車に魔法がかかっていたら、次の駅は不思議の町だったりして〟と幼い頃の想像がよみがえる。座席に背をもたれ、目を閉じる。この電車に魔法がかかったら自分の行きたい場所へ連れて行ってくれるだろうか。自分が行きたい場所はどこだろうか。

 アナウンスが次の駅の名を読み上げ停車する。
 黒いコートを着たビジネスマンが電車へ乗り込むと、咲良はその中にジョンの姿を探してしまった。
 視線を膝に落とす。
 ジョンは帰ってしまったのに、彼のいない街で彼を探してしまうのはなぜだろう。
 彼に親愛以上の気持ちを抱いていた。
 それを認めてしまったら、もっと苦しくなる。

 咲良の住む町の名が呼ばれると救われた心地がした。
 あるべき日常へ戻るだけだ。
 彼と別れた今、このつらい感情を早く、優しい思い出に変えてしまいたかった。思い出になればこの気持ちもほどかれるだろう。

 歩調を速め、駅の玄関へ向かった。
 傘の留め紐を外した時、雨粒をまとった向かい風が中へ吹きこんだ。
 駅の玄関脇に植えられた桜が、雨風にあおられ、ハートの花びらを散らす。



 散る花びらが、泣いているように思えた。
 彼との別れに、切ない感情を抱いているからだ。
 咲良にとって、ジョンはどんな存在だったろう。

ジョンのことが…」

 好き、と告げることができずに、別れてしまった。

 咲いた感情に花散らしの雨が降る。
 それとも此花(このはな)は、自分のかわりに泣いてくれているのだろうか。
 咲良は傘で、涙の伝う頬をかくす。


 いつか教室で見た夢で、雨に打たれる咲良に彼は傘をさしてくれた。
 けれどもそれは幻で、魔法のさめた現実に傘の下には咲良一人であった。
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登場人物紹介

帯刀 咲良(たてわき・さら)


高校2年生の、剣道少女。
ドールオタク(俗にいう、シルバニアン)

ジョン・リンデン


インターポールの捜査官。
所属は、IWCI(INTERPOL Wizard Complex for Innovation)


天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生の、合気道少女。
アニオタ。

ラルフ・ローゼンクランツ


インターポールの捜査官。
IWCIのリーダー

マリー・ローゼンクランツ


ラルフのイトコ。

絵画修復士になるためにイタリアの大学で学んでいたが、行方不明になる。

マルコ・ローリエ


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

イタリア人。お菓子が大好き。

レイ・マグノリア


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

フランス人。透視能力者。

鞍馬 勝(くらま・まさる)


警視庁特殊科の捜査官。

日本の魔法使い。忍者。

ブレイク・アンショー


赤の国際手配書が出された犯罪者。

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