第1話 お嬢さま、アキバに立つ
文字数 1,577文字
日本中の、いや、世界中の『好き』が集まる町――。
秋葉原駅のほど近く。
黒塗りのリムジンが、なめらかな動きで路肩に停車した。
かたわらに佇む女性が、落ち着いた声で応える。
「む~」と、謎のうめき声とともに、蘭子は両手をヨド■■カメラに突き出す。
妙な仕草の蘭子。
かかげた両手を、自分のあたまにたぐり寄せるようにして仰ぐ。
リムジンの運転席から、若い男が下りてくる。
寝具堂家の執事兼運転手――
蘭子は、くるりと振り返り、
彼女の手には、自家製のパンフレットが握られている。
しずかは、長いひものついたがま口の財布を蘭子の首にかけてやる。
蘭子は、都会の街並みの、その先を指でさす。
びしり! と。
そう、この道の先には、彼女お目当ての『メイド喫茶』があるのだ。
二人の声が聞こえているのかいないのか、蘭子お嬢さまは、ウキウキとした足取りで秋葉原の道を進んでいくのだった。